第208話 吐き気を催す邪悪だ。あいつは赦さん

 奏の援護により、操られた冒険者に邪魔されることなく、ルドラ達はタイムズスクエアの攻略を再開した。


『おい、ルドラ、お前、ここまでお膳立てされたんなら、きっちりボス殺せよ?』


「わかってる」


「主、跳ビマス」


「頼んだ」


 短く会話を終えると、サラがダンジョン内の適当な建物に糸を飛ばし、それを引っ張ることで、スパイ〇ーマンのような立体機動で移動し始めた。


 ルドラだけなら、こんな立体的な動きはできないし、移動に時間を要してしまうので、サラを従魔にしたことはルドラにとって正解だったと言えよう。


 その上、カーリーと自分だけでは、自分のストレスがマッハで溜まるので、従順なサラの存在はなくてはならないものである。


 周囲を見下ろせる建物の屋上まで移動すると、ルドラはタイムズスクエアのボスを探した。


 操られた冒険者から逃げつつ、ルドラ達はタイムズスクエアのマッピングを行っていた。


 把握した地図を基に、ルドラは今、ボスの位置を割り出している。


「カーリー、残りは南だけか?」


『そうだな。クソ面倒なダンジョンを創ったボスは、南にいるに違いない』


「南のどこにいるか、わからないか?」


『ここからじゃ、ちょっと遠い。いくら私がすごかろうが、探す範囲が広過ぎんだよ』


「そうか。サラ、南に向かってくれ」


「承知シマシタ、主ヨ」


 ルドラの指示に従い、サラは南のエリアに向かって大きく跳躍した。


 それからしばらくして、カーリーが口を開いた。


『おい、ルドラ。ボスを見つけたぞ』


「どこだ?」


『あの建物の屋上にいる』


 カーリーがルドラの手の中で、ガープのいる場所を指すと、ルドラもその方角を向いた。


 すると、目玉模様が描かれた翼を生やし、電波を送受信するアンテナのような双角を持つ巨体のモンスターが、玉座に座っていた。


「あれか」


『ケッ、踏ん反り返って冒険者達を動かすなんて、せこいことしやがって。もっと戦えってんだよ』


 戦闘狂のカーリーは、自分は動かず敵を操って同士討ちさせるような存在が許せないらしく、気が立っていた。


 そして、普段はおとなしいルドラも、同士討ちをさせられたことに静かに怒っていた。


「吐き気を催す邪悪だ。あいつは赦さん」


『ほう、気合入ってるじゃねえか。そうだ、抱いた怒りを全部あいつにぶつけちまえ』


「言われなくてもそうする。サラ、あの建物へ」


「仰セノママニ」


 サラはルドラの指示通り、ダンジョンボスのいる建物の屋上に移動した。


 サラが着地すると、玉座に踏ん反り返っていたダンジョンボスが口を開いた。


「よくぞここまでやって来た。我が名はガープ。ソロモン72柱の君主だ。我の人形共では、貴様には物足りなかったかね?」


「燃やすぜオラァ! 【地獄炎宴ヘルズディナー】」


 ブンッ! ゴォォォォォッ!


 ルドラには、ガープと話すつもりは毛頭なかったので、ガープの言葉に応じずにカーリーに黒い炎を纏わせて横に薙いだ。


「【生贄羊スケープゴート】」


「「「・・・「「ギャァァァァァッ!」」・・・」」」


 パァァァッ。


 ガープがスキル名を口にした途端、グレートデーモンの集団がガープを守る壁のような隊列で現れ、【地獄炎宴ヘルズディナー】からガープを守った。


 壁になったグレートデーモンの集団は、召喚された途端に黒い炎の餌食になり、絶叫して消えるしかなかった。


 アメリカの冒険者達を操った時点では、敵を利用する狡猾なボスという評価だった。


 ところが、味方であるはずのモンスターを壁に使ったことで、ルドラの中のガープの評価は利己主義者エゴイストのクズに下方修正された。


「我の問いに応じず、いきなり攻撃するとは不敬である。【隕石雨メテオレイン】」


 ヒュゥゥゥゥゥッ・・・。


「サラ、防げ!」


「オ任セヲ! 【反射網リフレクトウェブ】」


 ドドドドドッ、バイィィィィィン!


「チッ、面倒な。【生贄羊スケープゴート】」


「「「・・・「「ギャァァァァァッ!」」・・・」」」


 パァァァッ。


 自分が降らせた隕石の雨が、巨大な蜘蛛の巣に触れた途端、自分に反射されたので、ガープを躊躇うことなく身代わりのグレートデーモンの集団を用意した。


 自分のスキルを利用され、自分の兵力を損失したことは不愉快だったらしく、ガープの眉間に皴が寄った。


「【毒錬金ポイズンアルケミー】」


 ジュジュジュッ、ヒュン!


