呼び出し再び

 ある日、S級寮に一人のB級召喚士が来た。

 ドアがノックされ、ラピスが「はーい」と返事をするとゆっくり開かれる。

 そこにいたのは、B級召喚士のグリッツだった。


「え、S級召喚士アルベロ・ラッシュアウト。えっと……せ、生徒会長とオズワルド先生がお呼びです。その、本校舎にある上級会議室までお越しください」

「はぁ?……また呼び出しかよ。めんどくせぇ」

「あ、グリッツ。なんか久しぶり」

「おい!! 呼び出しなんかシカトしろ!! テメェ……逃げるなんて許さねぇからな!!」


 キッドが叫ぶと、グリッツは「ひぃっ」と小声で叫んだ。

 現在、アルベロたちは談話室でカード勝負をしている。キッドは連敗を重ね、一人熱くなっていた。

 ちなみに、トップはヨルハ。次にラピス、三番目にアルベロだ。アーシェとリデルの順番が入れ替わり、ドベはキッドだ。

 ニスロクは途中で寝てしまうので一回プレイして床で昼寝。レイヴィニアはルールを覚えきれず、アルベロの背中にじゃれついていた。

 ヨルハは、カードを弄びながら言う。


「呼び出しねぇ……たぶん、碌なことにならないわよ?」

「知るか。それに、オズワルド……あいつには聞きたいことがある」

「……喧嘩は駄目よ? いくらあなたがS級でも、教師に手を上がればそこで終わり」

「わかってる」


 アルベロはカードをレイヴィニアに渡す。


「お、うちがやっていいのか?」

「ああ。俺の代わりに入れ」

「よーっし! ずっと見てたからルールはだいたい覚えたぞ! むふふ、うちが負けるなんてあり得ないのだ!」

「おいテメェ!! 逃げんなっぶふぇ!?」


 リデルの肘がキッドの腹に入った。


「じゃ、気を付けてね」

「お、おう……リデル、キッドに厳しくなってね?」

「そうかな? ほら、お迎えが待ってるよ」

「ああ。着替えてくる」


 アルベロはS級制服に着替えに自室へ。談話室に戻るとカード勝負は再開していた。


「よっしゃ一抜け!」

「アーシェが一抜けですね。よーし、私も負けません!」

「あ、アタシだって!」

「ふふふ。たまには花を持たせてあげましょうか。わたしの独壇場というのもつまらないですしねぇ?」

「うちだって負けないし!」

「おめぇら黙ってやれ!! この野郎どもが……!!」

「ぐぅぅ~~~……」


 カード勝負は白熱しているようだ。

 そして、すっかり忘れられているグリッツの元へ。


「じゃ、行くか」

「は、はい……」

「で、どこだっけ?」

「……本校舎の上級会議室」

「わかった」


 ちなみに、アルベロはグリッツのことを全く覚えていなかった。


 ◇◇◇◇◇◇


 本校舎にある上級会議室は、まるで裁判所のような場所だった。

 中央に教卓のような台があり、それを囲むようにテーブルが並んでいる。

 アルベロが会議室に入ると、すでに生徒会長と生徒会役員が大勢座っていた。


「ん?……あれって確か」


 エステリーゼの隣に、見覚えのある男が座っていた。

 そして、思い出す。それがヨルハの兄であるサンバルトだと。なぜここにいるのか不明だが、めんどうなことになりそうな気がした。

 アルベロは面倒臭そうに、グリッツに案内された教卓の前へ。

 何も悪いことをしていないのに、裁判を受ける犯罪者のようだった。

 

「さて、始めようか」

「何を?」

「アルベロ・ラッシュアウト。きみに聞きたいことがある」


 オズワルドは、アルベロの疑問を無視した。

 

「きみに、生徒会侮辱罪の容疑がかかっている」

「ぶっ……せ、生徒会、侮辱? なにそれ、なんの罪だよ……いや、無理あるわ」

「……記者会見。貴様、生徒会を侮辱したな?」

「侮辱? いや、事実を言っただけですよ。F級を見殺しにしてアベルの戦闘データを引き出し、A級とB級だけで討伐する作戦だった、違いますか?」

「今問題なのは、貴様がA級を、生徒会を、B級を、記者会見で侮辱したことだ!!」

「文句あるなら新聞社にでも言えばいいじゃないですか。俺は事実を言っただけ」

「それが事実という証拠がない!! 憶測だけでものを語り生徒を侮辱する貴様を、生徒会と教師陣は許すことはできない!!」

「へぇ……まぁどうでもいいですよ。証拠もなにも、事実だし。それに俺、A級だのB級だの興味ありません。生徒会も興味ないし、教師陣?がどう思ってようと関係ないですし」

「貴様……!!」

「あの、先生。俺も質問いいですか?」


 ゾワリと、上級会議室内にアルベロの殺気が充満した。


「F級を見殺しにするようにそいつらに命じたの、あんたか?」

「…………なんのことかな」

「一応伝えておく。F級を見殺しにするように命じた教師を見つけたら拘束、財産没収、爵位没収処分するってさ。前途ある若者の命をゴミのように扱った罪で処刑だって。罪状は……あー、『前途ある若者を見殺しにした罪』かな?」

「なっ……そ、そんな罪状」

「無理あるよなぁ? ははは、生徒会侮辱罪といい勝負だわ」

「き、貴様……ええい!!」


 オズワルドは立ち上がり、アルベロに向かって手袋を投げつけた。


「決闘だ!! 生徒会侮辱罪、教師侮辱罪、そして私を陥れようとする脅迫罪だ!! 貴様を直々に断罪してやる!! 決闘を受けろ、アルベロ・ラッシュアウト!!」

「あっはっは。無茶苦茶だな、呂律おかしいですよ? まぁ、決闘は受けて立ちますよ」


 アルベロは手袋を拾う。

 そして、上級会議室全体を見回した。


「先生一人じゃ十秒で終わっちまうし……何なら、生徒会役員全員でかかってこいよ。俺も試したいことがあるし、いい練習相手になりそうだ」

「貴様ァァァァァァ!!」


 キレたオズワルドが叫ぶ。だがアルベロはそれを受け流した。

 エステリーゼとラシルド、サンバルト、レイブン、そして生徒会役員が立ちあがる。

 エステリーゼは、怒りに震えていた。


「貴様、あまり我らを舐めるなよ……決闘、望むところだ。その自信、砕いてやろう」

「無視していた弟にボコられる姉、新聞社が喜びそうなネタだな、おい」


 こうして、アルベロは勢いで生徒会……そしてオズワルドに喧嘩を売った。

 誤解のないようにもう一度言っておく。

 アルベロは、後先考えず勢いだけで物を言い、勢いだけで喧嘩を売った。

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