第205話 YOU、私と一緒にケルン大聖堂に挑まない?

 ワールドクエストが更新された頃、響とアラン、月読はドイツのケルン大聖堂の前で戦っていた。


「むぅ、なんでこんなにコボルドが?」


『コボルドだけじゃないよ。ヘルハウンドもいる』


「犬系モンスター大集合だね。骨とか投げたら、そっちに行かないかな?」


『響、くだらないこと言ってて油断しちゃだめだよ?』


「わかってる。【降王水レジアフォール】」


 ザァァァァァッ! ジュワァァァァァッ! パァァァッ。


 滝のように流れ落ちる王水により、響の眼下にいるはモンスター達は融けて魔石と化した。


「やっぱり、アランが上を取ってくれると殲滅戦が楽だね」


「楽できる時に楽するのは、持久戦の基本でござるよ」


「そだね。ところで、モンスターはいつまで湧き続けるのかな? 倒しても倒しても減らないとか、クソゲーだよね」


「全面的に同意するでござる」


 響がアランに騎乗し、空から【降王水レジアフォール】で倒したはずなのに、すぐにケルン大聖堂からモンスターの軍勢が補充されてしまった。


 それが何度も続いていたので、響とアランはうんざりしていた。


「【陥没シンクホール】【槍地獄ランスヘル】」


 ズズズズズッ、グササササササササササッ! パァァァッ。


 殲滅作業を繰り返しており、レベルがカンストしてなければ、どれだけレベルアップできただろうと響が考えていると、出現するモンスターの種類がガラッと変わった。


「あれ、今度はスパルトイにゾンビ、ゾンビキャリア、レイスだ。アンデッド盛り合わせ?」


『待って。先頭に神器の反応がある』


「神器の? あぁ」


 アンデッドの軍勢に追われているらしく、神器持ちの冒険者は全力疾走で逃げていた。


 その冒険者について、響は友達とまでは言えないが、知り合いだと言える存在だと理解した。


 全身黒ずくめで、眼帯を付けた中二病スタイルの冒険者は、響が知る限り1人しかいない。


「あぁ、もう! 外に出たのにしつこいわね! ヒュドラ【召喚サモン】」


 シュイン。


 その冒険者の宣言に応じ、手に握ったカードが光った。


 そして、光がその冒険者の手から離れ、その前方に移動すると、みるみるうちに光がヒュドラへと変化した。


「ヒュドラ、【地獄炎ヘルフレア】で汚物を消毒!」


 ゴォォォォォッ! パァァァッ。


 自らを襲って来たアンデッド系モンスターの軍勢を一掃すると、ヒュドラは光になってその冒険者の手の中に戻った。


 周囲に敵影がないこと、後続がいないことを確認してから、響達はその冒険者に声をかけた。


「グーテンターク、千里さん」


「あれ、響? どうしてここに?」


「多分、千里さんと一緒。ドイツがヤバいから、送り込まれた」


「そうだったんだ。そりゃ、冒険者が激減して非戦闘員しかいない国に、私1人寄越す訳ないよね」


「そんなに酷いんだ?」


「酷いわよ。ケルン大聖堂に挑んだ戦闘可能な冒険者は、ゾンビになってたから、私が焼却したわ。他の所も、似たような感じで戦闘可能な冒険者が集中して狙われてるわ。こんなスタンピード、初めてよ」


「うわぁ・・・」


 千里の話を聞き、響は嫌そうな顔をした。


 現地の冒険者を当てにしていた訳ではないが、それでもドイツのソロモン72柱が、冒険者の戦力を効率的に削ぎにかかる知能があるとわかり、ドイツに来たことは失敗だったと思ったからだ。


「あっ、そういえば高城さんってドイツに来てる?」


「来る訳ないじゃん。奏ちゃんなら、日本だよ」


「やっぱりか。お礼、言おうと思ってたんだけど」


「お礼?」


「そう、お礼。さっき召喚したヒュドラ、それとアルゴスってモンスターカードを高城さんが倒してくれたおかげで私に手配されたの」


「奏ちゃんが今日倒したってこと?」


 響の知る限り、今日の奏の予定には、双月島から出てモンスターと戦うなんてものは入っていなかった。


 しかし、千里が新たなモンスターカードを手に入れ、仕入先がどこかを経由して奏からだと聞いたので、響は千里に訊ねた。


「そうだと思うわ。普通、神話に出て来るモンスターをサクッと倒せないはずなのに、それが2体もモンスターカードになって私に届くなんて、高城さんには感謝してもしきれないわ」


