第217話 おめでとう、月読! 奏ちゃんの気が済むまでトイレ掃除だね☆

 紅葉がオーストラリアにいる頃、響とアランはモンゴルに来ていた。


 午前は、南アフリカに行き、ソロモン72柱のムルムルとそれが率いるモンスターの軍勢を倒した


 それから、午後になって響達はモンゴル入りしたのだ。


 モンゴルでも、ソロモン72柱のオロバスが目撃され、現地の冒険者達は苦戦を強いられていた。


 ロキからは、現地の冒険者達が、モブモンスター達と戦っている間に、オロバスだけサクッと倒してしまえと言われている。


「アラン、オロバスは見つかった?」


「まだでござる」


 現在、響はアランに乗り、空からオロバスを探している。


 オロバスの指示で暴れていると思しきモンスターの軍勢の中には、オロバスの姿が見当たらない。


 モンゴルの冒険者が投稿した掲示板の情報では、オロバスはの体は茶色で、悪魔の翼が背中から生えている以外は、二足歩行の馬らしい。


 その情報を頼りに、響達はオロバスを探しているのだが、どうしてもオロバスは見当たらなかった。


 オロバスの指示に従い、モンゴルの冒険者達と戦っているモンスターは、ゴルゴンホース、ガイアトータス、ハンターホークだ。


 ゴルゴンホースは、体の両側面に目の模様があり、それを見てしまった者のVITがゴルゴンホースのINTよりも低いと石化させる。


 ガイアトータスは、巨大なリクガメであり、動きは鈍いが踏みつけられたらひとたまりもないし、VITが高いからなかなかダメージを与えられない。


 ハンターホークは、冒険者の持つ武器を奪う習性がある鷹で、モンゴルの冒険者達の戦力を削いでいる。


 この3種類のモンスターの軍勢を相手に、持久戦になればなるほど、モンゴルの冒険者達は不利になっていく。


 だから、いち早く響がオロバスを倒すことが望ましい訳だが、そのオロバスを響達は見つけられずにいる。


「月読、【千里眼クレヤボヤンス】を使って」


『任せて。【千里眼クレヤボヤンス】』


 響に頼まれ、月読は【千里眼クレヤボヤンス】を発動した。


 このスキルには、遠くの景色を確認したり、隠れているものを探す効果がある。


 月読の力により、どこにいるのかわからないオロバスの位置を特定できれば、響はオロバスを倒しに行ける。


 それがわかってるから、響は月読にオロバスを探させたのだ。


 【千里眼クレヤボヤンス】を発動してから少しすると、月読がブルっと震えた。


「いたの?」


『見つけた』


「どこ?」


『左端のガイアトータスの甲羅の中に隠れてる』


 月読が示したガイアトータスを見つけ、響は攻撃を開始することにした。


「アラン、あのガイアトータスに【斥力リプル】」


「承知したでござる。【斥力リプル】」


 ズゥゥゥゥゥン!


「グガァァァァァッ!?」


 モンゴルの冒険者達からの攻撃は、全然大したことがなかったが、アランの【斥力リプル】を受けると、ガイアトータスが地面に押さえつけられて絶叫した。


「今だ! やっちまえ!」


「ギッタンギッタンにしてやんよ!」


「喰らえぇぇぇぇぇっ!」


 モンゴルの冒険者達は、どういう訳かわからないが、ガイアトータスが地面に押さえつけられたのを見て、チャンスだと判断してその頭部に攻撃を始めた。


 すると、ガイアトータスの甲羅の中から、モンゴルの冒険者達が自分を見ていないのを確認してオロバスが逃げ出した。


 その様子を全て見ていた響は、オロバスを追い詰めるために行動を開始した。


「【影傀儡シャドウパペット】」


「何ぃっ!?」


 ドサァァァッ。


 突然、体の制御が利かなくなり、オロバスは訳もわからず地面に墜落した。


 響の【影傀儡シャドウパペット】は、対象の影を操ることで、影の主にも影と同じ動作をさせられる。


 つまり、響がオロバスの影を地面に墜落させたから、影の主であるオロバスも同じく地面に墜落したのだ。


「【小時間逆行ショートリバース】」


 オロバスがスキル名を唱えると、墜落によるダメージがなくなった。


『響、注意して。オロバスだけど、時間を巻き戻してる』


「なるほど。じゃあ、オーバーキルぐらいがちょうど良いかな? 【陥没シンクホール】【槍地獄ランスヘル】」


 ズズズズズッ、グササササササササササッ!


「ぬぉぉぉぉぉっ!? 【小時間逆行ショートリバース】」


 身動きが取れないせいで、穴に落下して無数の槍が体に刺さったが、オロバスは【小時間逆行ショートリバース】によりダメージをなかったことにした。


「しぶといな。【降王水レジアフォール】」


「【小転移ショートワープ】」


 ザァァァァァッ! シュワァァァァァッ!


