第7話 幼馴染が親友に惚気る話し
天木柚子という少女がいる。
高校二年生であり、虎や小雪と同じクラスの少女だ。
そして亜冥寺小雪とは親友同士であり、虎と同じく小学生からの付き合いだ。
「ゆーちゃん、ゆーちゃん」
そして夏休みも終わりにさしかかろうという日、小雪とカフェに来ていた柚子は辟易としていた。
「なに?」
「虎がね、本当にしょうがないんだよ」
それから始まるのはただの惚気話だ。
しょうがないと言いつつその実イチャイチャしているだけではないか。柚子はじと目で恋する親友を見ていた。
「そしてね、虎は硬派なの。身持ちが硬いのはいいけど、ヘタレなのはちょっと傷。でもそこが可愛いというか、ギャップが好き」
「そーですかー」
棒読みである。だが小雪はまるで気付いていない。
恋は盲目なのだ。
「はー。それで、あいつの事好きなの?」
「へ? えっと。その。……」
「まあ聞くまでもないんだけど」
「なんで!」
「分かりやすすぎるのよ!」
分かりやすい。本当に分かりやすい。
まさかあれで隠しているつもりなのだろうか。好きだともろに言っているし。
「うん。まあ、悪くないかな?」
「はぁ。小学生からの付き合いでよくそこまで好きでいられるわね」
「す、好きっていうか。あの……うん」
観念したのか、しおらしくうつむく。
そして柚子は呆れると同時に関心した。幼馴染というのはなかなか恋愛対象に見れない。柚子も、幼馴染の事は異性として見れない。
だが小雪は今だお熱だ。過去の事を思えば幻滅もしそうだが、そんな気配微塵もない。
本当に呆れると同時に関心する。
「はぁ。さっさと付き合っちゃえば良いのに」
「あぅ。……恥ずかしい」
「そんなんじゃ誰かに取られるわよ」
「そ、それはダメ!」
「じゃあ早くしないと。危ない男が好きな子は一定数いるものよ」
不良として、この町では知らぬものがいないほどの男虎。
もう名を聞かぬとはいえ、過去の勇名に惹かれる物はいるだろう。
今のところそんな気配はないが……。
「……虎が、なんて言うか」
「あいつ完全にホレてるでしょ」
「そうかな? ……でも虎は私に迷惑かけたって罪悪感もってるから」
過去の事を考えれば、罪悪感を抱くのも無理はない。小雪を危険な目に合わせたのだ。
そして確実に小雪の事は好きであろうが、虎の事だ。告白をしても自分の思いを殺して拒否するだろう。小雪と付き合う資格などないと言って。
「はぁ。難しいわね。もうさっさとその巨乳で誘惑して既成事実でもつくったちゃえば?」
「えっ!? そ、それは。恥ずかしい。虎そういうの嫌いだし」
虎がえっちな奴だと小雪は理解しているが、誘惑ではなかなかなびかないとも理解している。
スケベ心と共に強い自尊心を持っているのだ。強力な牙城である。
「良く、理解してるのね」
「幼馴染だからね」
「……私には、あいつの何が良いのか良く分からないわ」
「え?」
そう言って、柚子はしまったと顔をしかめる。
だが遅い。
「虎の良い所はね、優しいところ。一見怖いけど、とても優しいんだよ。それに強い。虎に一回守られればだれでも惚れちゃうかも。ダメだけど。それに怖いけど、ホントはさみしんぼ。それを隠すために虚勢を張って、それが可愛いっていうか。それに――」
続く怒涛の小雪のマシンガントーク。いつ尽きるのかと思うほど良い所をあげる。悪い所も何だかんだ好きと惚気られ、どれだけ虎が良いのかを理解するまで続けられる。
こうなると分かっていたのにやってしまった。
「分かった。私は十分分かった」
「そう? もう少し語れるけど」
「も、もうお腹一杯よ。これ以上は太っちゃう」
小雪の次に虎を理解しているのは柚子かもしれない。
小雪に友達はたくさんいるが、こう何でも話せる親友は数少ない。そして柚子には特に虎について話していた。
「……ほんと、好きなのね」
「……うん」
恥ずかしげに肯定する。頬を染めて頷く小雪は、同性であろうと落ちてしまいそうだ。
柚子も一瞬クラっときた。
それだけに、何と幸せなやつだと虎を思い浮かべる。こんな可愛い子の思いを拒絶するなど、環境汚染と同レベルで罪深い。
「……でもどうやったら進展するかな?」
「さあ?」
今の距離感から恋人まで持っていくのはなかなかに難しい。そして虎の罪悪感があるかぎり恋が叶う事はないだろう。
「うーん。……がんばるよ」
「応援してるわ」
茨の道であっても、親友の恋路を応援した。
小雪が幸せになる様に、柚子も祈る。
そして不幸にしたらゆるさないと、心の中の虎を睨みつけた。
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