第18話

「どうするの?」

「いや、それは自分で考えて……」

「無理だね君には。経験がないでしょ?」

「無いけど、それはお前もじゃねーの?」

「そうだね。でも私はできる気がする」

「どこからそんな自信が?」

「どこだろうね?」


 俺たちはデートについて話し合っていた。

 あの後、イマイチな雰囲気になっていたのだが、海原が不意に思いついたように、デートの話しよ! ってことになった。

 俺は誰に誘われたとか、どうやってデートにこじつけたかとか、相手はどんな人なのかとかとか話していた。

 特にどうやってデートにこじつけたかの話をしていた時は、カラカラと笑っていた。

 そりゃ笑うわな。なんたって記憶がないんだもんな。

「どーやってデートに誘われたとか、その辺の情報全部無いとか、めっちゃウケるんですけどー」と、現代っ子風にめっちゃ言われた。俺も同じこと聞いたら同じ反応してただろうから、なんとも言い返せない。


「1番肝心なこと忘れてた」

「なんだ肝心なことって?」

「君はその先輩が好きなの?」

「は?」


 いきなりの質問でびっくりして素っ頓狂な声を出してしまった。それに対して海原は「何その声〜」とカラカラ笑っていた。

 てかお前キャラ変わりすぎ。前髪で顔隠してて、誰とも喋らない、根暗でミステリアスな陰キャ雰囲気はどこに行ったの?


「再度聞くよ? 君はその先輩が好きなの?」


 その後付け足すように「もちろん恋愛的な意味でね」と言われた。


「少し時間をくれ」

「どうぞ」


 恋愛か……

 好き、か。

 俺はどう思っているのだろう。

 確かに中村先輩は美人で、彼女にできたら最高なのかもしれない。

 でも……


「俺は先輩のことが好きだ。でもそれは恋愛的な意味じゃない」


 キッパリと言い切った。

 俺は言葉を続ける。


「俺は先輩のことを……

「わかった! なら先輩が君のことを好きなんだ! いや〜青春だね〜」


 続けられなかった。遮られた。


「お前! 俺がこれから自分の気持ちを話そうとしてるのに!」

「どーーーーせ、先輩は俺の憧れだ〜とか、大抵の男は好きになるかもしれないが、俺は別だ〜とか言うんでしょ?

 そんなテンプレセリフ小説で読み飽きてんの。

 君が好きじゃないなら先輩が君を好きなの。

 この結果だけで十分おなかいっぱいなのに、そこにまだ詰め込もうとするなんて。私に別腹はない!」


 酷い言われようだが、正論である。

 てか先輩が俺を好き?

 そんなわけ……


「そんなわけあるから人生って面白いよね」

「お前、俺の心読むんじゃない!」

「あ、当たった? ウケる〜」


 海原、根暗っぽい雰囲気出しといて、元々はギャルの類だろ。

 そう思った。


「ま、先輩は君のことを好きかどうか置いといて」

「え? 好きなの? 好きじゃないの?」

「そんなの先輩に聞けばいいじゃない。それより君は先輩のことが好きじゃない。つまり今回のデートは本命じゃない相手」


 なんか何股もかけてる様な言い方。

 酷い。先輩をそんな風に。


「ってことはそこまで本気じゃなくていいんじゃない? 適当にモールとか行ってウィンドウショッピングして、お昼食べて、映画観るとかで。あ、でも退職祝いとか言ってたね。なら焼肉とか……でも女子に焼肉……スイパラの方が……」


 何か1人でブツブツ言い出した海原を見守るしかなかった。

 そしてまとまったのか、話し出す。


「うん、やっぱり私が決めるより、君が決めた方がいい気がする。だから私はなんにも言わない」

「へ?」

「デートっていうのは、相手のことを考えることが1番重要なこと。

 私にはまだ君の先輩のことが全然見えてこない。何が好きで何が嫌いなのか。

 結局この中で君が1番先輩のことを知ってる。先輩の好きなことを思い浮かべながらデートプラン組んでみたら? そうすることで相手も喜ばせようとしてくれた努力に嬉しくなるんじゃないかな?」

「先輩のことを考えて、デートプランを組む……か。ありがとう海原」

「どういたしまして」


 凄い。的確なアドバイスなのかわからないけど、妙に納得してしまった。


「ま、私は努力してくれても、気分が乗らなかったら全然楽しく無いけどね」

「海原ぁぁぁああ!!!」


 *


 あの後海原と別れた俺は、先輩とのデートプランにものすごく悩んでいた。

 それはもうどうやって自分の部屋に入ったかも忘れるくらいに。

 明日までには、いや、準備もあるだろうし、今日中に伝えた方が、ああどうしよう。


「信、何そんな難しい顔してるの?」


 渥美が目の前にいた。


「え? いや、別に。てか渥美、なんでこの部屋にいる」

「ノックしても気づかなかったからそのまま入ったの。それでも気づかないから声掛けたの」

「そうか。悪かった」

「何かあったの?」

「いや、別に」


 同じ答え方してる。我ながら誤魔化し方のバリエーションの無さに悲しくなる。


「あっそ。悠ちゃんから伝言。もうすぐご飯できるから下降りておいでだって」

「わかった」


 そう言って渥美は降りていった。

 少ししてから俺も降りていった。

 いい匂いがする。今日は肉じゃがかな?


「信兄、今日はいいタイミング! 丁度できたよ」


 そう言ってテーブルの上に置かれる。

 並べられたのはご飯と肉じゃが、あとマカロニサラダ。

 いい匂いだ。


「じゃあ、いただきます」

「「いただきます」」


 悠がいただきますを言い、俺と渥美は同時にいただきますを言う。

 まず肉じゃがに箸を伸ばす。

 牛肉にじゃがいも、人参、玉ねぎが入っている。

 入っているものだけならカレーにも、シチューにもできるだろう。

 箸でじゃがいもを割って口に運ぶ。

 じゃがいもはホクホクで……


「あっっっっっつ!!!!」


 ものすごい熱かった。

 それを見て2人は笑ってる。

 母親が居ない時はいつもこんな感じ。

 悠と渥美が一緒に作ってくれる。

 部活があり、帰りが遅く、そこからご飯作りをさせてるなんて、凄く悪い気がするが、2人がやりたいと言い、俺は台所に立つことすら許されない。

 まぁ、俺が作ったらここまで繊細な味にはならないだろうから、罪悪感を少し持ちつつも、美味しく頂いている。

 だからせめてもの感謝の印として、食べ終わったあとは毎回この言葉を残す。


「ごちそうさまでした」

「「お粗末さまでした」」


 2人が同時に返してくれる。

 これが親が居ない時の、及川家の日常。

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