またもや売った喧嘩

「───で、生徒会、あと先生に喧嘩売ったと」

「…………ま、まぁ」

「はぁ……あんたね、考えなしに喧嘩売りすぎ!」


 寮に戻ったアルベロは、ヨルハに「何をお話したんですか?」と聞かれ挙動不審に。そこを訝しんだアーシェに根掘り葉掘り質問され、全てを話した。

 ちなみにカード勝負は終わり、キッドが大負けして部屋に引っ込んでいるらしい。ここにいるのは全員女子だが、アルベロは特に気にしていない。

 ヨルハは少し考えた。


「……公開模擬戦、というのもありですね」

「は?」

「公開、模擬戦?」


 アルベロが聞き返し、リデルが首を傾げた。

 ヨルハは、ニヤリと笑う。


「せっかくですので、A級召喚士こそが最上格だと思っているヒトたちにわからせちゃいますか。各新聞社や貴族を招待して、A級召喚士とS級召喚士のバトルを見せるんです。S級召喚士は寄生型の三人、A級召喚士はお兄様含む学園最強の八人、『アースガルズ・エイトラウンズ』という恥ずかしい名称の生徒会役員」

「は、恥ずかしい名称……」


 ラピスはクスっと笑った。アルベロたちは嗤わなかったが。

 そして、リデルが「……え?」と言う。


「ちょ、寄生型の三人って、アタシも!?」

「もちろん。正直な意見で申し訳ありませんが……アーシェやラピスでは、まだお兄様たちには敵わないかと思われます。なので、魔人と近接戦闘で生き抜いたお三方に戦っていただこうかと」

「まま、待った! アタシまだ訓練始めたばっかりだし! それに『兵装』だって四種類しか使えないし!」

「十分です。というか……あんな凶悪な『能力』はそうありません。むしろ言わせてください。戦う場合、手加減して殺さないように」

「え、えぇ~……? キッドとアルベロだけでいいんじゃ……」


 リデルはまだ自信がないようだ。

 だが、アルベロたちは知っている。訓練で最も伸びているのは、間違いなくリデルだ。

 鋼の足を自在に組み替え武器とする『兵装』は、最初こそ一種の変形しかできなかったが、今は四種の形態を獲得している。

 アルベロは、リデルを安心させるように言う。


「ま、気楽にやろうぜ。リデルは新しい兵装の実験。俺も新しく獲得した『完全侵食エヴォリューション』の実験したい」

「じ、実験……う~、わかった」

「では、決まりですわね。よし、準備はわたしにお任せください」


 ヨルハはドンと胸を叩く……とてもやる気になっているようだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 数日後。

 生徒会からの呼び出しも特になく、アルベロたち(ヨルハ含む)は通常授業、そして訓練を行っていた。

 変わったことと言えば、訓練をのぞき見する連中が増えたことだ。さらに、アーシェたちなどが購買に行くと、B級の連中が声を掛けてくるようになった。

 内容は同じ。『S級ってどんなところ?』や『S級に入りたい』などだ。

 アーシェは『A級になってからね』と言ってはぐらかしたり、キッドに話しかけて殺されそうになった奴もいたり、鬱陶しいことも増えた。

 アルベロは、授業の休み時間にオレンジジュースを飲みながらキッドに言う。


「最初は馬鹿にしてたのに、今じゃ『どうやったらS級になれる?』だとさ」

「フン。馬鹿の相手なんかしてる暇はねぇよ。それより……模擬戦、まだか? けっこうストレス溜まってるんでな、憂さ晴らししてぇんだよ」

「お前、ホントに殺すなよ……?」

「フン……『色欲』も現れず、カード勝負は負けっぱなし、イライラだってする」

「カード勝負はお前が弱いだけだろ」

「うるさい」


 すると、リデルが混ざる。


「はぁ……模擬戦、やりたくないなぁ」

「お前、まだそんなこと言ってんのかよ」

「だってぇ……アタシ、キッドみたいに戦い好きじゃないし」

「フン、お前は強いんだ。自信持てよ」

「ん……」


 キッドとリデル。

 なかなか相性がいいのか、キッドもリデルによくアドバイスをしている。

 アルベロは二人を交互に見て、なんとなく笑った。


「なぁ、模擬戦に向けて連携訓練しようぜ」

「いらねーよ。お前とリデルが派手に暴れる、オレが撃ちまくる。それでいい」

「簡単っ……ねぇアルベロ、それでいいの?」

「んー……まぁ、いいかな。ダモクレス先生とヴィーナス先生を同時に相手して一本取れるまで、そのがむしゃら作戦でやってみるか」

「うぅ……殴られると痛いんだよね」


 三人の『寄生型』は、どこか楽し気だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 さらに数日後。

 授業、訓練が終わり放課後。寮に戻って夕食を終え、夕食後のお茶を飲んでいるとヨルハが言った。


「模擬戦の日程、さっき決まったから」


 いきなりだった。

 授業中も普通だった。放課後どこかに出かけたようだが。

 すると、キッドが紅茶のカップを置いて笑う。


「ようやくか」

「ええ。三対十の模擬戦ね。アルベロ対A級四人、キッド対A級三人、リデル対A級三人の模擬戦よ。場所はB級演習場、試合当日は『タワー』のグレイ教授が演習場を保護するから、全力で暴れていいってさ」

「待った待った待った!! 三対一!? あ、アタシのことなんだと思ってんの!?」


 リデルが慌てたが、ヨルハはあっさり言う。


「リデル、自信持ちなさい。あんたは強い。いいかげん自分を弱く思うのはやめなさい」

「で、でも……」

「戦えばわかる。あんたは強いわよ」

「う……」

「それとアルベロ。あんたの相手だけど」

「…………」


 なんとなく、予感はしていた。

 アルベロの表情で察したのか、ヨルハはうんと頷く。


「相手は、A級召喚士エステリーゼ、お兄様ことサンバルト、教師オズワルド、そしてB級召喚士ラシルドよ。完膚なきまで叩きのめしなさい」

「ああ。そろそろ思い知らせてやる……」


 アルベロは、不敵な笑みを浮かべていた。

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