四月一日さん


 私は今、非常に緊張をしている。

 こんな緊張したのは、高校の受験で面接をした時以来だと思う。……あー、スーパーでお財布落として店長さんに大きな声で名前を呼ばれた時も。あれは、緊張じゃないか。


 いつも通り、青葉くんの家に遊びに行ったはずだったのに、目の前のパソコンのモニターが明るくなって、私と青葉くんを映し出している。そして、その画面の向こうには……。


「初めまして。僕は、五月の父親で青葉四月一日と言います」

「は、初めましてっ。え、えっと」

「鈴木梓さん。俺の彼女です。父さんに紹介したくて」

「うん、良い目をしてるね。最近五月がウキウキしてる理由がわかったよ」

「ちょ、と、父さん! 余計なこと言わないで!」

「あはは。千影から、先に梓ちゃんの写真もらってたから顔は知ってたよ」

「なんで!?」

「!?」


 待って、いつ撮られたの!?


 四月一日さんは驚く私たちの顔を見て笑いながら、スマホの画面を見せてきた。そこには、青葉くんと笑いながらクレープを食べている私の顔が。

 確か、このクレープを食べたのは夏休みに入る前だわ。青葉くんのバイトが早く終わって、一緒に食べに行った時の。いやでも待って、これどうやって撮ったの!?


「あと、これと、これと、これと……」

「ちーかーげーさーん??????」

「あ、やっぱり知らなかったんだ。視線がこっちのものがなかったから、隠し撮りだなーとは思ってたよ。五月なら、絶対視線こっちのやつ撮るし」

「次現場一緒だからブッ殺す」

「……恥ずかしい」


 しかも、1枚だけじゃなかった。


 タピオカドリンクを飲んでいる私、先輩の喫茶店でケーキを頬張る私、高校の中庭でサンドイッチを片手に笑う私。……って、どうして全部食べ物も一緒に写ってるの!?

 穴があったら入りたい。掘ってでも入りたい……。


「僕も、娘ができたと思ってほら。待ち受けにしてるんだ。職場の仲間から、祝福されて毎日が嬉しいよ」

「……ごめんね、鈴木さん」

「うん……」


 四月一日さんは、千影さんの旦那さんなだけあるなって感じの人だった。


 私が参加した撮影でチラッと千影さんのスマホ見えたんだけど、待ち受けが私だったもの。見間違いかなって思ってスルーしてたけど、そんなことなかった。怖いわ、青葉家。


 でも、待って。

 そういえば、私のパパとお母さんの待ち受けは青葉くんだった。なんなの、この親たち。


「僕ねえ、娘が欲しかったんだよねえ」

「すみませんね、息子で!」

「ははは! 五月の好みなら、僕たちも好きだから。こうやって紹介してくれて、とても嬉しいよ」

「……あ、ありがとうございます」

「ところで、2人はどこまで行ったの?」

「え、ちょ、と、父さん!」


 まあ、嫌われてないならなんでも良いや。

 というか、もしかして私も待ち受けと千影さんと四月一日さんにしたほうが良い? 後で相談してみよう。


 なんて考え事していると、青葉くんが声を張り上げてきた。

 びっくりして隣を向くと、顔をこれでもかというほど真っ赤にした彼が居る。


「青葉くん、どうしたの?」

「あ……。え、えっと、その」

「2人はどこまで行ったの? って聞いたんだ」

「ああ、それなら。先週、青葉くんと同じ現場まで行きました。初めてエキストラしてきて、とても新鮮で。えっと、場所は……?」

「……」

「……」


 あれ、何か変なこと言った?

 私が答えると、青葉くんも四月一日さんも2人してポカーンとした表情になった。四月一日さんなんて、そのまま笑い出したわ。


 あ、まだ公開されてないから守秘義務があるんだった! 私ったら!


「あ、ご、ごめんなさい。まだ開示しちゃいけなかったよね。えっと、四月一日さん、これは秘密で」

「あはは! 大丈夫だよ。内容じゃなければ、規約違反にはならないから」

「そうなんですね。良かった」


 びっくりした。再来週放送だから、それまでは黙っていないとね。

 青葉くん呆れてないかな。そう思って隣を見ると、青葉くんも笑ってる。どうしたんだろう?


「五月、僕も梓ちゃんに会いたいから、そっち迎えいくよ」

「はあ!? やめてよ、俺1人でそっち行ける!」

「やだー。8末なら仕事調整できるから。梓ちゃんのご両親にもご挨拶したいし。Will you get married?」

「……You are quick. I'm still a student.」

「I don't know if someone will rob her. Bye,Satsuki!! 梓ちゃんも、また会おうね!」


 良くわからないまま、ビデオ通話は終わってしまった。


 最後のは英語かな。

 早すぎて良く聞き取れなかったけど、四月一日さんは何を言ったんだろう? それに、青葉くんも英語話せるんだ。すごいな。私は、書くことしかできない。


「騒がしくてごめんね」

「ううん。最後、何話してたの? 聞き取れなくて」

「……なんでもないよ。父さんが茶化してきただけ」

「そうなの」


 メイクについてかな? やっぱり、仲が良くて羨ましいな。

 青葉くん、楽しそうで良かった。

 

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