第十四話『魔魚将軍・カピラ』
由良は那美たちを屋敷の座敷に案内して言った。
「すぐに、お茶と和菓子を持ってくる」
そう言うと由良は、壁に背もたれてクルッと回転する壁の向こう側に消えた。
由良が座敷から消えるのと同時に、壁の反対側に張り付いていたバイク乗りのライダージャケット姿でサングラスをかけた老人が、由良と入れ違いで現れる。
驚いて思わず声をあげるミコト。
「うわぁ!?」
老人は驚いているミコトの顔を指差して、クスクス笑った。
「驚いた? 由良が壁に消えたら今度はジジィが回転する壁から出てきたから驚いただろう……由良が、友だちを家に連れてきたのは初めてだな……仲良くしてやってくれ」
座敷に額縁に入って飾られている手裏剣や忍具を見ていた、千穂がライダージャケット姿の老人に訊ねる。
「あなたも、忍者ですか?」
「儂が忍者? あぁ、『わんぱく忍者道場』の看板のコトか……あれは、年金生活の老人が余暇に近所の子供を集めて子供が元気に外で遊ぶようにやっている、遊びの忍者道場じゃよ……誰も本気で子供を暗殺者やスパイに仕立てようとは思っておらん……儂は忍者でもなんでもない」
「でも、お孫さんの由良さんは? 忍者?」
「あれは、由良の思い込みじゃ」
「思い込み?」
サングラスを外した由良の祖父は、少ししんみりとした表情で言った。
「由良の両親が乗った豪華客船が、機神に襲われ亡くなってから──由良は引き取った儂が育てた。由良が寂しくないように毎晩、時代劇の物語を床の中で聞かせたのだが……由良は特に忍者の話が好きでな、いつの間にか自分が忍者だと思い込んでしまった……由良のあの言葉使いはその影響だ」
今度は那美が質問する。
「じゃあ、ワタツミという忍びのイヌは?」
「あのイヌは、子供の由良が寂しくないように、儂が知り合いのところからもらってきた普通のミックスイヌだ」
金華が由良の祖父に質問する。
「にゃは……でも由良って身体能力、同じ年齢の女の子より高そうだにゃ」
「それは、由良が高校生になっても一人で『わんぱく忍者道場』の修行を真面目に続けているからじゃ……」
由良の祖父の話しだと一緒に道場で遊びの忍者修行をしていた近所の子供たちは、高学年になると塾通いや、中学受験で由良一人を残していなくなってしまい。
そんな中で修行を続けている由良の手裏剣の腕前は超一流らしい。
那美たちが由良の祖父と会話を続けていると、いきなり畳の下からクモの巣にまみれた由良が、急須と和菓子のパックが乗った盆を持って現れた。
床下から出現した忍者に驚き、のけぞるミコトと岩斗、
「うわあぁぁ!?」
「お待たせしました……縁の下の掃除も、しなければいけませんね」
どことも知れない【機神天國】の海と繋がっている洞窟にある、空気溜まりの空洞。
その空洞には──胸に獅子、肩に雄牛と熊、片腕にオウムの頭、背中に鷲の翼を持つ。 獣型機神軍団の恐獣将軍【マンティコア】が立ち。
近くの円柱岩の上に、マンティコアの従者で人工皮膚を被った猫耳少女ヒューマノイド【マシン・バンテーラ】が、腰かけて控えている。
マンティコアが、海と地下の水路で繋がっている地中の海水湖を見下ろしながら言った。
「魔魚将軍【カピラ】どの──海軍師団に所属する御使いレベルの機神同胞『イクチ』が、自ら定めた戒めの眠り期間は、すでに過ぎているのではないのかな?」
海水湖の水面に浮かぶ、甲殻エイ型の巨大機神──魔魚将軍・カピラは、頭部に埋め込まれたクリアーパーツに人間の顔を映し出す。
中央に映し出された顔の周囲には、苦悶の表情を浮かべた人間たちの顔が浮かび上がる……その顔の中には、由良の両親の顔もあった。
クリアーパーツの中央に映し出された、中年男性の顔が喋る。
「確かに……我が同胞、機神イクチが定めた戒めの期間は終了している」
中央に映し出されていた中年男性の顔が、由良の母親の顔に入れ替わり、カピラの口調で喋った。
「イクチは、我の誕生日プレゼントのために独断で出撃して豪華客船を襲い、奪った人間の記憶をプレゼントしてくれた……素晴らしい誇れる機神だ」
顔が由良の父親の顔に変わる。
「しかし、その性格故に誰も咎めてはいないにも関わらず。
海底の洞窟に自らの意志で戒めの眠り期間を設定して閉じこもった」
十代の可憐な少女の顔に変わる。
「共食い好きな、サル頭の人間どもは……来るべき最終決戦には、一匹残らず始末してやりたいものだ」
「カピラどの……その発言はサルに失礼であろう」
老人の顔でカピラが言った。
「それは、失礼した……サルに詫びよう」
マンティコアのカピラに対する指摘を聞いたバンテーラは、ケラケラと笑う。
その時──海水湖から現れた巨大イカ型機神『クラーケン』の、ヒシ形触手の上に腕組みをして立った姿勢で。
人魚型機神から二本足の陸上歩行型形態に、一時的に変わった。
海軍師団長【惑わしのセイレーン】が、海水を滴らせて現れた。
将校帽子に、丈が長い前開きの軍服を着て、銀のワンピース水着のような機体をしたセイレーンの、人間形態の両足は銀色に輝くウロコに覆われた機械の足だった。
惑わしのセイレーンが言った。
「機神大神さまと、四天王さまからの、出撃命令が出ました──機神『イクチ』降臨です」
そう言ってから、元人間で小国の皇女だったセイレーンは、クスッと笑う。
惑わしのセイレーンは四天王の一人、横恋慕したディラハン伯爵によって機神に人体改造された存在だった。
マンティコアが、セイレーンの笑みについて訊ねる。
「何か面白いコトでも?」
「ええっ、四天王のお一人──冷機さまが、機神大神さまから依頼されていた『人間の生殖繁殖のシステムを機神に組み込む実験』に成功したそうです……最初の機神の子供が誕生したそうです」
「また、効率が悪いコトをなぜ? 機神なら製造や自己再生をして、仲間を増やせば済むコトを」
「さあ、最終決戦に備えた。機神大神さまのお考えですから……わたしたちには、なんとも──そろそろ、四大師団長の人間フィロトに対するご挨拶をしなければなりませんね。
宇宙の師団長は遠方ですからセフィロトへのご挨拶には、間に合わないでしょうけれど……それでは機神天國に幸多きことを」
惑わしのセイレーンが、両足をガシャガシャと機械の人魚足に変化させて海水湖の中に、飛び込み消えると。
クラーケン型機神と魔魚将軍も海中に姿を消した。
マンティコアの腕のインコ頭が。
「災いだ! 災いだ! 大いなる災いだ!」
と、騒いだ。
セイレーンの「四大師団長」の言葉を電子頭脳内で反復していたバンテーラは。
(四大師団長? 五大師団長の間違いでは?)と、思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます