550話 ユナとの結婚の挨拶

 1週間ほどが経過した、とある日。


「うう……。緊張してきた」


「ふふん。タカシ、しっかりね!」


 今日はユナの故郷ウォルフ村で彼女の両親に挨拶することになっている。

 俺とユナが結婚することについて報告をするのだ。

 それに、彼女の兄であるドレッドとジークもいるだろう。


「胃が痛い……。もし反対されたら……」


 俺とユナは、既に男女の仲になっている。

 一夜だけの過ちというわけでもなく、既にやりまくりだ。

 ユナは貴族家の娘というわけではないので大きな問題はないはずだが……。

 それでも、やはり不安は尽きない。


「大丈夫よ。お父さんもお母さんも優しいから。きっと祝福してくれるわ」


「そうだといいけどな」


 ユナの両親とはもちろん会ったことがある。

 彼らは赤狼族の戦士として高い戦闘能力を持つ。

 さらわれたシトニとクトナを奪還するためにディルム子爵領を襲撃した際には、俺たちミリオンズと力を合わせたこともある。

 俺とユナの関係を知れば、喜んでくれる……と思う。


「じゃあ……行くぞ」


「ええ」


 俺は空間魔法の詠唱を始める。

 転移魔法陣を設置済みの場所まで一瞬で移動できる便利な魔法だ。

 ここラーグの街の自宅にはもちろん設置済み。

 そして、俺たちが訪問済みの主要都市やミリオンズメンバーにゆかりのある場所にも設置済みである。

 ユナの故郷であるウォルフ村にももちろん設置している。


「【テレポート】」


 俺とユナの姿が掻き消える。

 そして、次の瞬間にはウォルフ村のユナの部屋に転移していた。


 この村には、これまでも定期的に訪れている。

 今日訪れることは、前回の訪問時に伝達済みだ。


「こんにちは」


「あらっ! タカシくん。よく来てくれたわね」


 リビングに顔を出すと、ユナの母親……ユリナさんが笑顔で迎えてくれる。

 ユナと同じ赤色の髪と瞳。

 優しそうな表情をしている美人さんだ。

 ……改めて、ユナは母親似なんだな。


「お久しぶりです。ご無沙汰してます」


 俺はそう言って頭を下げる。


「いつも娘が世話になってるみたいで……。本当にありがとう」


「いえ、こちらこそ」


「タカシ君、座って待っててちょうだい。今お茶を用意するから」


「はい。すみません」


「いいのよ」


 ユリナさんがキッチンへと向かう。


「タカシ、こっち座りなさいな」


「ああ」


 ユナに呼ばれ、彼女の隣に腰を下ろす。

 彼女は少しだけ照れくさそうにしながら口を開いた。


「ね? 言った通りだったでしょ?」


「ん?」


「私の両親はタカシのことを気に入っているのよ」


「ああ……。しかし、結婚となると話は別だろう? お父さんや、それにドレッドとジークが……」


 と、俺とユナがそんな話をしていると……。


「おう。来ていたか。タカシ」


「…………久しぶりだな」


 そう言いながら、ドレッドとジークが姿を現した。

 彼らの父親もいっしょだ。

 3人とも、俺の気配を察知して家に戻ってきたらしい。

 俺は彼らと挨拶を済ませる。

 そして、ユリナさんから出されたお茶に口をつける。


「聞いてっ! 私たち、ついに結婚するの!」


 ユナが満面の笑みを浮かべて、俺との婚約を報告した。


「ぶっ!?」


 いきなりすぎだよ。

 もう少し前置きをした上で、俺から切り出すつもりだったのに。

 ユナは本当に大胆だな。


「おおっ!? それはめでたいなっ!!」


「…………ユナがとうとう結婚か……」


 ドレッドとジークは驚きつつも、とても嬉しそうだ。


「いいことね。幸せになりなさい、ユナ」


「ふふん。もちろんよ。たくさんの子どもに囲まれた幸せな家庭を築くわ! それに、もうできていてもおかしくないし!」


 ユナが胸を張って宣言した。

 確かに、俺と彼女は普段からやりまくりで避妊もしていない。

 まだ懐妊の兆しは見えていないが、いつそうなってもおかしくはないな。

 それを聞いたドレッドとジークが目を見開く。


「なん……だと……?」


「…………ユナ、お前まさか……」


 ドレッドとジークが驚いたような声を上げる。

 妹がやりまくりだと知れば、複雑な心境にもなるか?

