第20話

 金曜日。

 学校行ってバイト行って寝たら土曜日。

 そして土曜日はデート。

 もう! 海原! 先輩が俺の事好きなわけ無いじゃん! あんなこと言うなよ! 顔がニヤケちゃうだろ!

 学校の授業は右耳から左耳に抜けていった。

 昼休みはまた昨日のグループと食べたが、ずっと上の空。

 他人の視線なんか気にならなかった。

 放課後、バイトへ行き、接客。

 その間も明日のことが頭から離れなかった。


 家に着き、ご飯でもと思ってた。

 渥美の靴があった。

 靴を見つけたと同時にリビングの扉が開いた。

 渥美がこちらを覗き込んでいる。


「分かってる。荷物置いてくるからちょっと待ってて」

「わかった!」


 2階に荷物を置きに行き、下に降りた。

 この前のように玄関に腰を置いて待っている。


「渥美。靴履かせてくれ」

「はーい」


 そう言いつつ渥美は立ち上がり、場所を譲ってくれた。


「じゃあ行ってくる」

「はーい、行ってらっしゃーい」


 悠の気の抜けた返事が聞こえた。


 *


「ねぇ信。今日1日中ぼーっとしてたけど大丈夫? 何かあった?」

「え? いや、なんにもないけど?」

「あやし」


 冗談めかして言ってる感じじゃないなこれ。

 何かあると確信してから言ってる感じがする。


「言えないこと?」

「ごめん」

「そっか。ならいいよ」


 言えるわけない、言えるわけがない。

 普通の女の子と遊びに行くってだけでも言えないのに、その上中学1の有名人の中村先輩なんて名前言えるわけない。

 そのまま2人並んで歩き、渥美の家に着く。


「今日もありがとね。また明日」

「おう、じゃあな」


 そう言って別れた。

 家に帰り、風呂を済ませ、食事を済ませ、部屋に戻る。

 明日のことを考えるだけでニヤニヤしてしまう。

 人生初のデート。

 ニヤケないわけが無い。

 明日は遅刻する訳にはいかない。

 早く寝よう。


 *


 土曜日。

 天気は快晴。

 いい天気。

 現在の時刻7時。

 最高のコンディションだ。

 さて服はどうしようか。


 ……


 悩みに悩み、分からなくなった。

 悠に相談したら、「無難でいいんじゃない?」なんて適当な返事を……

 その後直ぐ部活に行くし。

 結局黒の綿パンに白のシャツ、白のスニーカー、カーキーのMA_1と可もなく不可もない正に無難!

 これにワンポイントの腕にG-SHOCK。

 髭剃って、普段使わないワックス付けて、最後スプレーで固まらせて……

 時刻は9:30。

 いざ、しゅつじ……


“ピーンポーン”


 誰だよ……


 *


 母親の頼んだ化粧品だった。

 よりによってこのタイミングかよ!

 いや、むしろ俺が居たから良かったのでは?

 今家に誰も居なかったし。

 さてと、少し出鼻をくじかれたが、今からは楽しい楽しいデートだ!

 いざ、しゅつじ……


“ピーンポーン”


「あー! もう今度は誰ですか! 新聞ですか!」

「え? あ、新聞屋さんじゃないです……」


 中村先輩だった。

 どゆこと?


「あ、ごめんなさい。さっき宅配便が来たから、次は新聞かと」

「私の方こそごめんなさい。驚かせようとしたけど、逆にこっちが驚いちゃった」


 そう言って笑う先輩。


「そうだったんですね。ごめんなさい脅かしちゃって」

「ううん、大丈夫。それよりさっきから謝ってばっかりだね」

「あ、いや、ごめんなさい」

「また謝った」


 そう言ってふふふと笑う先輩。

 その顔見てると、何故ここに先輩が? とか何故先輩が俺の家知ってるの? とかどうでも良くなってしまった。


「及川くんも準備万端っぽいし、ずっとここに居てもなんだから、行こっか?」

「あ、はい。そうですね。行きましょう先輩」


 そのまま2人並んで駅まで歩き出した。


 *


 駅までの道で先輩の姿を改めて見ていた。

 ここで、恒例の、し〜ちゃんチェック!!

 これ1回言ってみたかった。

 え? ネタ知らない?

 タ〇さんチェックで検索検索。

 置いといて。

 本日の中村先輩。

 綺麗です。以上。

 やべ語彙力死んだ。

 改めて。

 バイト中は上げている髪を下ろし、ウエーブを付けて、ゆるふわに。

 深緑色のフリルニットに白のロングスカート、紺のスニーカー。

 黒のショルダーバッグと、耳元にはイヤリング。

 すっぴんでもめっちゃ可愛いのに、薄化粧が、素材の良さを引き出す。

 控えめに言って超可愛い。

 こんな人の隣を今日一日中歩くの?

 釣り合って無さすぎる。


「どうしたの?」


 変な行動ばっかり取ってるから、心配されちゃったよ。

 とりあえず褒めよ。

 褒めるとこしか無いけど。


「あ、いや、先輩、今日も綺麗だなと思いまして。あと服も似合ってて、先輩の魅力を引き出してるなと思いまして……」

「ふふふ、ありがと。40点かな?」

「赤点ギリギリだー!」


 コロコロ笑ってる先輩。

 笑ってくれたなら良かった。


「それでー。今日はどこ連れて行ってくれるのかな?」

「今日は、水族館に行こうかなと思ってるんですけど……」


 目がキラキラ輝いていた。


「え! 本当に?」

「こんなことで嘘ついてどうするんですか」

「やったー! 私ね、クラゲ大好きなんだ! このバックにもクラゲのキーホルダー付けてるし!」


 良かった。

 木曜日の作戦会議の日、何とか思い出したこと。

 それは、中村先輩がいつもバイト先に持ってくるトートバックにクラゲのキーホルダーが付いていることだった。

 それ以外も、使っているペンには、ノックする部分にクラゲがくっ付いていたり、limeのアイコンがクラゲだったりと、細かな情報から、クラゲが好きなのでは? と推理。

 てかそれだけヒント合ったら誰でも分かるわ! 先輩の好きなものはいつもひとつ!

 結果、水族館にしようという決断に至ったわけであった。


「良かったです。喜んでもらえて」

「でも及川くんはいいの?」


 気遣いのできる人だな。

 今日は誰のための退職祝いだ! と言ってやりたい。


「はい、俺も魚好きなんで。見るのも食べるのも。それに今日は先輩に楽しんでもらいたから」

「ありがとう! じゃあ走っていこ!」


 手を掴まれた。

 先輩が後ろを振り向き、俺を引っ張りながらながらかけ出す。


「ちょっと先輩。早く行っても電車来ませんって」


 中村先輩の手は柔らかいな、と思いながら、俺も駅までの道をかけ出した。

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