最終章【メタノイア(Metanoia) 】

第十六話『末法世界』


 どことも定かではない機神天國──地下の空洞で暴虫将軍兄弟が、機神大神より下された人間に対する総攻撃の日に向けて士気を高めていた。

 クワガタムシ型の人型機神形態をした、暴昆虫将軍弟の【レギオン・スピード】が言った。

「兄者、いよいよだな……人間どもとの最終決戦」

 兄のカブトムシ型の人型機神【レギオン・パワー】がうなづく。

「最終決戦に備えて、生体電池は新品に交換しておけ……予備も用意しておいた方がいいな、従者【悪虫女王アポリオン】生体電池の蓄えはどうなっている?」

 パワーに訊ねられた、等身で妖精のような姿でサソリの尾を持つ、レギオン軍の機神女王アポクリオンは、頭を垂れてかしづいた。


 アポリオンの背後には、イナゴのような姿をした女王と同じ顔でサソリの尾を持つ暴昆虫軍兵士たちが控えている。

 女王アポリオンが言った。

「ご心配には及びません、すべての生体電池で活動する暴昆虫機神に行き渡るように、備蓄は万全です」

 アポリオン兵士たちの後方には、巨大な六角形が連なる蜂の巣状の物体があり。

 虚ろな目で凍結保存された人間たちが収まっていた。

 レギオン・スピードが兄のレギオン・パワーに訊ねる。

「兄者、新しい生体電池はどこにある?」

「棚の一番上に並んでいる」

「古くなった電池を、新しい電池に交換するとするか」

 スピードは、カプセルが並んだ棚に近づくと、機体の胸部を開く。


 スピードは体の中にセットされていた、萎びて息も絶え絶えの人間が入った生体電池のカプセルを外して不要電池箱に捨てると。

 若い裸の女が閉じ込められた、新しい生体電池を棚から取り出した。

 カプセルの中に閉じ込められている人間の女が、恐怖に悲鳴を発する。

《い、いやっ……やめてぇ……いやあぁぁ!》

 スピードが人間の叫び声を無視して、体の中に新しい生体電池をセットして、カバーを閉じると声は聞こえなくなった。

「ふぅ……新しい生体電池に交換すると、生き返るぜ……兄者の生体電池は確か蓄電池だったな?」

「あぁ、生命力が強い人間に、生体エネルギーを蓄電して繰り返して使っている」

 暴昆虫将軍兄弟にとって人間は、単なる道具だった。



 崖の上に、鉄骨を組み合わせて鳥の巣のようにしたモノの上に陣取っている、怪鳥将軍【 ハルファス】は。

 長く伸びた首の先にある、姑獲鳥(こかくちょう)のような人面に酷似した鳥顔の男声で笑った。

「ほほほほっ、やっと人間どもと一戦交えられますわ……どれほど待ち望んだコトか」

 突き出た鼻が鳥のクチバシのような、ハルファスの頭上には。

 従者で零戦のような形をした、プロペラ戦闘機で底部に鋭いワシ爪の機械アームが付いた機神【迅雷】が旋回していた。

「ほほほほっ、迅雷も早くカギ爪で人間の体を引き裂きたくて、疼いていますわね……ほほほっ」

 ハルファスは、巣の中に転がる。透明な球体カプセルを鼻先で転がしながらカプセルの内部状態を確認する。

 

 液体が詰まったカプセルの中には、鳥人間に肉体が変貌した人間たちが入っていた。

 羽毛が生え、クチバシが伸びた人間と鳥類の中間的な生物に変貌しているカプセルの中から、未熟な変貌をしている人間が入ったカプセルだけを選り分けて。

 ハルファスが言った。

「ほほほほっ……この遺伝子変異カプセルの中に入れた人間は、失敗作ですわ……捨てましょう」

 鼻クチバシで挟んだカプセルを、崖上から谷底に投げ捨てる怪鳥将軍。

 谷底には割れた無数のカプセルが転がっていた。

「ほほほほっ、人間ども引き裂いて差し上げますわ……ほほほほっ」

 怪鳥将軍にとって人間は、玩具に過ぎなかった。



 黒い霧状のナノ機神集合体の悪霊将軍【エディンム】の体の真ん中には、楕円形の鏡面のようなモノがあった。

 エディンムの近くに控える従者は、一人の人間の女……虚ろな目で自我を失った、人間の女が沼のような場所に下半身まで浸かり立っていた。

 エディンムの前にいる、小型戦車に乗った機神陸軍師団長【ガンメンダー】が、エディンムに言った。

「すまねぇが、最終決戦に備えて兵力を補強したい……悪霊軍の機神兵士を貸してもらえないか?」

 エディンムが霧状の体から、骸骨のような手を出して指し示した地面の中から、骸骨顔をした等身の機神兵士たちがゾロゾロと出現した。

 その光景は、まるで死者が甦っているようだった。

 悪霊将軍従者の人間女性──その首筋から吸血ヒルのような鋭い牙を生やした、機神本体の【ラングスイル】が現れてエディンムの意思をガンメンダーに伝える。

「『オレとおまえの仲だ、遠慮するな……機神陸軍兵士なら何体でも貸してやる』」

「すまねぇな、エディンム……最終決戦に向けて、空の師団長【テンペスト】、海の師団長【惑わしのセイレーン】も着々と準備を進めている」

「『最終決戦のエキシビジョンで、宇宙軍師団長が人間にパフォーマンスを披露するとか……マシン・バンテーラから聞いたが?』」

「宇宙軍師団長の【トゥエルブ】がか? それは初耳だ……四大師団長が揃うのか」

 人間に寄生して、女の首筋から鎌首を持ち上げたラングスイルが、さらに悪霊将軍の言葉をガンメンダーに伝える。

「『そう言えば、バンテーラが気になるコトを漏らしていた……師団長は五体いると、五体目の師団長の上でバンテーラは機神男児を出産すると』」

「どういう意味だ? 五体目の師団長の存在は初めて聞いたぞ?」

「『さあ? それはオレにもわからん……機神大神さまが最初から組んでいた計画らしい』」



 等身でヴェロキラプトル型の幻竜将軍【ニーズヘッグ・ラプトル】が、口元を赤いオイルで染めて言った。

「嬉しいぜぇ、人間どもが恐怖で逃げ惑う姿が、もうすぐ見れるぜ……けけけっ」

 ニーズヘッグの傍らには、コウモリの翼を持つスピノサウルス型の機神従者が控えている。

「暴れて、暴れて、暴れまくってやるぜ! けけけ、人間狩りのはじまりだ!」

 幻竜将軍にとって人間は、ゲームの得物でしかなかった。

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