第135話 君のような勘の良い女は嫌いだよ

 青白い雷に当たり、それを纏った鵺は、全身の毛が逆立って鋭い印象が強まった。


「危なかったわね、ピエドラ」


「Thank you♪(⌒∇⌒*。)」


 紅葉の指示があと少し遅ければ、大ダメージを受けていたので、ピエドラは素直に感謝した。


「【陥没シンクホール】【岩棘ロックソーン】」


 ズズズズズッ、グサグサグサグサグサッ!


「グォォォォォッ!」


 突然、足場がなくなり、鵺は穴の底に落ちて、そこに生えた岩の棘に刺さった。


 その痛みに、鵺は叫ばずにはいられなかった。


 そして、痛みによって蓄積された怒りを原動力として、鵺は穴の底から跳躍して飛び出した。


 しかし、紅葉達がそのタイミングを狙わないはずがない。


「【爆炎刃ブラストエッジ】」


「(9`・ω・)9頑張リマス.+゚*。:゚+」


 スパッ、ドガァァァン! ドゴゴゴゴゴォォォォォン!


 紅葉の【爆炎刃ブラストエッジ】とピエドラの【炎熱地獄インフェルノ】が命中し、鵺は穴の底に逆戻りとなった。


 グサグサグサグサグサッ!


「ギュオォォォォォッ!」


 今度は、背中から落ちていくつもの岩の棘が刺さり、鵺の叫び声に弱った兆候が見えるようになった。


「アラン、簡単には抜け出せないようによろしく」


「心得たでござる。【騒音牢ノイジージェイル】」


 バリバリバリィィィィィン!


「ギャオォォォォォン!」


 どの脚も地面についていないせいで、上手く体の向きを変えられず、騒音の鳴り響く牢獄に閉じ込められて鵺は絶叫した。


 鵺は必死にもがくが、体の向きを変えようとすると、刺さった棘がより深く刺さるようになり、鵺は身動きが取れなくなった。


 こうなってしまえば、鵺はまな板の上も鯉も同然である。


「【爆轟デトネーション】」


 ドガガガァァァン!


 穴の底が盛大に爆発し、普通に考えれば何も形は残らないはずだ。


 そう思った響は、ついついフラグを口にしてしまった。


「やったかな?」


「それ言っちゃ駄目でしょ」


「グォォォォォォォォォォッ!」


「ほらぁ・・・」


「ごめん」


 フラグが立てば、結果がついて来る。


 それはお約束なようで、鵺は今までに聞いたことがない声量で吠え、穴の底から跳躍して地上に戻って来た。


 その鵺の体には、紫色をした雷が纏っている。


 それは、ボス戦が第三ラウンドに移ったことを意味していた。


「第三形態的な?」


「でしょうね」


「グォン」


 ビュン、ドガァァァン!


「がはっ!?」


 目に留まらぬ速度で突進され、紅葉は後方に吹き飛ばされた。


 【鋼鉄城アイアンキャッスル】を発動する余裕もなければ、【衝反撃ショックカウンター】も発動しなかったので、紅葉は純粋にダメージを受けた。


いたたたた・・・。【回復ヒール】【鋼鉄城アイアンキャッスル】」


「グォン」


 ビュン、キィィィィィン! ドォォォォォン!


 同じ手は喰らわないようにと、紅葉が回復後すぐに【鋼鉄城アイアンキャッスル】を発動させたおかげで、鵺の突進は紅葉にダメージを与えることはなく、【衝反撃ショックカウンター】で鵺は後方に吹き飛ばされた。


