枕を変えたらダンジョンで目覚めた件について

第45話 それな。お布団の誘惑ってすっごいよな

　響の脱線が止まらないので、奏は響に余計な話をさせる回数を減らせば良いと考えた。

　まずは、奏が知りたい情報だけを端的に質問するつもりである。

「響、お前のリュックには何を入れて来た？」

「非常用のリュックだから、食糧と護身用の武器、後はモンスターが落とした魔石とか破片とカード」

「破片？」

「うん。ほら」

　響は自分のリュックに手を伸ばし、その中から倒したモンスターのパーツが入った袋を取り出した。

　そして、その中身を床に並べた。

「響、武器は何を使ってたんだ？」

「サバイバルナイフだよ。奏ちゃんと合流する前に壊れたけどね」

　（ナイフか。じいちゃんの狩り、たまにしか来なかったけど、器用に扱ってたっけ）

　響がナイフを使っていると聞いて、奏は昔のことを思い出した。

「紅葉、ここにある素材でナイフ作れる？」

「問題ないわ」

「じゃ、頼むわ」

「うん。あっ、魔石全部使っても良い？　流石に魔石なしだと、ジャンクランスVer1以下になりそうだから」

「勿論だ。良いよな、バアル？」

「良いぜ。流石の俺様も、自分が関わってねえ魔石まで欲しがりはしねえよ」

　バアルは強くなりたいし、早く完全な力を取り戻したいと思っているが、それはあくまで奏と一緒に戦って強くなりたいと思っている。

　それが、奏のユニーク武器である自分にとって正しい道だと信じているからだ。

「奏ちゃん、ナイフを持ったゴブリンを倒した時、そのゴブリンが描かれたカードがあったんだけど、使える？」

「モンスターカード、ドロップしてたのか」

「うん。こんなの」

「・・・ゴブリンアサシン倒したのか」

「そんな名前だったんだ」

　倒した相手に、特に思い入れはなかったらしく、響の反応は薄かった。

「整ったわ。合成するわよ。奏君、そのカードも使うわ」

「はいよ」

「ありがと。じゃあ、やるわね。【賭合成（ベットシンセシス）】」

　紅葉がチョイスした素材群が、光に包み込まれた。

　それらが光の中で一体化し、そのままナイフのシルエットへと姿を変える。

　光が収まると、黒ずんだ鋼色の刃に紫色の柄という見た目のナイフが現れた。

「できたわ。ジャンクナイフLv1よ。新田さん、手に持ってみて」

「僕のことは、響で良いよ。おっぱい見せ合った仲だし」

「ひ、響ちゃん！？　そ、奏君の前で何言っちゃってくれちゃってんの！？」

　響の爆弾発言に動揺した紅葉は、言葉の最後の方が無茶苦茶になっていた。

　その一方、楓は奏の方を向くようにして座り、両腕で奏の頭をがっしりとホールドしていた。

「奏兄様が考えて良いおっぱいは、私のおっぱいだけです。だから、よそ見しないで下さいね」

　楓のどこにそんな力があるのかわからないが、3倍はあるSTRの差をものともせず、楓は奏の頭を自分の胸に押し付けた。

　それから少しして、奏は窒息する前に楓の胸から解放された。

　触り心地はとても柔らかかったのだが、息ができない状況では純粋に楽しめるはずがなかった。

　まだ、喋るのが億劫に感じられる奏は、響のデータを自分で確認することにした。

　【自己鑑定（ステータス）】の時は、他人のデータは見られなかったが、【分析（アナライズ）】ならそれが可能だからだ。

「【分析（アナライズ）】」

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名前：新田　響　　種族：ヒューマン

年齢：20　性別：女　Lv：30

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HP：150/150

MP：150/150

STR：150（+10）

VIT：150

DEX：160

AGI：160

INT：150

LUK：150

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称号：＜罠師＞＜鬼畜＞

職業：狩人（ハンター）

スキル：【分析（アナライズ）】【落穴（ピットフォール）】【酸矢（アシッドアロー）】

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装備：ジャンクナイフVer.1

装備スキル：【毒付与（ポイズンエンチャント）】

