リデルのきもち

 一日滞在したが、村に何かが訪れるなんてことはなかった。

 あと二日滞在し、魔人が現れなければ次の村へ。

 エステリーゼたちは村の集会所を宿に使い、アルベロたちは村の空き家を一軒使わせてもらった。

 空き家は女子たちが泊り、アルベロとキッドは外でテント……ぶっちゃけ、野営と変わりない。


 エステリーゼたちは、集会所内で会議ばかりしており、村の警戒や警備などは全てアルベロたちの仕事になっていた。フギルは申し訳なさそうにしていたが、オズワルドとエステリーゼに逆らえるわけもなく……それに、フギル自身も、エステリーゼたちの身の回りの世話で忙しかった。

 ヨルハも会議に混ざるのかと思いきや……サンバルトが拒否。ヨルハはS級召喚士の一人という扱いで、王族という立場ではなくなっていた。


 それからさらに一日。

 リデルは警備がてら村を回っていると、十歳ほどの子供たちが集まって遊んでいる光景を見た。

 男の子たちは棒を振って剣士の真似事をし、女の子たちは自信の召喚獣を傍に置き、楽しそうに話をしている。

 微笑ましい光景に、少しだけ寄り道をした。


「こんにちは。みんな、なにしてるのかな?」

「あ!! カッコいい人たちだ!!」

「わぁ、おねーさんカッコいいー!!」


 男の子たちは棒を持ったまま、女の子たちは召喚獣を抱っこしながらリデルの元へ。

 リデルは『カッコいい』に照れつつも、大人の対応をする。


「あはは。ありがとね。あら、かわいい召喚獣だねぇ」

「えへへー」


 女の子たちは、小さな『幼体』の召喚獣を抱えていた。

 召喚獣は、本人の成長に伴い大きくなる。アーシェのグリフォンも最初は小鳥のようなサイズで、成長と共に人を乗せられるほどの大きさになった。

 だが、成長しない個体もいる。それが『愛玩型』といい、小規模の、あまり役に立たない能力しか持たない『ハズレ召喚獣』と呼ばれている。

 女の子たちは、小鳥や子犬、子猫やイタチみたいな小さな召喚獣を抱えていた。これが『愛玩型』なのか、成長する個体なのかは、まだわからない。


「この子、モモコっていうの」

「わたしのはアミー」

「えへへ、ポポンっていうんだー」


 子供たちは、召喚獣を見せてくれる。

 リデルは一匹ずつ、丁寧に撫でた……どれもふわふわで可愛い。

 すると、男の子たちは。


「ねーちゃん!! アースガルズ王国からきたすっげぇ強い召喚士なんだろ!! おれに稽古つけてくれよ!!」

「あ、ずりー!! おれだって!!」

「おれもおれも!!」

「わわ。あはは……きみたち、強くなりたいの?」

「「「おう!!」」」


 男の子たちは、木の棒を掲げて同時に言った。

 男の子だなぁ……と、リデルはくすっと笑う。


「おれの召喚獣、すげーんだぞ!!」

「おれだって!! こい!!」

「おれも!!」


 男の子たちは剣を、槍を、双剣を召喚した。

 立派な装飾の施された『装備型』の召喚獣だが、子供が扱うには大変だろう。

 だから、木の棒で訓練しているのだ。


「おれ、大きくなったらアースガルズ王国の兵士になる!!」

「おれも!!」

「おれは『むしゃしゅぎょー?』の旅に出る!!」

「…………うん」


 リデルには、弟と妹がいた。

 弟の召喚獣は、短剣だった。

 父は『立派な戦士になれる』と言っていたが、弟は笑って『ぼく、おとうさんみたいになりたい』と言っていたのを思い出した。妹も、それを聞いて笑っていたのがつい最近のように思えた。


「みんな。強くなりたい?」

「「「うん!!」」」

「じゃあ……約束。その強さは、誰かを守るために振るう力だってことを忘れないで。人を傷つけるんじゃない。守るための力だって」


 そう言って、リデルは女の子たちを見た。

 男の子たちも女の子たちを見て、少し照れている。


「アタシの力は、大事な物を守れなかったから手に入った力なの。だから……っと、難しい話だよね」

「よくわかんないけど、ねーちゃんカッコいいぞ!」

「うんうん。おねーさんカッコいいよ!」

「あ、ありがと……」

「ねぇねぇ、おねーさんの召喚獣見せて!」

「えぇ~?……ま、まぁ少しだけなら」


 子供たちのキラキラした目が眩しく、リデルは仕方なく構えを取る。


「奔れ───『レッドクイーン』!!」


 リデルの両足が赤く、鋼のように変わる。

 装甲が開き、バネが伸縮し歯車が噛みあい回転する。そして細いコードからパチパチ電気が弾け、細いチューブに液体が流れていく。伸縮する鉄骨が『キュイーン』と音を立て、プシューっと蒸気が出た。


「「「「「「おぉぉぉーーーッ!!!」」」」」」


 子供たちが興奮し、リデルの両足を見ようと近づいてきた。


「かっけぇ!!」

「さ、さわっていいー?」

「おねーさんすごい!」

「わぁ~……!!」

「これ、なに型なの?」

「硬そう!!」


 子供たちの興奮は、しばらく続いた。


 ◇◇◇◇◇◇


 結局。魔人は現れなかった。

 出発の準備を終え、村の入口でオズワルドたちが村長と話をしている。

 アルベロたちも、馬車に乗り込んで出発を待った。

 すると、子供たちが。


「「「「「「おねーさん、またきてねー!!!」」」」」」


 アルベロたちの馬車に向かって、子供たちが手を振っていた。

 アルベロは馬車の窓を開けた。


「なんだ?……おねーさん? アーシェか?」

「違うし。リデルでしょ?」

「うん。ちょっといい?」


 リデルはアルベロと場所を交代し、子供たちに手を振る。

 すると、子供の一人が馬車に近づいてきた。


「おねーさん、これあげる!」

「え?……」

「えへへ。かっこいいおねーさんの絵!」


 それは、リデルと思わしき少女が書かれた絵だった。

 両足が赤く、構えを取ったポーズだ。

 

「…………ありがとう」

「うん!! おねーさん、またね!!」

「うん。また」


 そして、馬車は出発した。

 リデルはもらった絵を眺めながら、今にも零れそうな涙をぬぐう。


「えへへ……なんか、うれしいや」

「お前、あのガキどもに何やったんだ?」

「ガキって言うな!! あの子たちに、ちょっとカッコいい姿見せただけ」

「……?」


 キッドは首を傾げた。

 アルベロたちも顔を見合わせ首を傾げる。

 リデルは、もらった絵を丁寧に包み、くろぴよに頼んで収納した。


「アタシ、またこの村に来よう。ふふ、なんだか楽しくなってきたかも」


 そう言って、リデルは馬車の窓から、遠ざかる村を見て微笑んでいた。


 ◇◇◇◇◇◇




 だが、リデルの願いは永遠に叶うことはない。

 なぜなら───村は、アルベロたちが出発した三日後に滅ぼされた。

 全てが燃え尽き、住人は骨すら残らなかったそうだ。

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