 ユナがきょとんとした顔をして2人に尋ねる。


「何驚いているのよ? 私、知ってるのよ? ドレッドがクトナとやりまくりだって」


「ぶほぉっ!」


 ドレッドが口に含んでいたお茶を吹き出した。


「ば、馬鹿野郎! なんてことを言うんだ、ユナッ!」


「え~。本当のことじゃない。前にクトナのところに遊びに行ったときに聞いたわよ」


「ち、違うぞ、ユナ。あれは誤解だ。クトナとはそういう関係じゃない」


「うそね。クトナも同意の上だったって言ってたもん」


「クトナめ……」


 どうやら、ドレッドとクトナの関係はずいぶんと進展していたようだ。

 まあ、以前から少しいい雰囲気だったしな。

 別に隠すようなことではないのだろうが、自分の両親の目の前で妹にそれを指摘されては、さすがに恥ずかしいのかもしれない。


「…………ユナ、はしたないぞ。発言にはもっと奥ゆかしさを持て」


 ジークがそう苦言を呈する。


「はいはい。わかったわよ。ごめんね、ドレッド」


「おう。っと、話が逸れちまったな。それで、タカシ。俺たちのところに来たのは、その報告のためか?」


「そうだ。ユナのご両親、そしてドレッドとジークにはぜひ祝福してほしいと思ってな」


「おう。可愛い妹とタカシの結婚だ。心から祝わせてもらう」


「…………ユナのことは任せたぞ」


 ドレッドとジークがそう言う。

 ご両親もうんうんと笑顔で首肯してくれている。


「ありがとう」


 俺は彼らに礼を言う。

 そして、本題に入ることにした。


「……ところで、4人に相談があるのだが……」


「ん? なんだ、改まって」


「結婚式に出席してほしいんだ。日程はまだ未定だが、近々挙げる予定でいる」


「ほう。そりゃいいことだな」


「……場所はどこでやるつもりだ?」


 ドレッドとジークがそう問う。


「ラーグの街で行うつもりだ。実はユナの他にも結婚を申し込んでいる女性がいてな……。合同で盛大に祝うつもりなんだ」


「ラーグの街……。聞いたことはあるけど、遠い街ねえ……」


 ユナの母ユリナがそう言う。


「心配は無用です。この街まで迎えの馬車を手配しますので」


「あら、そうなの? ありがとう」


「いえ。よければ他の方も誘っておいてください」


 この場にいる4人には、俺の転移魔法陣のことを伝達済みだ。

 しかし、さすがにウォルフ村全員には伝えていない。

 少し不便だろうが、参加者たちには馬車で移動してきてもらうことにする。


「おう。久しぶりにラーグの街に行くのが楽しみだぜ」


「…………然り。タカシが領主としてうまくやっているのか、見せてもらうことにしよう」


 ドレッドとジークがそう言う。

 俺が騎士爵を授かったのは、以前ウォルフ村やディルム子爵領でひと悶着あったときよりも後のことだ。

 しかし、ユナの里帰りのために時おりこの村を訪れているため、俺の近況も知ってくれている。

 Bランク冒険者となり、さらには貴族となったことも報告済みだ。


「ふふん。以前よりも発展しているわよ。楽しみにしていなさい。歓迎の準備をしておくわ」


「そうだな。結婚式に向けていろいろと準備をがんばっていかないとな」


 俺はそう締めくくる。

 そうして、俺とユナとの結婚の申し込みは終わったのだった。

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