「まとめて」やったらうまくいく?



「……」


 私は、6限終わりのチャイムの音で現実にかえった。


 さっき青葉くんに「放課後」なんて言ったけど、そんな時間ないでしょうに!

 急いで帰らないと、学童の時間に間に合わないじゃないの!


「じゃあ、土日の宿題は用語集134〜150ページまでの暗記と、室町時代の年表作成な」

「先生ー、多い」

「多くないぞー」

「他の教科でも宿題出てるんですけどー」

「それは知らん!」

「先生、厳しい〜」


 どうしよう、どうしよう。

 瑞季たちを迎えに行く時間は絶対だし、かと言って、自分で誘っておきながら断るのも良くないよね。

 あー、なんで気づかなかったの私!

 

「宿題なんかなあ! まとめてやれば良いんだよ、まとめて!」

「そんな集中力続かないんですけど!」


 なんか外野がうるさい。どうしたんだろう?

 いやいや、今は放課後のことを考えないと。


「やってみないとわからないだろ」

「はあい。まとめてやりますよー」


 ……そうか! まとめてやれば良いんだ!


 名案が浮かんだ私は、黒板を消している青葉くんとクラスメイトの男子の後ろ姿を見ながら帰りの準備に取り掛かった。


***



「はあ……」

「なんだよ、奏。ため息なんかついて」

「オレにだって色々あんの!」


 久しぶりのオフ。

 久しぶりの学校、久しぶりの放課後。

 羽伸ばしに学校に来てるのなんて、オレくらいじゃないの?


 オレは、橋下奏。一応、芸能界では名の知れた役者って立ち位置にいる。

 芸能の仕事であんま来れないけど、学校は好きなんだよな。自分の年齢を思い出せるじゃん?台本もないし、好きに行動して良いなんて解放的だよな!


「ふーん。……さては、女関係か?」

「バーカ。んなスキャンダルになるようなことするか!」

「なんだ、つまんな。週刊誌にリークしようと思ったのに」

「……正樹って相変わらずだよな」


 放課後、オレはクラスメイトの相田正樹と一緒に芸術棟へと向かっていた。こいつ、軽口叩けるから一緒にいて疲れないんだよな。変にオレのこと意識しないし、カメラも向けないし。

 ファンサも仕事のうちって言うけど、オレだって普通の学校生活を送りたい。そんな時、こいつといると落ち着くんだ。


「話を逸らすなよ〜。で? 何があったんだよ」


 芸術棟に向かっているのにはワケがあった。来週までに提出する油絵を進めないといけないんだ。

 出席日数はもちろん足りないけど、それを課題で補ってくれる高校を選んだからやることがいっぱい。まあ、それも楽しいんだけどな。おかげで、今のところは卒業できるらしいし。


「なんの話だったか?」

「うわ、人の話聞いてないとか」

「悪い悪い! 課題がいっぱいあって大変なんだよ」

「それに付き合ってる僕の話も聞いて欲しいところだね」

「感謝してますー」


 そうだ。

 一緒に昼食べた親友の、五月さつきの様子がちょっとおかしかったんだよな。仕事では顔を合わせるんだけど、やっぱ学校ほど話せるような場所はないし。

 昼だって、あんな注目された場所で話すようなこともしたくなかったし。後で尋問しないとな!


「それより、キャンバス張るの手伝って」

「あ! またそうやって話を逸らして!」

「はは! 正樹は面白いな」

「ちくしょう〜〜〜。絶対女関係!」

「んなことない……って」


 ちょうど正面玄関を通り過ぎようとした時。

 オレは、ありえない光景を目の当たりにして足を止める。


「鈴木さん、……っ、待ってください! ……走るの早い」

「しょうがないでしょう! 早くしないと間に合わない!」


 は?

 なんで、あいつ女といるの?

 昼言ってたやつって、女だったの!?


「……どうした、奏?」

「……」

「奏?」

「……やっぱ、女関係だった」

「はあ!?」


 オレは、隣で話しかけてくる正樹よりも、知らない女と一緒に猛スピードで通り過ぎていく親友に目を奪われた。


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