4章:War (大戦)

1話:Search (捜索)

 僕は水羽と友絵の2人を追って外に出た。

彼女達は一体どこへ向かっているのだろうかという疑問を胸に歩みを進める。

しばらく歩いていると僕は歩いているうちに妙な既視感きしかんを覚えた。確かこの前に友絵と2人で行った時に通ったような気がするのだ。


「上地さんと雷電さん……ちょっと休ませてください。」


 突然水羽が音を上げると僕と友絵を交互に見回している。彼女の表情には疲労の色が濃く、これ以上歩くのは良くないと思った。


「どこか休憩しよう。」


 僕はそう言うと辺りを見回してどこか休めそうな場所を探す。心の奥底にはこんな荒廃したところでもオアシスのようなところはあると思っていた。

しかし僕の視界に広がるのは茶色の地面ばかりで休めそうなところが全く見当たらない。


「こりゃダメだね。どこにも見当たらないよ。」


 友絵も諦めたようにぽつりと呟く。こんな状況下なのに休めそうなところがあると思っていたのが間違いだったのだと痛感した。

僕はとりあえず水羽を地面に座らせてどうしようかと考える。なにか手があるはずだと思考をめぐらせても最善策どころかなにも浮かばない。

 その時、突然水羽はため息をついて後ろに結んでいた白いリボンをほどいた。


「水羽ちゃん、そのリボン綺麗ね。どこで買ったの? 」


 友絵が物珍しそうな目でリボンを見つめながら水羽に訊ねると彼女は手ぐしで髪の毛をすきながら答える。

彼女の青い髪の毛が手ぐしによってさらさらになっていく様子はとても美しく見とれそうになった。


「これはわたしの大切な人から貰ったんです。誰だったかまでははっきりとは覚えていませんが……。」


 水羽の意味深な呟きに僕は疑問を抱える。

しかしガールズトークをしているような雰囲気に男である僕が割り込むという抵抗感があった。


「そうなんだ。友絵も欲しいなぁって思ってたけど大切な人から貰ったなら仕方ないね。」


 友絵はそう言いながらクスクスと笑う。それにつられたのか水羽も同じく笑っている。

完全に蚊帳の外に置かれた僕はどうしたらいいのか分からず、交互に2人の顔を見ることしか出来なかった。

しばらくして水羽が僕に気づいたのか申し訳なさそうな顔をしながら言った。


「あっ……雷電さん、ごめんなさい。行きましょう。」


 僕は別に問題ないよとジェスチャーで軽く返すと僕達は再び歩き始めた。


 その刹那せつな、悲鳴が辺りに木霊こだまする。

どこから聞こえたのだろうかと僕は辺りを見回す。おそらく近くにある街から聞こえたようだ。

先程まで暖かく緊張感のない空気が一瞬でピリッとする。


「2人とも、行きましょう。」


 僕は友絵と水羽に対して鋭く言うと街に向かって走り出した。

もしかしたら悲鳴をあげた女性はもう死んでしまったかもしれない。僕はそんな思いを振り払おうと頭を振って忘れようとする。

 いや、絶対間に合うはずだと僕はかすかな思いをたくして走ることしかできなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ…………。」


 僕は荒い息を出しながら街へと着く。

汗が全身から滝のように流れて心臓はバクバクと音を立てている。

ひとまずゆっくりと深呼吸をして落ち着こうとするが、街に漂う異様な空気に圧倒されて落ち着けるはずがなかった。


「幻夢くん、速いよ……。はぁ、はぁ……。」


 ようやく友絵と水羽も街に到着するが、2人の顔には余裕さのかけらもなかった。

僕は改めて周りを見回すと倒れている街の人を発見する。しかし揺り起こしても街の人の目は覚まさなかった。


「雷電さん、どうしたんですか? 」


 水羽が不安そうな声で僕に話しかけてくる。しかし僕は何も答えることが出来なかった。

この異様な空気はおそらくあることで人々が倒れているおかしな状況から来ているものだろう。原因がわかったとしても僕は何をしたらいいのかさっぱり分からずに困惑していた。


「キャー!! 」


 再びこの街のどこかから悲鳴が上がる。それを聞いた友絵は何故か銃を構えながら歩き始めた。

おそらく何者かがどこかに現れることを警戒しているのだろう。


「これからどうなるのですか……。 」


 水羽はやや不安そうな表情で僕と友絵について来ていた。怯えたようにプルプルと震えている姿はトイプードルを連想させる。


 バァン!

その刹那、友絵が持っている銃を発砲した。

 彼女の銃の長さからのおそらくライフルかショットガンだろう。

グリップの部分には六角形の宝石がキラキラと輝いていた。


 もう少し目を凝らして見ると彼女の対角線上に2人の人影が見える。その影は陽炎かげろうのようにゆらゆらと揺れていてどこか不気味さを感じた。


「また我の契約を邪魔をするつもりか?だから愚かな下等生物は我が目の前に消えるべきなのだ。」


 この口ぶりからして黎斗だと僕の脳内が素早く反応していた。彼は人質のように愛麗を拘束してしたり顔でにやにやと笑っている。

厨二病ちゅうにびょうこじらせていてなおかつ変態とは……と少し彼に対して引きそうだったが、今はそんなことを言ってられない。


「ま、またアイレちゃんに手を出したの!?許さないんだから! 」


 友絵は銃を黎斗に向けながら叫んだ。それに対して彼は嘲笑ちょうしょうすると鎌を愛麗の首に突きつける。


「それを撃ったら彼女の首が落ちても知らないのか?銃を下ろせ。」


 どうやら脅しをかけてきたようだ。

僕はもうこうなった以上はこれしか手がないと思い、友絵の前に立った。

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