第200話 のじゃロリは復活してものじゃロリなのね

 紅葉が自分を楽しませるスキルを持っているとわかると、ベレトは次の攻撃に移った。


「こいつはどうだ!? 【剣隆起ソードライズ】」


 ズボズボズボズボズボォォォォォッ!


「【緋炎円スカーレットサークル】」


 ボォォォォォッ! 


 緋色の炎が、紅葉を中心に円を描いて広がる。


 それにより、ベレトの正面から次々に地面から生える剣の波を熔かして防いだ。


 【円陣炎サークルフレア】が上書きされたことで、【緋炎円スカーレットサークル】の火力は大幅に上がった。


 そのおかげで、ベレトの【剣隆起ソードライズ】を防げたのだから、修行の成果を十分に発揮できていると言えよう。


「ハッハー! 防がれんのはわかってたぜ! 本命はこっちだ! 【金剛正拳アダマントストレート】」


 緋色の炎を突っ切って、ベレトが紅葉を殴りに来た。


 自らの炎のせいで、ベレトの接近に反応が遅れた紅葉だが、決して慌てはしなかった。


「【怠惰眼スロウスアイ】【金剛移動アダマントムーブ】」


 ボワワワァァァン。


 紅葉の目が紫色に光ると、紅葉の目から放射状に紫色の光が放たれた。


 紫色の光がベレトにぶつかると、ベレト動きがかなりゆっくりになった。


「なぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃっ!?」


 間延びした声で、驚きを表現するベレトだが、もう遅い。


「【鋼噛メタルバイト】」


 ミシィッ! ボキィッ!


「ぐぅぅぅぅぅあぁぁぁぁぁっ!?」


 突き出されたベレトの右腕を、紅葉は横から左手で全力で掴んだ。


 すると、ベレトの甲冑が拉げ、骨が折れた音が周囲に響き、遅れてベレトのノロノロした絶叫が響いた。


 【鋼噛メタルバイト】は、素手で鋼をペシャンコにできるぐらい、握力に関するSTRを高められるスキルだ。


 握力しか強化されないが、逆に握ることに関するSTRはスキル発動前の3倍にも及ぶ。


 更に、ピエドラの【暴食武装グラトニーアームズ】のおかげで、攻撃してきた敵の能力値の一部が紅葉に加算され、紅葉のSTRは一時的に6,000を超えた。


 いかにソロモン72柱の王とはいえ、6,000オーバーのSTRで腕を握られれば、折れるのも不思議なことではない。


 そして、紅葉はまだ、動きが鈍いベレトの左腕を掴んだままでいる。


 これが意味することは、簡単だ。


 一方的ずっと攻撃時間私のターンになるのである。


「【炎釘打フレイムネイル】」


 グサァッ! ゴゴゴォォォッ!


「【炎釘打フレイムネイル】【炎釘打フレイムネイル】」


 グサグサァッ! ゴゴゴォォォッ!


「【炎釘打フレイムネイル】【炎釘打フレイムネイル】【炎釘打フレイムネイル】」


 グサグサグサァッ! ゴゴゴォォォッ!


 【鋼噛メタルバイト】で跳ね上がったSTRにより、宙吊りの状態にしたベレトに対し、紅葉は何度も何度も【炎釘打フレイムネイル】を放った。


 ベレトは途中、ゆっくりにしか叫べないが、それでも痛みに叫んだ。


 しかし、その叫びは紅葉が次々に放つ【炎釘打フレイムネイル】によってかき消された。


 それでも、流石はソロモン72柱の王の1柱と言うべきなのか、ベレトは何度攻撃を受けても倒れはしなかった。


「しぶといわね。だったら、方法を変えるわ」


 ズドォォォン!


 攻撃する方法を変えることを宣言すると、紅葉は左手で握っていたベレトを地面に叩きつけた。


 そのまま、紅葉は追い打ちをかけた。


「【爆轟刃デトネエッジ】」


 ブンッ! スパッ! ドガガガァァァン! パァァァッ。


 紅葉は仰向けに倒れたベレトの首に向けて、【爆轟刃デトネエッジ】を放った。


 それにより、無抵抗だったベレトの首は切断され、切り口が爆発してベレトはHPを全損した。


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉が、フランス最後のソロモン72柱を討伐しました。それにより、フランスのモンスター討伐率が85%まで上昇しました。報酬として、紅葉の全能力値が+100されました》


《紅葉は<緋色将軍スカーレットジェネラル>を会得しました》


《紅葉の<火焔公>と<緋色将軍スカーレットジェネラル>が、<緋炎大公スカーレットデューク>に統合されました》


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉が、クエスト1-10をクリアしました。報酬として、迦具土の復活率が100%になりました》


《迦具土が復活します》


 ピカァァァァァン!


