635話 合同結婚式 ブーケトスの参加者

 合同結婚式が開かれている。

 メインイベントである誓いの儀式は無事に終了した。

 その後もいくつかのイベントがあったが、概ね予定通り進んでいる。


「さあ、最後はブーケトスでございます!」


 司会のネリーがそう告げる。

 いよいよ最後のイベントが始まるのだ。

 この世界にはブーケトスという文化がある。

 花嫁が投げた花束を受け取った人は次に結婚できるとか、そういうジンクスのようなものも地球と同様に存在している。


「参加者はこちらに集まってくださいませ!」


 司会者のネリーがそう呼びかけると、女性たちがゾロゾロと集ってきた。

 全員10代後半から20代くらいだろうか?

 綺麗どころばかりが集まってきていて華やかだ。

 その中には、新婦の関係者ももちろん含まれている。


「……私はユナさんのブーケを狙う……」


 静かに闘志を燃やすのは、赤狼族の少女クトナだ。

 ドレッドとの結婚を意識しているのだろう。


「私はサリエお嬢様のブーケをいただきたいと思います」


 そう呟くのは、サリエの付き人オリビアだ。

 彼女は20代後半だ。

 この世界においてはやや年増扱いされてしまう年頃であるが、その美貌は衰えていない。

 以前俺の女になるかならないかという話があったのだが、主人であるサリエと同時期に結婚するわけにはいかないと辞退された経緯がある。

 無事にサリエの結婚式が開催された今、改めて彼女も動き出したといったところか。


「私はお姉様のブーケを狙いますわっ!」


 リーゼロッテの妹であるシャルレーヌも参加してきた。

 淡い水色が美しいドレスを着ており、とてもよく似合っている。


「ふん。くだらぬ。我はブーケトスなんぞに興味はない」


 鼻を鳴らしてそう言い放つのは、サザリアナ王国王家の第三王女であるベアトリクスだ。

 プライドが高い彼女は、結婚のジンクスのためにブーケを争うなんて馬鹿らしいと思っているのかもしれない。


「あらあら。そんなことでは、素晴らしい殿方との縁を逃してしまいますわよ?」


「関係ない。我が興味あるのは剣術だけだ」


 千の挑発するような言葉にも動じず、ベアトリクスは淡々と受け答えをしている。


「なるほど。まあ、王族が無様に負けたらみっともないものな」


 俺はついそんな口を挟んでしまった。


「……っ! 貴様! もういっぺん言ってみろ!」


「ん? いや、ベアトリクス王女の剣技は認めるが、ブーケの争奪戦ともなればまた違った能力が必要だからな。負けを恐れて参加しない選択は賢明だと思ったまでだ」


「わ、我を侮辱する気か!」


「いや? ただ思ったことを言っただけで、侮辱した覚えなど全くないんだが?」


 俺はそう言って肩をすくめる。


「ぐぬぬ! そこまで言うなら、我も参加してやろう! 貴様に吠え面をかかせてやる!!」


 ベアトリクスは肩を怒らせて、待機位置に向かっていった。

 なんだかなぁ~。

 どうしてこう、彼女の沸点は低いのか……。


 まあ、煽るようなことを言った俺も悪いのだが。

 ベアトリクスの反応が面白くて、ついついちょっかいを出してしまうんだよな。

 そのうち不敬罪で処刑されるかもしれん。

 気をつけないと。


「タカシさん~。女の子をあんまりいじめちゃダメだよ~」


 そんな事を考えていたら、近くにいた花に釘を刺されてしまった。


「ははは、別にいじめているつもりはないが……。分かった、気を付けるよ」


「王女様にあんな口を聞くなんて、ハイブリッジ騎士爵様は命知らずね……。器が大きいのか、それとも……」


「……確かに普通はあり得ない態度。でも、タカシさんの優秀さなら王家もおいそれとは手を出せないはず……」


 月と雪がそんな事を言っている。

 彼女たち雪月花も、ブーケトスに参加するようだ。

 熱意に多少の差はあれど、全員が俺のハーレムメンバ入りを狙っているはずだしな。


 俺の妻は、今回の結婚式で8人となった。

 ミティ、アイリス、モニカ。

 ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテだ。


 次に結婚することがあれば第九夫人となるが、その座を狙っている者の1人が月である。

 花は、のんびりとした生活が目的であるため、妾でもいいと言っていた。

 雪は、今のところはグイグイ来ていない。

 雪月花の中で最も真面目に冒険者活動をしているのが彼女だろう。

 強さを求めている感じだ。


 そんな彼女たちを遠くから羨ましげに見ている者が2人いた。

 メイドのレインと、警備兵のクリスティだ。


「いいなあ……。もし私がブーケを取れたりしたら、お館様からもっとご寵愛をいただけるかもしれないのに……」


「はっ! レインはメイドだろ? 自分の役割を果たすべきだ。あたいも警備兵としての役目を果たすぜ」


「それはそうなんですけど……」


「まったく、あんたは相変わらずだな。まあ、あたいも同じ立場だから気持ちは分かるけどな」


「え? クリスティさんもお館様のことが好きなのですか? 強さにしか興味のないと言っていたクリスティさんが?」


「ああ。ちょっと前に命を助けられたことがあってな。あれほど強い男なら、そりゃ惚れちまうだろう?」


 俺はレインとクリスティの会話を盗み聞きする。

 レインが俺のことを好いてくれているのはもちろん知っている。

 ハイブリッジ杯のときに公開告白され、その後魔法の絨毯の暴発をきっかけに仲が進展した。

 だが、クリスティまで俺を好きになっていたとは知らなかった。

 俺は素知らぬ顔をして2人に近づく。


「よう。2人とも、ブーケトスに参加したいのなら、参加するといい」


「え? でも……」


「メイドや警備兵の仕事は、1人くらい抜けても問題ないだろう? 遠慮するな」


 そこまでギリギリの人員配置はされていないはずだ。


「ありがとうございます!!」


「ありがてえぜ!」


「ただ、ブーケを狙うなら本気でな」


「もちろんです! 精一杯頑張ります!」


「Aランク冒険者になるためにも、こんなところ躓いてられねえ!」


 レインとクリスティが意気込む。

 クトナ、オリビア、シャルレーヌ、千、ベアトリクス。

 雪月花、レイン、クリスティに、その他の参加者たち。

 それぞれが規定の位置で待機する。

 そして、ブーケトスの時を待つのだった。

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