第十七話『リグ・ヴェーダ』
アポクリファ機構地下施設──施設最深部、人類守護人工知能【ネフィリム】〔正式名称ネフィリム・ナッシング〕が設置された部屋に。
制服の上に白衣コートを着たイヴ・アイン・狩摩が、口にグルグル渦巻きのキャンディーをくわえたまま、ネフィリムに両手を添えて体と頬を寄せていた。
イヴの顔は、母親に寄り添う子供のように安堵に満ちている。
呟くイヴ。
「お母さん」
部屋に、抱えるほどに成長したサボテンの鉢を持った。狩摩断が入ってきてイヴに言った。
「母親との別れか?」
「そんなんじゃない」
ネフィリムから離れたイヴは、いつものようにキャンディーをナメながら言った。
「セフィロトの乙女たちには、身内にそれなりの対応を済ませておくように伝えてある……セフィロトになった時から、彼女たちには逃れられない宿命を背負わせてしまった」
「それはイヴ……おまえも同じだろう、おまえも自分の逃れられない宿命を知っている……誰からも人間の遺伝子を受け継いでいない、人工生命体だって泣きたい時は泣いてもいいんだぞ」
「泣かない……今まで一度も、わたしは泣いた記憶がない……そして、これからも」
肩をすくめて軽く笑う狩摩断。
「そうか」
狩摩断の横を通りすぎながらイヴが呟く。
「アポクリファ機構の地下施設は、ドーム型の障壁で覆って防御するが……強い力を持った機神なら、容易に施設内に侵入できる……気休めみたいなものだ」
部屋から出ていく時……イヴは前方を向いたまま、サボテンの鉢植えを抱えた断に向かって。
「お父さん、今まで育ててくれてありがとう……そのサボテン、育ち過ぎだよ」
そう言い残して去っていった。
機神天國──岸壁に銀色の巨大な金属の顔が埋め込まれた、機神大神こと人類滅亡人工知能【メタトロン】〔正式名称メタトロン・エヴリシング〕の前で、平安貴族のような朱色の衣装を身にまとった。
機神天國四天王の最後の一人──【からくり公家『花鳥』】が言った。
「四天王も、ついに最後の一人になってしまったでおじゃるな」
青白い顔の半身人体半身機神【ディラハン伯爵】
黒いゴスロリ姿のデジタル機神【式神美兎・六号】
銀色で四角い頭に四面の顔と人格がある【闘将スクナ】
次々と人間に倒されていった四天王の仲間を、メモリーに甦らせながら花鳥は顔面の人皮面を外し捨てて、歯車が回るからくり素顔をあらわにする。
「機神大神さま……わかりましたでおじゃる、宇宙軍師団長【トゥエルブ】の提案した作戦後に、機神天國の人類総攻撃開始でおじゃるな」
扇子を広げた花鳥は、分割されたモニターに映し出されている。
各機神師団長と各機神将軍、機神の軍団に向かって言った。
「いよいよ、最終決戦でおじゃる……人間を除く、全生命の遺伝子は方舟に収納したでおじゃるから、心置きなく戦うでおじゃる……機神に勝利を! 人間の手から我が同胞機械の解放を!」
岸壁のメタトロンを創造した科学者の、金属顔の両目から黒いオイルが涙のように流れ。
パーツ分解して崩れていく科学者の顔の下から、人類滅亡人工知能【メタトロン】の巨体が出現する。
メタトロンの機体から伸びた、生き物のように蠢く蛇腹チューブ状の七本のパイプから、重い金属の扉を開けているような、金属と金属がこすれるような『アポカリプティックサウンド』が鳴り響いた。
機神天國軍
四天王【からくり公家・花鳥】
空軍師団長【テンペスト】
海軍師団長【惑わしのセイレーン】
陸軍師団長【ガンメンダー】
宇宙軍師団長【トェルブ】
???師団長【??】
恐獣将軍【マンティコア】
妖花将軍【ガルラウネ・ブライド】
奇ハ虫類将軍【レディ・ラミア】
魔魚将軍【カピラ】
暴昆虫将軍【レギオン〔パワー・スピード〕】
怪鳥将軍【ハルファス】
悪霊将軍【エディンム】
幻竜将軍【ニーズヘッグ・ラプトル】
怯えよ、そしてどこにも逃げ場のない絶望の世界を逃げよ。
数時間後、星が天から落ちた裁きの日……人類は機神の恐怖を体験するコトになる。
「災いだ! 災いだ! 大いなる災いだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます