593話 冒険者ギルドでチンピラに絡まれる

 翌日。

 さっそく、俺はクリスティを伴い冒険者ギルドを訪れた。

 モニカや蓮華もいっしょだ。

 今日は依頼を受けるわけではないので、純粋にただの付き添いである。


「よう。ネリー」


 俺は冒険者ギルドの受付嬢に話しかけた。


「これはこれは。タカシさんじゃありませんか!」


 ネリーは俺の顔を見るなり、ぱあっと明るい笑顔になった。


「あ、失礼。ハイブリッジ騎士爵様でしたね。昔の癖が抜けなくて……」


「いや、さほど気にする必要はないぞ。いつも通りタカシでいい」


 この冒険者ギルドは、俺が異世界に来て冒険者登録を済ませた場所だ。

 当然、冒険者ランクは一番下のEからのスタートだった。

 登録して2週間ほどが経過した頃、『赤き大牙』や『蒼穹の担い手』と共にホワイトタイガーの討伐に成功し、Dランクに昇格した。


 その後はこのラーグの街を離れ、ゾルフ砦やハガ王国で活躍し、Cランクとなった。

 さらに、ラーグの街に帰還してからの日常の狩り、ミティの故郷ガロル村での一件、ゾルフ砦のメルビン杯、ユナの故郷ウォルフ村の一件、そして西の森の奥地に居座っていたブギー盗掘団の捕縛作戦を通して、ついにBランクとなり、しかも騎士爵まで授かったのである。


 こうして考えると、かなりのスピードで順調に成り上がってきたことがわかるな。

 加護付与やステータス操作のチートはさすがだ。


「ありがとうございます、タカシさん。ところで、今日はどのようなご用件でしょうか?」


「うむ。実はな、うちのクリスティを同行させるパーティを探しているのだ」


「クリスティさんですか? えっと……、そちらの犯罪奴隷の方ですよね」


「そうだ。彼女は強いぞ」


「それは、わかっておりますが……。冒険者としての実績がまだ乏しいのですよね。組む相手が見つかるかどうか……」


 ネリーが困ったような顔になる。

 確かに、クリスティの冒険者ランクはまだDだ。

 実績不足なのは事実だろう。


 その上、犯罪奴隷でもある。

 食い逃げやスリなどの積み重ねなので極悪人というわけではないのだが、一般的に忌避される存在であることは確かだ。

 少女とはいえ、目つきや口も悪いしな。

 俺がそんなことを考えているとき……。


「おっ! なんだよ嬢ちゃん、パーティを探しているのか?」


 そう話しかけてきた男がいた。

 後ろには同年代の男が2人。

 どうやら3人パーティのようだな。

 だが、あまり見覚えがない男たちだ。


 冒険者の活動範囲には、個人差が大きい。

 世界各地を回って、割のいい仕事やレアな宝を探しつつ見聞を広め、高ランクを目指す者がいる。

 俺が率いるミリオンズはこのタイプだと言っていいだろう。

 最近はラーグの街を拠点に活動しているが、いずれはまた旅に出るつもりだ。


 しかし、冒険者全員がそのような上昇志向にあふれているわけではない。

 特定の街を拠点に活動し、他の街にはほとんど行かない者も多い。

 行っても隣街までの護衛依頼を受ける程度とか。


 このラーグの街を拠点に活動している冒険者の顔は、ひと通り把握している。

 少し前にやって来たトミーや雪月花の他、かつて狩り勝負を行ったディッダやウェイクたち『荒ぶる爪』、そして『ラーグの守り手』など……。

 なかなか優秀な冒険者がこの街を拠点に活動してくれている。


 だが、今話しかけてきた男に見覚えはない。

 彼がクリスティの体をジロジロと見る。


「へへへ。まだ若えが、なかなかいいモン持ってるじゃねえか。俺たちのパーティに入れてやってもいいぜ? 登録してわずか半年でDランクに上がった、俺たち『紅蓮の刃』になあ!」


「…………」


 クリスティは無言のまま、その男の顔を睨みつけた。

 相性が悪そうだな。

 ここは俺が代わりに断っておくか。

 俺は視線を遮るようにして2人の間に入る。


「すまんな。こいつは俺の連れなんだ。また別の相手を探すよ」


「んん? お前みたいな優男に用はねえんだよ。女を置いてさっさと失せな」


 リーダーらしき男が、凄んでくる。

 うーん。

 まったく怖くないな。


 一般的に見て迫力はあるように思えるが、今の俺の敵ではないからだろうか。

 本気を出せば、数秒で息の根を止められる。

 そのような確信が、俺に安心感を与えていた。

 たとえチンピラみたいな男に凄まれていても、俺にとっては昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わりない精神状態だ。


 しかしそれにしても、騎士爵でありこの街一帯の領主である俺にこの態度。

 大物なのか、バカなのか。

 いや、ひょっとすると俺の顔を知らないのか?

 そうなってくると、自分から名乗るのも少しカッコ悪い気がしないでもない。


「ちょっと。私の旦那様になんてことを言うのさ」


「ふむ。乱暴な物言いは見過ごせぬでござるな」


 モニカと蓮華が男に詰め寄った。


「へへへ。お前らもこの優男の女かよ。しかも、こっちは妊娠中じゃねえか。こんな男のどこがいいんだか」


 男が鼻を鳴らす。


「よし。お前ら3人は、こっちに来い。酌をしてもらおうか。……おおい! 酒を持ってこい!!」


 男がそう叫ぶ。

 冒険者ギルドには酒場が隣接されているので、酒を飲むことができる。

 この男が酒を注文したこと自体には、特に問題はない。

 しかし、問題はこの態度だ。

 どのように収めたものか。


 俺が貴族の身分を明かせば楽に収まるが、少しカッコ悪い気がしないでもないんだよな。

 加護(小)の付与候補の1人でもあるネリーが見ていることだし、下手なことはできない。

 ここは俺の器の大きさを見せることにしよう。

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