681話 雷脚のモニカ

「さあ、料理コンテストは大いに盛り上がっております! お題は『未知の味』。AブロックからDブロックまで、それぞれお題に即した料理が調理されております!」


 司会者のカエデが会場中に響く声で叫ぶ。

 会場内は大勢の観客で賑わっている。


「おおっと!? ここで、Aブロックの注目株【まんぷく亭】の料理がお披露目だ!!」


 カエデがそう言って、ステージ上の一点を指差す。

 そこには、白いコックコートを着た屈強な男たちの姿があった。


「彼らの得意料理はもちろん餅です! それをどのようにお題に繋げたのでしょうか!?」


「ふむ。あれは言うなれば、餅ピザといったところか」


 解説の冒険者ギルド副ギルド長のベネッタがそう答える。


「餅ピザ?」


「ああ。小麦粉で作る生地の上に、焼いた餅を乗せている。それをチーズなどで味付けして食べようといった趣向のようだな」


「なるほど! 確かにこれは美味しそうですね!」


 カエデとベネッタがそんな会話をしている間にも、次々と各料理人たちのパフォーマンスが繰り広げられていく。


「Bブロックは……新人料理人ゼラさんの料理に注目です!!」


 カエデが再び別の方角を指差しながら叫ぶ。


「ほう。あの子もなかなか斬新な料理を見せている」


 ベネッタが感心したような声を出す。

 その視線の先には、茶髪ショートの少女がいた。


「彼女は料理人になって日が浅いのですが、実は相当な実力者なんですよ! この王都に構えた店の評判は、上々だと聞いています!!」


「なるほどな。そして、彼女が用意した未知の味は……麺類か!」


 ベネッタがそう叫んで、少女が作った料理を指し示す。


「あれはなんという食べ物ですか?」


「私も食べたことはないが……。確か、ラーメンとかいう名前ではなかったかな?」


「らーめん? 聞いたことのない料理名ですね!」


「このあたりには広まっていない料理だ。私たち王都民にとっては未知の味といって差し支えなかろう」


 カエデとベネッタはそんな会話をしながら、各ブロックの料理を見ては感嘆の声を上げている。

 その声は実況席のマイクを通して、会場内に響き渡っていた。


「……Cブロックもなかなかハイレベルな料理が揃っていますね! まさかコカトリスを連れてきている者がいるとは驚きでしたが」


「うむ。美食家冒険者パーティ『トリックルバード』が、新鮮な卵を使うために連れてきたようだな。少し危ないが、檻に入れてあるし問題はあるまい。誰が勝つか目が離せないな」


「さて、それでは最後にDブロックに注目です!!」


「王宮の副料理長が急用で欠席だからな。最有力選手が不在となっている。果たしてどんな料理が出てくるのか……」


 カエデとベネッタは期待を込めた目で、Dブロックの料理を見つめる。


「むっ!? あの金髪の兎獣人の女性の動きはなんだ!?」


 ベネッタが驚きの声を上げる。


「え? お、おお!! 目にも留まらぬ速さで食材の下処理を行っている女性料理人がいます! まるで、手品でも見ているかのようです!!」


「なんと……。あんな芸当ができるとは……。あのスピードは尋常ではないぞ」


 ベネッタが真剣な表情で言う。

 超速で料理をしている女性。

 それは、モニカのことである。

 彼女は術式纏装”雷天霹靂”を発動し、料理に活かしているのだ。

 本来は戦闘用に開発した技術であったが、こうして限られた時間内に料理を完成させることにも役立つ。


「しかし! 今回の料理コンテストのお題は『未知の味』です。早く調理できたからといって、必ずしも高評価を得られるわけではありません!!」


「その通りだ。果たしてどんな料理が出来上がるかが重要だが……。むむっ!? あの球体状の料理は何だ!?」


「私は見たことがありません! 何やら小麦をベースにしていることだけは分かりましたが……」


 カエデとベネッタが困惑した様子を見せる。

 そうこうしている内に、AブロックからDブロックまで全ての料理が完成したようだ。

 審査員たちは出来上がった料理を目の前にして、評価を付け始める。


「ピザの上に餅だと……?」


「新しい食感だ!」


「味も相変わらず素晴らしい!」


「こっちの麺料理も悪くないぞ!」


「油を投入したスープが味わい深い……」


「いくらでも食べられそうだ」


 審査員たちが料理に次々と賛辞を送る。


「出ました! Aブロック最高評価は、『まんぷく亭』の97点です!」


「Bブロック最高評価は、ゼラ氏の96点か。Cブロックは『トリックルバード』の94点。いずれも、甲乙つけがたい出来栄えだ」


 カエデとベネッタがそうまとめる。


「最後にDブロックです。現在の最高得点は89点。残る選手は1人だけですが……」


「あの球体状の料理を用意していた女性料理人だな。モニカ選手か。モニカ……。モニカ?」


 どこかで聞いたことのある名前だと、ベネッタが首を傾げる。

 そんな中、審査員たちがモニカの料理を試食し始めた。

 そして、数秒後――。


「こ、これは!?」


「なんと! まさか……。こんな料理があったとは!」


「一口で食べられるサイズで用意された料理。しかも美味い!」


「これなら、満点を出さないと失礼だろう」


「俺も同意見です」


「この料理は、今まで食べたことがない」


「まさに、未知の味だ!」


 審査員たちが口々にそう言う。

 モニカが用意した料理は『たこ焼き』だ。

 タカシのアドバイスを受け、ラーグの街にいた頃からちょくちょく食卓に並べていた。


「料理コンテスト始まって以来の大絶賛ですね! Dブロックの最高評価はモニカ選手で決まりでしょうか!?」


「おそらくそうだろう。……今、点数が出たな」


「おおっ!? な、なんと! なんとぉ!! 過去最高得点の100点であります!!」


 カエデが興奮したように叫ぶ。


「これほどの料理を作るとは……。一体、何者なのだ? 料理中のあの動き、まさに雷のような速さだった」


 ベネッタが驚きの声を上げる。


「……ん? いや待てよ……。雷のような速さ、モニカ……。思い出したぞ!!」


「何を思い出したのですか? ベネッタさん」


 カエデが不思議そうな顔で尋ねる。


「あの子は”雷脚”のモニカの二つ名を持つ冒険者だ! ギルド貢献値は7400万ガル!!」


「”雷脚”のモニカさんですか!?」


「ああ。王国南部ではトップクラスの実力を持つ冒険者の一人で、雷属性魔法の使い手だ。噂のハイブリッジ騎士爵の奥方でもある」


「な、なるほど! あの動きは雷魔法を応用したものでしたか! それなら納得……できるようなできないような!」


 ベネッタとカエデが興奮気味にそう語る。

 こうして、モニカは料理コンテストの予選をトップで通過した。

 彼女本人、そして観客席で応援するニムは、いずれも満足げな笑みを浮かべていたのであった。

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