 そこに、ピエドラが【巨大化ギガンテック】を発動した状態、大口を開けて待ち構え、鵺を口の中に含んだ。


「\\\٩(๑`^´๑)۶//// 激おこプンプン丸!」


 紅葉を攻撃されて怒ったピエドラは、鵺を捕食するのではなく、口内で鵺を高速でシェイクした。


 鵺は雷を纏っているせいで、口内に含んでいるとダメージを受けるが、それをピエドラは【再生リジェネ】を発動することでHPを回復することで相殺した。


 そして、ひたすら口内で鵺をシェイクして、鵺の抵抗がなくなったのを感じると、ピエドラは鵺をペッと外に吐き出した。


 鵺が吐き出された先には、響が首切丸Ver.1を構えながら待ち構えていた。


「首も~らい。【暗殺アサシネイト】」


 スパァァァァァン! パァァァッ。


 ピエドラの口内で、弱り切った鵺は何も纏っていない無防備な状態で、響はあっさりと鵺の首を斬った。


 ゴトリと音を立て、鵺の頭と体が離れ離れになると、魔石とモンスターカードがドロップした。


《紅葉はLv95になりました》


《紅葉の【鋼鉄城アイアンキャッスル】が、【金剛アダマント】に上書きされました》


《響はLv91になりました》


《ピエドラはLv91になりました》


《ピエドラが<凸凹コンビ>を会得しました。それにより、主人の紅葉も<凸凹コンビ>を会得しました》


《アランはLv87になりました》


 神の声が止むと、紅葉達はレベルアップしたことにホッとした。


「そりゃ、上がってくれるわよね」


「上がってくれなきゃ困る」


「本当にそれ。吹っ飛ばされた時、痛かったわ」


「σ(o´・Å・`o)??」


「なんだ、ピエドラ、心配してくれたのね?」


「(`≧ ^≦*)ソ、ソンナンジャナイシッ!」


「あはは、ツンデレ乙」


「(`Δ´)なんだとー!」


 ピエドラは照れ隠しのつもりで、紅葉にのしかかった。


 既に、【巨大化ギガンテック】は解除しているが、それでもピエドラは紅葉よりも体が大きい。


 大型犬が飼い主にかまってほしくて、飛びつくのとは訳が違う。


「ピエドラ・・・、いきなり何すんのよ?」


「(。・ ω<)ゞてへぺろ♡」


 そんなやり取りを見てると、響はうんうんと頷いた。


「確かに、<凸凹コンビ>だね。もちろん、紅葉は凹ね。絶壁だし」


「・・・響、私が身動き取れないからって、言ってくれるじゃないの」


「こりゃ失敬」


 紅葉は鵺との戦いで疲れていたので、響に対する怒りを長いこと保っていられず、とりあえず自分の上にのしかかったピエドラをどかすことにした。


 それから、鵺の魔石とモンスターカードを回収した。


 すると、迦具土が紅葉に話しかけた。


『紅葉、お主のガントレットを強化したらどうじゃ? お主はVITを少しでも上げておくべきじゃよ』


「そうね。そうするわ」


「あれ、僕の武器の強化は?」


「響は私に酷いこと言うから、強化しない」


「そんなぁ・・・」


「ざまぁ」


 訂正しよう。


 響に絶壁と言われた怒りは、静かではあるが保ったままだったらしく、今この場で反撃に使われた。


 合成できるのは紅葉なので、紅葉の機嫌を損ねた響が全面的に悪いのは言うまでもない。


 響に対して留飲を下げた後、紅葉はボマーガントレットVer.1と天狗、鵺のモンスターカードを1ヶ所に置いた。


「【技術合成テクニカルシンセシス】」


 ピピピッ。


 紅葉がスキル名を唱えると、電子音が鳴るのと同時に素材群が光に包み込まれた。


 その光の中で、ガントレットのシルエットにカード2枚が合体した。


 そして、光が収まると、赤を基調として黄色い雷を想起させる分岐線が刻まれたガントレットの姿があった。


「【分析アナライズ】」


 紅葉は合成結果を確かめた。


 それからすぐに、紅葉はニヤッと笑った。


「三段笑いはさせないよ。で、スキルは上書きされたの?」


 自分の武器を強化してもらえなかった腹いせに、響は紅葉が三段笑いをする前から阻止した。


「君のような勘の良い女は嫌いだよ」


「はいはい。それで?」


「もう、ノリが悪いわね。【回復ヒール】が【中級回復ミドルヒール】に、【衝反撃ショックカウンター】は【紫電反撃ボルトカウンター】に上書きされたわ」


「あっ、回復スキルが強くなったじゃん。これで、聖女(笑)としても活動できそうだね」


「しつこいわよ、響」


 ムッとした表情の紅葉だったが、加えて何か言う前に迦具土が紅葉達に話しかけた。


『バアルから、連絡が入ったのじゃ。見た目には無事そうじゃが、手助けは必要かと訊いてきておる』


「ここまで来たら、後は東塔だけだもの。私達だけでやるわ」


「そうだね。それに、妊婦を置いてこっち来てなんて僕は言えないよ」


「それは言えてる。ヘラが何を言い出すかわかんないし」


「楓がまたヤンデレになったら嫌だよ」


 紅葉と響は頷き合い、地面に手助け不要とだけ記した。


 少しのタイムラグがあり、再び迦具土がバアルの言葉を伝えた。


『了解したとのことじゃ。奏がずっと一緒にいるから、楓の心も体も安定してるそうなのじゃ』


「でしょうね」


「邪魔者がいないから、幸せだろうね」


「自分で邪魔者って自覚したら、試合終了よ?」


「確かに」


 ネガティブな反応を避けて、紅葉は楓が安定していて安心したと記した。


 その後、紅葉達は迦具土を経由して外の情報を引き出し、延暦寺の状況も伝えた。


 そして、今日の攻略はここまでにして、明日東塔に挑み、上手くいけば明日には戻れるだろうことも伝えた。


 連絡が終わると、紅葉達は夕食を取り、昨日と同じように交代で見張りと仮眠を取るのだった。

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