第85話:麗華所長と一緒にアイスを食べる
◆◆◆◆◆
<凛太side>
コンビニで、自分の分と神宮寺所長、二人分のアイスを買ってホテルに戻った。
部屋に入った瞬間、一人がけのソファに座っている所長のガウン姿が目に飛び込んできた。
「あら、おかえり平林君」
「あ、ただいまです」
──うわ。
厚手とは言うものの、風呂上がりの美人のガウン姿にドキリとした。
鎖骨から胸元への白い肌。胸の谷間こそは見えていないけど、それでも充分セクシーだ。
脚は普段見ているスーツスカートと変わりない範囲しか見えていない。だけどガウンの裾から伸びる長い脚は、これまたとんでもなくセクシー。
いかん。ヤバい。これは目の毒すぎる。
そう思って所長の身体から視線を外して顔を見た。
──あれ?
風呂上がりでスッピン……のはずだよな。
確かにいつものメイクをしている顔よりは、顔つきは薄く見える。だけど、それでも驚くほど綺麗だ。
目ははっきりとした二重だし、まつ毛も長い。唇もピンク色で艶々と輝いている。鼻筋も綺麗だし、ホントにモデルのよう。
まるでナチュラルメイクをしてるかのように感じる。
「どうしたの平林君。なにか顔に付いてる?」
「あ、いえ。すみません見つめちゃって。所長ってホント美人だなぁって、ついつい見てしまいました」
──あ、いかん。
美人だなんて言ってしまったけど、女性上司に向かって見た目を話題にするなんていけないよな。
所長があまりに綺麗だったもんで、ついつい言っちゃったよ。
今さら違いますだなんて、失礼だから言えない。
仕方がない。
イヤらしい気持ちじゃなくて、客観的に見て素直にそう思ったっていう態度でいよう。
「あらあら。お世辞を言っても、ボーナス査定の上積みはしないわよ」
「お世辞じゃないですよ。ホントにそう思いました」
「そう? ありがとう平林君」
所長は優しく目を細めた。
特に不快には思われてなさそうだ。
素直に喜んでくれているのが伝わってきてホッとする。
それにしてもやっぱり所長ってすごいな。
美人と言われて喜ぶ姿に、まったく嫌味がない。偉そうにも鼻につく感じもまったくない。
人によっては、俺に下心があるのかと怪訝な顔をすることもあるだろう。だけど所長は俺を心から信用してくれてるから、素直に喜んでくれているんだろう。
もちろん俺には下心なんてまったくないけど。
部下の男性とホテルの部屋で二人きり。
そんな状況でも冷静に、そして優しく接してくれる神宮寺所長ってホントに大人だな。
そして──とても素敵な人だ。
俺は心からそう思った。
「所長。これアイスです」
「ありがとう。一緒に食べよっか」
「あ、はい。そうですね」
俺は袋の中から『ボリボリ君』というソーダ味のアイスを取り出して、所長に手渡した。
「なにコレ?」
「ボリボリとかじれるアイスキャンデーですよ。だから『ボリボリ君』。俺、これ大好きなんです」
「へぇ」
所長は片手を口に当ててクスリと笑った。
「え? おかしいですか?」
「うん。パッケージが子供向けみたいなアイスだし、嬉しそうな平林君もまるで子供みたいな笑顔なんだもん」
「あ……そ、そうですか? すみません」
「謝ることないわ。悪口じゃなくてね、天真爛漫で可愛いって褒めてるの」
「か、可愛い……ですか?」
あ~あ。子供扱いされちゃったよ。
やっぱり所長から見たら、俺って子供みたいなもんなんだろうな。
「あ、ごめん。それも悪い意味じゃないから」
「あ、はい。ありがとうございます」
ちょっとムズムズするような照れ臭い雰囲気。
だから俺は照れ隠しもあって、急いでアイスを食べた。
「ご馳走さま。平林君もシャワー浴びといで」
「はい、ありがとうございます」
二人ともアイスを食べ終わって、所長はそう言ってくれた。俺も色々と緊張することもあって汗だくだ。
こんな汗臭いまま密室にいるのは失礼だし、素直にシャワーを浴びることにした。
***
<麗華side>
──うっわ、ドキドキした! 平林君が部屋に入ってきて、私の身体や顔に熱い視線を向けるんだもん。
凛太がバスルームに行った途端、麗華は大きく息を吐いた。
凛太の前では無理矢理冷静なフリを装っていた。しかしもう限界だと感じて、凛太に風呂に行くように促したのだった。
「ああ、緊張で喉がカラカラ」
コンビニで買っておいた缶チューハイを袋から取り出して、プシュと蓋を開けた。
ベッドの端に座って、グビリと喉に流し込む。
喉の渇きが癒されていくのが心地いい。
そのまま、あっという間に一缶を飲み干してしまった。まだ足りないと、もう一缶の蓋を開ける。
「平林君たら。『ホントに美人だ』なんて言ってくれちゃって……うふふ」
小さな声で呟きながら、知らず知らずのうちに頬が緩む。そしてカッカと顔も身体も熱くなる。
それを冷ますために、またチューハイを口にした。
アイスのことを語る凛太は、ホントに子供みたいに無邪気で可愛かったなぁ──なんて思い出すと、さらに顔が熱くなる。
麗華は今まで、進学校から東大に進学した後も、社会人になってからも、肩肘張って男性と競い合ってきた。
その中で優秀な男はたくさんいたし、学生時代には付き合った男性もいる。
しかし凛太のように、自分のことよりも周りのことに熱心になる人はほとんどいなかった。
しかも頼りになって、ちゃんと結果も出す。
そんな男性はまったくいなかった……
そんなふうに凛太のことに想いを巡らせると、なぜか鼓動が高まる。そしてまた顔が熱くなってくるのを感じた。
──あ、ダメよ私。
部下である凛太のことを、そんなふうに思ってはいけない。
ちょっと冷静にならなきゃ。
そう思って火照りを冷ますために、麗華はまたチューハイをグイっと飲んだ。
あっという間にチューハイの缶は空になった。そして気がついたら、凛太のために買ったはずのビールまでも飲み干してしまっていた。
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