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パーティー：高城　奏・秋山　楓・秋山　紅葉

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（これは・・・、なんとも言えないな・・・）

　響の能力値が、DEXとAGI高めなのは想定内だったが、会得した称号とスキルが曲者ばかりだった。

「バアル、称号と職業、スキルの説明を頼む」

　奏は自分が見ている画面をバアルに共有し、バアルに説明を任せた。

「あいよ。＜罠師＞は、【落穴（ピットフォール）】とかの嵌め系スキルの効果が1.5倍になる。＜鬼畜＞は、追い打ち、追撃の威力が1.5倍になる称号だ」

「なるほど。”狩人（ハンター）”の効果は？」

「索敵範囲が広がるのと、戦闘時に道具を使った攻撃をすると、その威力がINTの分だけ上乗せされる」

　狩人だった祖父に鍛えられたおかげで、奏は戦う時に使える物はガンガン使う。

　それゆえ、狩人（ハンター）の効果は使えそうだと思った。

「面白い効果だ」

「まあな。多分、奏もダンジョンでデビルアイを倒してなかったら、”狩人（ハンター）”になってただろうぜ」

「自分でもそんな気がする。スキル2つもよろしく」

「あいよ。【落穴（ピットフォール）】は、見える位置ならどこでも落とし穴を創れるぜ。【酸矢（アシッドアロー）】は、矢の形状をした触れると融ける液体を飛ばすスキルだな」

「使い続けてたら、確かに＜罠師＞や＜鬼畜＞が付きそうなスキルだ」

「照れる」

「響、褒めてない」

「えー？」

　不満そうなのは声だけで、響の表情は緩いままである。

「ところで、なんで俺の家があった場所に？　響って、大学こっちだったっけ？」

「忘れてるなんて酷い。僕、H大生だよ。国公立だから、学費も安いの」

「私よりも学歴が高いじゃん」

　響の通う大学名を聞き、紅葉が落ち込んだ。

「奏兄様、学歴で婚約を解消しませんよね？」

「安心して、楓。それはないから」

「良かったです」

　楓も学力で負けているらしく、捨てないでと縋るような目で奏を見上げていた。

　奏に学歴は関係ないと言われ、楓はホッとした様子だった。

「H大って秋葉原からだと微妙に遠くね？」

「そこは、奏ちゃんの家の近くが良かったから」

「その割には、俺が上京してから響と会ってないんだが？」

「いざ家を出ようとすると、お布団の誘惑に勝てずゴロゴロしてた」

「それな。お布団の誘惑ってすっごいよな」

「奏兄様、それで納得しちゃうんですか？」

「奏君、そこで納得するのね」

　楓と紅葉から、揃ってツッコまれたのだが、奏と響は揺るがなかった。

「寝ようと思えば、いくらでも寝てられるよ」

「奏ちゃんに同意。奏ちゃん一緒に寝よ？」

「・・・いや、寝ない」

「奏兄様！　私は信じてました！　今夜は赤飯です！」

「耐えた！　奏君がお布団の誘惑に耐えきったわ！」

　奏が昼寝を断っただけなのに、どうして楓も紅葉もそれだけ喜べるのだろうか。

「奏ちゃんが昼寝の誘いを断るなんて・・・」

　糸目だった響が、目を丸くした。

　それぐらい、奏が昼寝の誘いを断ったことが意外だったらしい。

「寝たいのはやまやまなんだけどさ、この島はまだ完全に安全じゃない。がっつり寝るなら、安全を確保してからだ」

「納得した。やっぱり、奏ちゃんは安定の奏ちゃんだった」

「午後は、海岸の探索に出るから、響は休んどけ」

「ううん、平気。養ってほしいけど、奏ちゃんだけモンスターと戦わせるのは申し訳ない」

「私達だっているんだけど？」

「見てわかった。合法ロリ巨乳妹もまな板オタク姉も、奏ちゃんにおんぶに抱っこ。これじゃあ、いつまで経っても奏ちゃんが楽できない」

「私はパーティーの回復と支援の役割を果たしてます！」

「私だって、装備の合成やサブアタッカーとしての役割があるわ！」

　楓と紅葉は、自分よりもレベルの低い響にお荷物扱いされてカチンときた。

「じゃあ、やって見せて。奏ちゃんばかりに負担をかけてたら、私が奏ちゃんをもらう」

「私達が役割を果たしてたら、誠心誠意謝って下さいね？」

「土下座よ、土下座！」

「わかった。じゃ、奏ちゃん、行こっか」

（マジかよ。めっちゃ空気悪いんだけど・・・）

　楓と紅葉の関係性が、ようやく落ち着いて来たと思ったら、響の参戦でまたパーティー内の空気が悪くなってしまった。

　奏は今日、何度目かわからない溜息をついた。