第218話 だがちょっと待ってほしい

 月読が復活したころ、ルドラはドイツに来ていた。


 午前は、スペインでフォカロルを倒したのだが、まだ余力が残っていたので午後もソロモン72柱を倒すことにしたのだ。


 ドイツでは、残り1体のソロモン72柱が、今までに蓄えていた戦力を解放し、ダンジョン化したノイシュバンシュタイン城から出陣した。


 ドイツにいるありとあらゆるモンスターが、そのソロモン72柱に従い、冒険者達を苦しめていた。


 そんな中、ルドラはモブの軍勢には目もくれず、サラに乗ってノイシュバンシュタイン城へと急いだ。


『はぁ、勿体ない。勿体ないぜ。時間に余裕があれば、道中で遭遇したモンスターも倒したかったのによ』


「そんなことしてたら、ドイツで無駄に死者が出る」


『わかってるっての。だから、ソロモン72柱を倒しに行くんだろ?』


 カーリーは、ノイシュバンシュタイン城に向かう間、何度か強そうなモンスターをスルーしたのが不満だった。


 もし、戦っていたら、そこでロスした時間の分だけ、ドイツで戦う冒険者達が犠牲になるとわかっていたので、ルドラが無視して進むことにしたのだ。


 勿論、それをはい、そうですかと唯々諾々としてルドラに従うカーリーではないが、ドイツにいるソロモン72柱が、王のヴィネだとガネーシャがルドラに教えたことで我慢した。


 カーリーの中では、モブモンスターの中では強い個体よりも、ソロモン72柱と戦いたいと優先順位が決まっている。


 そこを突いて、ルドラはどうにかカーリーの注意をノイシュバンシュタイン城に向けた訳だ。


「主、到着シマシタ」


「ありがとう、サラ」


 サラが全速力で移動したおかげで、ルドラ達はほとんど時間をロスすることなく、ノイシュバンシュタイン城に到着した。


 城門を通過してすぐの中庭で、ルドラ達の登場に不快そうな表情を浮かべた二足歩行の獅子がいた。


 この獅子こそが、ソロモン72柱の王の1柱であるヴィネだ。


 薄紫色の筋骨隆々の体に、黒く大きな蛇をマフラー替わりに巻いていて、頭には頭蓋骨で作られた王冠が乗っている。


「何故、吾輩の前に無傷の冒険者がいる? 吾輩の策の前に、冒険者達は確実に数を減らしたはずだぞ?」


「だがちょっと待ってほしい。お前の配下が雑魚だったのなら、雑魚の大将もざこではなかろうか?」


「・・・よかろう。ならば、その身をもって後悔するが良い! 【隕石雨メテオレイン】」


 ヒュゥゥゥゥゥッ・・・。


「サラ、回避」


「カシコマリマシタ」


 ドドドドドォォォォォン!


 自分達の頭上から次々に降り注ぐ隕石の雨を、ルドラはサラに命じて回避させた。


 そして、戦闘に入れば、ルドラの性格がガラリと変わる。


おせぇぞ! 【猛毒砲ヴェノムキャノン】」


 ジュジュジュッ、ズドォォォォォン!


「小癪な。【反射壁リフレクトウォール】」


 キィィィィィン!


 ヴィネが光の壁を創り出すと、それにルドラの【猛毒砲ヴェノムキャノン】が触れた途端、ルドラのいる方向に反射した。


 ジュワァァァァァッ。


 勿論、ルドラ達がそれを避けるので、当たることなくルドラ達の背後にあった隕石の1つに命中した。


「サラ! 足止め!」


「ハッ! 【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン!


「遅い! 【岩竜巻ロックトルネード】」


 ゴォォォォォッ! ガガガガガッ!


 ヴィネはサラの【重力網グラビティウェブ】を避けると、中庭に散らばる隕石を強力な竜巻で無理矢理動かした。


 暴風の中、隕石同士もぶつかっており、その度に隕石が砕けて破片となり、それが竜巻に巻き込まれた者を傷つけるようになっている。


「【海蛇鞭サーペントウィップ】」


 シュバババババッ! バッシャァァァァァン!


 シーサーペントを模った水の鞭が、カーリーの先端に形成され、それがぶつかる度に竜巻の威力を削ぎ、最後には勢いを完全に殺した。


 午前、スペインで倒したフォカロルの翼を吸収したことで、カーリーがフォカロルの【海蛇鞭サーペントウィップ】を会得した。


 まさか、このタイミングで役立つとは思っていなかったので、ルドラは戦いに備えて備えておくものだと感心した。


 その一方、ヴィネは自分の攻撃を全て無効化され、ルドラ達を侮ってはいけないと警戒度合いを上げた。


「貴様、只者ではなかったか」


「知らねえよ、んなもん。俺よりも強い奴がいるんだからな! 【溜行動チャージアクト】」


 ルドラは次の一撃の威力を高め、サラにヴィネを攪乱するよう合図した。


 すると、サラは糸を伸ばして、中庭を縦横無尽に跳び回り、ヴィネに狙いを定めさせなかった。


「面倒だ。【亀龍爆弾タラスクボム】」


 シュゥゥゥッ・・・。


「サラ、城門の外まで後退しろ!」


「ハッ!」


 ドガァァァァァン!