 滝のように流れ落ちる王水は、オロバスに当たることはなかった。


 【小転移ショートワープ】により、オロバスが響達の正面に瞬間移動したからである。


「おのれ、お前達の仕業か」


「時間系だけじゃなくて、空間系のスキルも使えるんだ?」


「敵であるお前に、教える理由はない。【炎竜巻フレイムトルネード】」


「【降王水レジアフォール】」


 ボォォォォォッ! ザァァァァァッ! シュワァァァァァッ!


 響達に向かって放たれた炎の竜巻は、滝のように流れ落ちる王水によって鎮火された。


 しかし、響が炎の竜巻に対処している隙に、オロバスは逃げ出していた。


「月読」


『わかってるよ。【千里眼クレヤボヤンス】』


 皆まで言うなと言わんばかりに、月読はオロバスの居場所を探した。


 そして、再びオロバスの居場所を特定した。


『見つけた。今度は、右から2番目のガイアトータスの甲羅の中だよ』


「隠れるのが好きだね。アラン、やっちゃって」


「任せるでござる。【斥力リプル】」


 ズゥゥゥゥゥン!


「グガァァァァァッ!?」


 ガイアトータスが地面に押し付けられたが、オロバスは甲羅の中から出てこなかった。


 今、外に出れば、響達に見つかると思ったからだろう。


 オロバスが出てこないならば、それならそれでやりようがあるので、響は攻撃の手を緩めはしなかった。


「【影傀儡シャドウパペット】」


 キュイィィィィィン!


「グガッ!?」


 ガイアトータスもびっくりしただろう。


 自分は何もしていないのに、自らの体がその場でいきなり高速で回転し始めたのだから。


 響の選んだ攻撃とは、甲羅の中に隠れたオロバスをとにかく弱体化させる方法だった。


 甲羅の中は、当然視界が開けているはずがなく、暗くて狭い。


 そこに隠れている状態で、ガイアトータスが高速で回転すれば、甲羅の中にいるオロバスもその回転に巻き込まれる。


 早い話が、オロバスはガイアトータスと一緒に目を回させられているのだ。


「【降王水レジアフォール】」


 ザァァァァァッ! シュワァァァァァッ! パァァァッ。


 降りかかる王水により、オロバスがその甲羅に隠れていたガイアトータスは消えた。


 それにより、目を回して倒れているオロバスが、無防備な状態で地面に放り出された。


「【槍地獄ランスヘル】」


 グササササササササササッ! パァァァッ。


 直接首を斬りにいくには距離があり、その時間で逃げられると厄介なので、響は【槍地獄ランスヘル】でとどめを刺した。


 【致命斬首ヴォーパルビヘッド】に拘らなければ、響だって遠距離から敵を倒すスキルは保持している。


 今回は、戦闘が長引かないように拘りを捨てて勝ちを取りに行った。


《おめでとうございます。個体名:新田響が、クエスト1-10をクリアしました。報酬として、月読の復活率が100%になりました》


《月読が復活します》


 ピカァァァァァン!


 神の声が止むと同時に、周囲一帯を光が包み込んだ。


 すると、響は手元から月読がなくなったのを感じた。


 そして、先程まではいなかった響の正面の位置に、神々しい気配が現れた。


 光が収まると、【擬人化ヒューマンアウト】で人型になった時と全く同じ姿の月読が、響の前に現れた。


 頭に三日月の髪飾りを身に着けた点だけ天照と違うが、それ以外は服装が同じ巫女服の女神が現れた。


 しかも、髪型と顔が響と似ており、黒髪の響が巫女服を着ていると言われたら、信じてしまう者も少なくない見た目だった。


《おめでとうございます。月読が神器から神に復活しました。特典として、響が<月読の加護>を会得しました》


《<月読の加護>を会得したことにより、響は月読のスキルを”加護スキル”として部分的に継承しました》


《響の【流水斬スルースラッシュ】と【炎鉤爪フレイムクロー】が、【流水鉤爪スルークロー】に統合されました》


《おめでとうございます。個体名:新田響が、モンゴル最強のモンスターであるオロバスを討伐し、月読を復活させたため、紅葉は首切丸・真を会得しました》


 神の声が止むと、月読はニッコリと笑って口を開いた。


「ふぅ、やっと僕も復活できたね」


 それに対して、響もとても良い笑みを浮かべて応じた。


「おめでとう、月読! 奏ちゃんの気が済むまでトイレ掃除だね☆」


「殴りたい、その笑顔。というか、何それ?」


「ほらほら~、天照と須佐之男を見つけてって頼む時、月読の頼み方が悪かったじゃん? それで、伊邪那美に天界のトイレ掃除を半永久的に命じられてたじゃん」


「・・・しまったぁぁぁぁぁっ! 忘れてたぁぁぁぁぁっ!」


 月読にとって、現実は非情だった。

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