何度だって
俺の親友、青葉五月
「……そっか」
「急でごめんね」
青葉の家に遊びに行くと、すぐにアメリカへ行く話をされた。
今日はゲームしようと思って色々カセット持ってきたんだけどな。そんな気分じゃなくなっちまった。
青葉は、目の前のソファに座ってコーヒーを啜りながら淡々と話しているんだ。これからコンビニ行こうって、そんな口調で。
だからまだ、実感がわかない。急すぎる。
「いや、別に俺は。……決めたんだろ?」
「うん。昨日小林先生に話して、一緒に校長先生にも言ってきた」
「学校はどうすんだよ」
「卒業までアメリカだから、転校することにしたよ。マシロに籍置いても良いって言われたけど、それはちょっと申し訳ないし」
「そっか……。鈴木には言ったのか?」
「話した。ズビズビ泣いてたけど、納得はしてくれたよ。……泣き顔可愛かったなあ」
「……悪趣味」
納得したってことは、別れないってことだよな?
鈴木は、青葉のこと待つんだ。そっか。……そっか。
俺もコーヒーをもらいカップに口をつけると、黒い表情をした青葉がクククと笑っている。こええよ。
「冗談はさておき。元々アメリカ行くことは決まってたから。卒業後行っても鈴木さんが待っててくれるかが怖くて、早めちゃったってだけ」
「まあ、在校中に行けば鈴木もダチとワイワイしながら待てるから良いんじゃね?」
「だといいけど」
「来年はクラス違うかもだけど、今年度だけなら鈴木の写真送ってやるよ」
「ありがとう。あの、東雲くんにも言いたいんだけど、電話番号教えてくれる?」
「おう。自分の口で言った方が良いもんな」
番号を教えると、「ありがとう」と言ってスマホを操作する青葉。その姿は、何か吹っ切れたような印象を俺に与えてくる。
なんでこいつ、こんな表情できるんだ? 鈴木と離れるんだろ? あんだけ大好きな鈴木と離れるのに、なんで笑っていられるんだろう。俺にはわかんねえ。
「……なあ、青葉」
「どうしたの?」
俺が話しかけると、青葉はスマホから目を離してこっちを向いてきた。
「あのさ……その、鈴木と離れて、えっと」
「ああ。寂しいけど、鈴木さんが待つって言ってくれたから。俺は、それを信じて行くだけだよ」
しどろもどろになりながら聞くと、すぐに察してくれたらしい。前を見据えながら、こっちが気恥ずかしくなるくらい真っ直ぐな言葉を発してきた。
こいつ、こんな余裕かます奴だったか? いや、いつももっと焦るはずだ。なのにこんな落ち着いてるってことはだな……。
「も、もしかして、お前鈴木とヤっ……?」
「は!? ヤってない! 奏にも全く同じ質問されたんだけど、なんなの!」
「あ、いや。なんか余裕だなって思って、その」
「……別に余裕じゃないよ。でも、俺の用事で離れるわけだから、俺が悲しんでたら鈴木さんはもっと悲しむ」
「じゃあ、行く前に記念に一発……」
「だからしないって! なんで俺をそうやってチャラいやつにさせてくるのもー……」
うん、そっちの青葉の方がらしいわ。
今、奴は顔を真っ赤にしながらコーヒーのグラスを持ったり置いたりを繰り返している。正直、めちゃくちゃ面白い。
そっか、余裕じゃねえんだ。なら、俺はそんなこいつを応援するまでだ。
「がんばれ、青葉。卒業してこっち帰ってきても、遊んでくれよな」
「もちろん。親友でしょ? むしろ、遊んでね」
「……おう。おう!」
新学期から、寂しくなるなあ。
青葉と話し始めたのは、最近だ。
それまでずっと、青葉なんて見向きもせず学校生活過ごしてきたじゃんか。だから、その前に戻るだけ。
戻るだけなのに、それが今の俺には難しい。
俺、今までどうやって過ごしてきてた? 東雲に横田に、足立に……。よく思い出せない。
「ゲーム、しよ。今日は勝つ」
「……俺が勝つ! 3連勝したら、鈴木にもう一回告ってこよ」
「え、ちょ!? やめて! まじで今の鈴木さんに告ったら傾かれる!」
「ふは! 余裕ねえなあ、青葉は」
でも、友達の……親友の夢は応援したい。
コーヒーを飲み干した俺は、立ち上がってゲームの準備を始める。
青葉、有名になっても俺のこと忘れないで居てくれよな。
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