 直感的に、ヴィネのこのスキルが馬鹿にならないと判断したルドラは、サラに後ろに退けと指示を出した。


 そのすぐ後、タラスクを模った蒸気の塊が、いきなり爆発して中庭からあらゆるものを弾き出した。


「・・・危なかったぜ、畜生」


「主ノオカゲデ、命拾イシマシタ」


 城門の外まで退却し、城門外側に張り付いたことで、ルドラ達が中庭に散らばっていた岩等によるダメージを受けずに済んだ。


「サラ、行け!」


「ハッ!」


 ヴィネに続けて攻撃させてはいけないと判断し、ルドラはサラに中庭に攻め込むように指示を出した。


 サラがそれに従って中庭に入ると、ヴィネがそれを感知した。


「貴様等はまだ、生きておるだろう!? 【隕石雨メテオレイン】」


 ヒュゥゥゥゥゥッ・・・。


「喰らえやオラァ! 【地獄炎宴ヘルズディナー】」


 ブンッ! ゴォォォォォォォォォォッ!


 大技を使われたら、大技で返す。


 そう言わんばかりの攻撃を放ち、ルドラは隕石の雨を迎撃した。


 ドガガガガガァァァァァン!


 【地獄炎宴ヘルズディナー】により、隕石の雨が溶岩の雨に変化し、中庭に降り注いだ。


「ぬぉぉぉぉぉっ!?」


 しかも、【地獄炎宴ヘルズディナー】のせいで、溶岩の雨の落下地点が変わり、ルドラ達もヴィネも等しく巻き込まれる形になったので、ヴィネは頭上を溶岩が掠って慌てた声を出した。


 ヴィネは回避で手一杯だったが、ルドラ達は回避することなくヴィネに向かって突撃した。


 このチャンスを逃したら、自分達の攻撃が当たることはないと判断したからだ。


「サラ! 足止め!」


「ハッ! 【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン! ジュワァァァァァッ!


「しまったぁぁぁぁぁっ!」


 溶岩の雨を避けることに集中していたせいで、サラの【重力網グラビティウェブ】を避けるのに反応が遅れてしまった。


 その結果、【重力網グラビティウェブ】をヴィネはまともに受けてしまい、そこに運悪く溶岩が落ちたことで、この戦闘で初めてダメージを負った。


 動きの鈍ったヴィネを見て、ルドラが止まるはずがない。


「これでも喰らえ! 【猛毒砲ヴェノムキャノン】」


 ジュジュジュッ、ズドォォォォォン!


「うがぁぁぁぁぁっ!?」


 ルドラの【猛毒砲ヴェノムキャノン】が顔面に命中し、ヴィネは猛毒を受けた。


 薄紫色だった体が、濃い紫に侵食され、マフラー替わりの黒い蛇は毒で完全に融けていた。


「サラ、援護を頼む! 【感情解放フィールリリース】」


「承知シマシタ!」


 ルドラはサラから飛び降りると、重力と猛毒で苦しむヴィネに向かって走り出し、距離を一気に詰めた。


「オラオラオラァ! 【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】」


 グサグサグサッ! グサグサグサッ! グサグサグサッ!


「【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン!


 ルドラがヴィネを串刺しにする過程で、サラの網が千切れていたため、ルドラの攻撃が終わると同時に、サラはヴィネが逃げられないようにした。


「よくやった、サラ! 【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】」


 グサグサグサッ! グサグサグサッ! グサグサグサッ! パァァァッ。


 体中が穴だらけになったヴィネは、力尽きて前のめりに倒れた。


 もっとも、地面に倒れるよりも先に、ヴィネの体は光の粒子となって消えてしまったのだが。


 ヴィネが倒れてすぐに、ルドラの耳に神の声が届き始めた。


《おめでとうございます。個体名:ルドラ・ナイヤーが、クエスト1-10をクリアしました。報酬として、カーリーの復活率が100%になりました》


《カーリーが復活します》


《ルドラはLv97になりました》


《ルドラはLv98になりました》


《ルドラはLv99になりました》


《ルドラはLv100になりました》


《ルドラの【溜行動チャージアクト】が、【集中コンセントレイト】に上書きされました》


《ルドラはLv100になったことにより、進化条件を満たしました。これより進化を開始します》


《ルドラは超人ドワーフに進化しました》


《ルドラは<長寿>を会得しました》


《サラはLv94になりました》


《サラはLv95になりました》


《サラはLv96になりました》


《サラはLv97になりました》


 神の声の途中で、ルドラ達は光に包み込まれ、ルドラが目を開けるようになったのは、光が収まってからしばらくしてのことだった。

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