それって、オレが知ってる単語だよな?


「ねえちゃん、今日のごはん何?」

「んー? 今日は、オムライスとアヒージョとコーンスープよ」

「ア、アヒ? アヒル?」

「アヒルじゃないよ! アピールだよ!」

「あはは、アヒージョよ。オリーブオイルとニンニク使った料理ね」

「よくわかんないけど、楽しみ! コーンスープ!」

「楽しみ!」


 双子、コーンスープ大好きなのよね。

 アヒージョは、私が好きなの。一昨日使った冷凍のシーフードが余ってるから、それと98円のマッシュルーム入れて作るんだ。


 青葉くんたち、休めてるかな。

 橋下くんも、現場続きで大変そうだからゆっくりできてますように。



***



「まあ、とりあえずこっち来てくれへん?」


 しばらく睨み合ってたオレたちは、男の言葉でキッチンから出た。


 ……五月のやつ、ケツポケットに入れてたスマホを後ろ手に持って何かしてる。警察に連絡入れてくれてるのか?

 あーあ、こういうことならカバンじゃなくてポケットにスマホ入れときゃよかったぜ……。


「……」

「……」

「いい子や。質問に答えてくれたら打たへんから、正直に答えるんやで」


 こいつ、大阪から来たのか?

 役作りで方言の勉強したから、なんとなくわかる。前は、京都との違いがわかんなかったけどな。……なんて、そんなことはどうでもいい!

 今は、この状況をどうするかだ! 死にたくねえ。


「まず、そこのピアス男や。自分、うちの「ただいまー」」

「!?」

「!?」


 さいっあく!!


 玄関から、今一番聞きたくなかった梓の声が聞こえてきた。続けて、瑞季ちゃんと要くんの声も。


「じゃあ、手洗いうがいしてきなさい。終わったら、リビングおいで」

「はあい」

「行ってくる〜」


 なんて会話が聞こえてくると、男はドアの方に顔を向けた。けど、銃口が向けられていてオレも五月も動けない。

 ドラマみたいに、反撃できりゃあ良いんだがな。やっぱ、あれはフィクションだわ。


「来るな!」

「逃げて!」


 オレらは、そう叫ぶしかできることがなかった。

 しかし、梓は、


「なあに? グラスでも割ったの?」


 と、呑気な声を出しながらドアを開けてしまった。


「…………え」


 ドアを開けた梓は、この光景……男がオレらに向かって銃を向けている光景を見て固まってしまう。


「鈴木さん!」


 すると、五月が梓とその男の間に素早く入り込んだ。男の方を向き、両手を広げて梓を守っている。

 すげえや、オレは動けない。足が震えて、一歩も動けねぇ。


「……俺の後ろ居て」


 いや、五月も震えてる。

 震えてるくせして、梓を守ろうとしてんだ。……やっぱ、五月は強い。


 しかし、銃口は相変わらずこちらを向いている。

 どうする。どうすれば……。


「……なにしてんの」


 そんなことを考えていると、梓がこの場に似合わないイラついた口調で言葉を発してきた。なぜか、男に向かって。


 梓つよっ!

 銃持ってる相手に、強気で話しかけてやんの。けど、この状況で挑発はよくねぇぞ……。


 なんてことを考えていると、続けて梓が衝撃的なことを口にしてきた。


「なにしてるのかって聞いてるんだけど、パパ」


 ん、んん!?

 今、梓なんて言っ……。


「……え、鈴木さんの?」

「残念ながらね」

「マジかよ……」

 

 えっと、一応確認なんだが、オレの知ってる「パパ」で合ってるか? 合ってるよな!?


「あ、いや。その……」


 すると、オレの目の前にいた男は、先ほどとはガラッと変わってオロオロとした様子で梓を見始めた。その手に握られている銃は、いつの間にか下ろされている。


 芸能生活の長いオレだけど、一度にこんな頭がイカれそうなほど混乱することなんてなかったぞ!

 それにだ。こんな展開、ドラマにだってそうそうねぇぞ!?

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る