入学前の夜
採寸の翌日、制服が届いた。
木箱に男女混合で一纏めにして寮の玄関に置かれていた。いくらなんでも扱いがぞんざいすぎるとラッツが怒ったが、アルベロは特に気にしていなかった。
アルベロはマーロンと木箱を食堂内に運び、蓋を開ける。
いつの間にか寮生が揃っていた。なぜかアルベロが名前を呼び、一人ずつ制服を渡す。
「ほれ、ラッツ」
「おう。ちくしょう、どこまでも馬鹿にしやがって……」
「ハウル」
「ああ、ありがとな」
「マーロン」
「あ、ありがと……」
男子はけっこう怒っていたが、女子はそれほどでもない。
布に包まれているとは言え、女子の制服に触れることにやや抵抗があった。だが、特に女子が前に出て配るということはなかったので、アルベロが渡す。
何人か女子の制服を渡し、次の女子へ。
「えーと、ミリッツさん」
「ん、どーも。ラッシュアウト家の四男さん」
「……」
「あら、気に障った? ごめんなさいね」
ミリッツ。なぜか彼女はアルベロがラッシュアウト家と知ると嫌味なことを言う。
特に気にならないが、いい気はしない。なので無視した。
「次は……ラビィ」
「あ、はい……ありがとう」
「あ、ああ」
おっとりとした女の子であるラビィは、柔らかな笑みをアルベロへ向けた。
その笑みが可愛らしく、ついつい目を反らすアルベロ。
制服を配り終え、最後に残った制服を取る。
そこには、『アルベロ・ラッシュアウト』と名前が書かれていた。
「えーっと、入学式は明日だ。大講堂でやるから、飯食ったら行こうぜ。朝飯係、明日は早く起きていっぱい作れよ!」
と、なぜかラッツが仕切る。
ちなみに、食事係はマーロンと女子数名。意外なことに美味い料理が出てきた。
◇◇◇◇◇◇
夕飯、入浴を終え部屋に戻ってきた。
ラッツは同級生の部屋に遊びに行き、マーロンは朝食の仕込みをしている。
なので、部屋にはアルベロとハウルだけだ。
ハウルは、壁にかけた制服を見て、アルベロに言う。
「見ろよ。どこまでも小馬鹿にしたデザインだ」
「……だな。ここまではっきりされると、逆に笑えるぜ」
「違いない」
ハウルはくくっと笑う。
制服の背中に、大きく『F』と刺繍された制服だ。
これはF級召喚士であり、この学園では最底辺を意味する。
「知ってるか? ここ、オレら新入生しか住んでないだろ? 理由は、F級でも勉強すれば、E級には上がれるからだ。つまり、一年生だけしか住んでない」
「知ってる……」
「そっか。なぁアルベロ……お前の召喚獣見せてくれよ」
「いいけど……」
アルベロは手のひらに小さなモグラを呼び出す。
『もぐ!』
「へぇ、モグラかよ……ちっこいな」
「成長するのかと思いきや、かれこれ十五年このままだ」
「じゃ、オレも」
ハウルの肩に、小さな文鳥が止まった。
「こいつはボイス。能力は『甲高い声で鳴くことができる』だ。キーキーやかましいだけの、使えない能力さ」
「俺も似たようなもんだ。穴掘って地面を固める能力……はは」
互いに苦笑した。
モグはアルベロの傍でコロコロ転がり、ぐでんと身体を伸ばす。
「はぁ……学園、さっさと卒業したいな」
「ああ。ハウル、卒業したらどうすんだ?」
「なんだよ。入学もしてないのに」
「なんとなく。俺はラッシュアウト領を出て、静かなところで畑を耕したいぜ」
「……お前、枯れてるな」
「は、はぁ!?」
これには、アルベロも反論できなかった。
入学式は、もう明日。
新生活の始まりが迫っていた。
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