「毒か。【拳骨砲フィストキャノン】」


 ブンッ! バシャァッ!


 ルドラが錬金して放った毒の球を、ガープは上半身の筋肉だけを動かして正拳突きを放ち、その衝撃波で散らせた。


「我を立たせようなど、1,000年早い」


「だったら座っとけ! サラ!」


「ハッ! 【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン!


「何ぃっ!?」


「【溜行動チャージアクト】」


 一瞬にして、サラから蜘蛛糸でできた網が放たれ、ガープが玉座に張り付けられた。


 しかも、張り付けられた瞬間に、重力がガープに働いたため、避けられなかったガープは予想外の状況に声を漏らした。


 サラの【重力網グラビティウェブ】は、確かに発動から命中までに必要とする時間は短いが、それでもガープが立っていれば避けられないはずがなかった。


 避けられなかったのは、ガープがルドラ達を格下であると信じて疑わず、座ったままでも勝てると舐めた態度を取っていたからである。


 ルドラは【溜行動チャージアクト】を発動しており、ガープが網からどうにか脱出しようともがいている間に距離を詰めていた。


「オラオラオラァ! 【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】」


 グサグサグサッ! グサグサグサッ! グサグサグサッ!


「【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン!


 ルドラがガープを串刺しにする過程で、サラの網が千切れていたため、ルドラの攻撃が終わった途端にサラはガープが逃げられないようにした。


「でかしたぞ、サラ! 【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】【三叉刺突フォークスタブ】」


 グサグサグサッ! グサグサグサッ! グサグサグサッ!


「【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュン、ベチャッ! ズゥゥゥン!


 ガープのHPが多いせいで、ルドラが何度カーリーをガープの腹に突き刺してもガープを倒し切れなかった。


 それを見たサラは、再び【重力網グラビティウェブ】でガープの動きを封じた。


 ガープが突き刺しては、サラが拘束するというループを繰り返し、ガープの角は折れ、翼は千切れ、胴体は蜂の巣の状態だ。


 それでも、ガープのHPは0にならなかったので、ルドラは攻撃手段を変えることにした。


「サラ、厳重に拘束! 【溜行動チャージアクト】」


「ハッ! 【重力網グラビティウェブ】【重力網グラビティウェブ】」


 ヒュヒュン、ベチャッ、ベチャッ! ズズゥゥゥン!


「死ねやゴラァ! 【地獄炎宴ヘルズディナー】」


 ブンッ! ゴォォォォォォォォォォッ! パァァァッ。


 【溜行動チャージアクト】により、威力が強化された【地獄炎宴ヘルズディナー】を受け、遂にガープのHPが0になった。


 燃え盛る黒い炎により、ガープは網ごと燃えて消えたのだ。


《おめでとうございます。個体名:ルドラ・ナイヤーが、クエスト1-9をクリアしました。報酬として、カーリーの復活率が90%になりました》


《ルドラはLv90になりました》


《ルドラは【感情解放フィールリリース】を会得しました》


《ルドラはLv91になりました》


《ルドラはLv92になりました》


《ルドラはLv93になりました》


《サラはLv86になりました》


《サラはLv87になりました》


《サラはLv88になりました》


《サラはLv89になりました》


《サラはLv90になりました》


《サラは【斬糸刃スレッドエッジ】を会得しました》


 神の声が止むと、カーリーがルドラを急かした。


『おい、ルドラ! 早く角と翼をくれ!』


「わかってる」


 カーリーの要請に応じ、ルドラは地面に落ちているガープの角と翼をカーリーに吸収させた。


 シュゥゥゥッ。


《カーリーは、【拳骨砲フィストキャノン】を会得しました》


《カーリーの【毒錬金ポイズンアルケミー】と【拳骨砲フィストキャノン】が、【猛毒砲ヴェノムキャノン】に上書きされました》


 神の声が止むと、カーリーがご機嫌になった。


『上等、上等だ。上等だぜ、ルドラ! これなら、より強力な遠距離ができるじゃねえか! ルドラ、私の復活も近いし、褒めてやるよ!』


「そうか」


『チッ、もっと喜べよ。反応薄くて童貞臭いなぁ、おい』


「ぐっ・・・」


 褒められたと思った途端、すぐにディスられたせいで、ルドラは余計な精神的なダメージを負った。


 ルドラは深呼吸し、気持ちを切り替えると、魔石とマテリアルカード、宝箱の中身を回収した。


 そして、今度こそ自分から奏に念話機能で連絡を取り始めた。

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