 神の声が止むと同時に、ボス部屋を光が包み込んだ。


 すると、紅葉は手元から迦具土がなくなったのを感じた。


 そして、先程まではいなかった紅葉の正面の位置に、神々しい気配が現れた。


 光が収まると、【擬人化ヒューマンアウト】で人型になった時と全く同じ姿の迦具土が、紅葉の前に現れた。


 つまり、紅葉の前には、小学校低学年の赤いぱっつんヘアーの和装美少女迦具土が現れたのだ。


《おめでとうございます。迦具土が神器から神に復活しました。特典として、紅葉の<永遠学徒エンドレスアプレンティス>が、<迦具土の加護>に上書きされました》


《<迦具土の加護>を会得したことにより、紅葉は迦具土のスキルを”加護スキル”として部分的に継承しました》


《紅葉の【槍技スピアアーツフレックス】と【爆轟槍デトネランス】、【爆釘打ブラストネイル】が、【槍技スピアアーツ緋炎スカーレット】に統合されました》


《おめでとうございます。個体名:秋山紅葉が、フランス最強のモンスターであるベレトを討伐し、迦具土を復活させたため、紅葉は蜻蛉切・真を会得しました》


 神の声が止むと、迦具土はドヤ顔だった。


「復活したのじゃ!」


「のじゃロリは復活してものじゃロリなのね」


「紅葉! 失礼なのじゃ!」


「まあまあ、落ち着いて。ほら、ドーナツよ」


「わーいって、違うのじゃ!」


 収納袋からドーナツを取り出し、紅葉が迦具土に渡すと、迦具土は見事なノリツッコミを繰り出した。


「あれ、いらないの?」


「いるのじゃ!」


 紅葉から貰ったドーナツの包み紙を取り除き、幸せそうにパクッと一口で食べると、迦具土はムスッとした表情に戻った。


「いやいや、幸せそうにドーナツ食べてたじゃん。ほら、口元に砂糖付いちゃってるわよ?」


「・・・取ったのじゃ」


 紅葉に指摘され、迦具土は口元を手で拭った。


「まったく、ドーナツに釣られるなんてお子様ね」


「我はお子様じゃないのじゃ! クールビューティーなのじゃ!」


「クールビューティー? フッ」


「また鼻で笑われたのじゃ! こうなったら、我と一緒に群衆の前に行くのじゃ! そうすれば、我は世の男共の視線を釘付けにしてしまうのじゃ!」


「そだねー。じゃあ、戦利品回収しよっと」


 迦具土の発言をサラッと流すと、紅葉はベレトの魔石とモンスターカードの回収を始めた。


 そのタイミングで、ピエドラも【暴食武装グラトニーアームズ】を解除した。


「ピエドラ、お疲れ様。助かったわ」


「((`・∀・´))ドヤヤヤャャャャ」


 紅葉に感謝され、ピエドラはドヤ顔の絵文字で応じた。


 それから、紅葉は宝箱の蓋を開け、その中身を確認した。


 宝箱の中には、紅葉が天界のトレーニングルームでよく見た物にそっくりな槍が入っていた。


「・・・これ、師父の槍じゃない?」


「確かによく似ておるが、これはレプリカじゃな」


「レプリカ? まあ、本物は師父が持ってるもんね。でも、なんでこんなものがここに? 迦具土、効果とかわかる?」


「フッフッフ。神に復活した我は、今までとは一味違うのじゃ。これぐらいの武器鑑定なら、容易くやってみせるのじゃ」


「おぉ、迦具土が頼もしく見えるわ」


 ドヤ顔の迦具土を見て、そこに確かな自信を感じ取った紅葉は、迦具土の鑑定結果を黙って待った。


「わかったのじゃ。このグングニル=レプリカは、必殺まではいかぬとも、必中の槍なのじゃ。投げても手元に戻って来るから、飛び道具として使えるのじゃ」


「なるほど。師父の槍よりは格落ちだけど、それでも飛び道具としては使えるわね」


「そうじゃな。我の代わりに手に入った蜻蛉切・真は、紅葉が合成した物とは別で、日本の戦国時代で有名になった本物なのじゃ。両方使えば、紅葉は槍使いとして強くなれるのじゃ」


「それじゃ、遠慮なくいただくわ」


 グングニル=レプリカを収納袋にしまうと、紅葉達はダンジョンから脱出した。


 外に出ると、ヴェルサイユ宮殿はダンジョンから元通りの建築物になっていた。


 そして、オーディンが言っていた通り、転移門ゲートが用意されていたので、紅葉達はそれを通った。


 転移門ゲートを通った先は待合室があり、響達がお茶とお菓子を楽しんでいた。


「あっ、おかえり。遅かったね」


「そりゃ、響がベレトを私に寄越したからね」


「まあまあ。でも、そのおかげでのじゃロリが復活したんでしょ?」


「我をのじゃロリって言うのは止めるのじゃ!」


「断る。見た目が幼女で、語尾がのじゃな時点で、のじゃロリじゃない要素が見当たらない」


「むぅぅぅっ! 復活した我の力、思い知らせてやるのじゃ!」


 そう言うと、迦具土は響を追いかけ始めた。


 その様子が、どこからどう見ても子供だったのだが、紅葉はそれを指摘しなかった。


 タラスク、ベレトとの連戦で疲れていたので、自分も響と同じようにお茶とお菓子に手を付け始めたのだ。


 その後、神に復活した迦具土が本気を出したが、お仕置きをする前にオーディンとロキがこの場に現れたせいで、迦具土のターンは来ずに終わった。


 それはともかく、紅葉達が初めてパーティーを組まず、ソロモン72柱をそれぞれに撃退したことは、2人の自信に繋がったのは間違いない。


 オーディン達への報告と反省会をした後、紅葉達は双月島へと帰還した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る