「ドヤァ」


「・・・なんで響がドヤってんのよ?」


「奏ちゃんがドヤらないから、私が代わりにドヤっとこうかなって思った」


「まあ、確かに。高城さんがドヤる姿が想像つかないわ」


 千里はまだ、1回しか奏に会ったことはないが、それでも奏が自分の功績をアピールするタイプではないことを理解していた。


「でしょ? ところで、千里さんはケルン大聖堂に挑んでたんだよね? 内部はどんな感じ?」


「腹立つことに、転移されっ放しよ。転移先にはモンスターがうじゃうじゃいるし、休む場所なんてなかったわ。先行して挑んでた現地の冒険者達は、さっき言った通りゾンビになってたし、マジで戦力不足だったわ」


「ボス部屋には行けてない?」


「目の前まで言ったけど、おどろおどろしい悪霊っぽいアンデッド系モンスターが待ち構えてて、配下のアンデッド系モンスターを大量に準備してたから、一旦体勢を立て直すために撤退することにしたのよ」


「なるほど・・・」


 千里から情報を聞くと、響は黙って考え始めた。


 このままケルン大聖堂に挑むか、それとも撤退して別の場所に行くか考えているのだ。


 そんな響に対し、千里は声をかけた。


「YOU、私と一緒にケルン大聖堂に挑まない?」


「それは、千里さんの保有する戦力による。持ってるモンスターカードの主力を教えて」


「ボケは拾ってくれないのね。オホン。私が持つ主力ボスクラスは、ヒュドラ、アルゴス、アメミット、グレモリー、キマイラかしら」


「う~ん、それぐらいいれば、戦えなくはないかぁ。わかった、一緒に行こう」


「そうこなくっちゃ」


 千里の戦力分析が済むと、響は引き続きケルン大聖堂に挑むことを承知した。


 響が同行してくれるとわかると、千里はニヤッと笑った。


 一時的にパーティーを組むと、響達はケルン大聖堂に入った。


 ケルン大聖堂に入った途端、すぐに響達の視界がぐにゃりと歪んだ。


 視界が元に戻ると、響達はボス部屋の扉と一緒に、千里が遭遇した悪霊のようなモンスターを視界に捉えた。


 大鎌を持ち、ローブを身に纏った骸骨の霊と呼ぶのが相応しい見た目であり、響は千里に訊ねた。


「あれが、千里さんの遭遇した悪霊?」


「その通り。でも、おかしいわね。さっき遭遇した時は、私の顔を見るや否やアンデッドの軍勢に襲わせたのに、全然そんな気配がないわ」


「MP切れじゃない?」


「それは嬉しい誤算ね」


「じゃあ、遠慮なくやっちゃうよ。アラン、お願い」


「心得たでござる。【讃美歌ヒム】」


 ラララ~ラ~ラ~ラ~ラ~ララ~、ラ~ラ~ラ~ラ~♪


「キェェェェェッ!?」


 パァァァッ。


《千里がLv88になりました》


《千里がLv89になりました》


《千里がLv90になりました》


《千里の【召喚サモン】が、【強化召喚ライズサモン】に上書きされました》


《千里は【抽出アブストラクト】を会得しました》


 アランの【讃美歌ヒム】の効果で、響達の回復と悪霊の強制成仏が同時に行われた。


 そのすぐ後、千里のレベルアップが神の声によって告げられた。


「月読、千里さんの会得したスキルの説明頼める?」


『任せて。【強化召喚ライズサモン】は、全能力値が120%の状態でモンスターが召喚される。【抽出アブストラクト】は、30%の確率でモンスターの魔石からモンスターカードを手に入れられる』


「戦力強化に向いてるね。ちなみに、さっきアランが倒したモンスターはなんだったの?」


『エクスキューショナーだよ。生者を殺すことしか考えてないアンデッド系モンスターだね。大鎌で殺したり、配下に襲わせたりするんだ』


「奏ちゃんがここにいない今、アランの【讃美歌ヒム】だけが効果は抜群ってこと?」


『そうだろうね』


「ボスもアンデッド系モンスターだったら、面倒だなぁ」


 ボス部屋の前にいたモンスターが、ボス部屋の主に関連するモンスターであることはダンジョンではよくあることだ。


 それをわかっている響は、ダンジョンボスがアンデッド系モンスターではないことを祈った。


「ねえ、エクスキューショナーの魔石、【抽出アブストラクト】の実験台にしても良い?」


「駄目に決まってんじゃん。あれは僕のだよ」


「しょぼーん」


「千里さん、25歳でしょぼーんとか恥ずかしくないの?」


「ぐはっ・・・」


 千里は冗談のつもりで、懐が痛まなくて済むから実験台に魔石を使いたいと言ったのだが、響の正論と反論を受け、精神的にダメージを受けた。


 それはともかく、響達は気持ちを切り替えて作戦会議を行い、準備を整えてからボス部屋の扉を開けた。

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