471話 蓮華の正式加入

 冒険者ギルドにて、俺たちミリオンズの冒険者ランクやギルド貢献値の情報を受け取っているところだ。

 最後に、新たにミリオンズへ加入する蓮華の処理をしてもらおう。


「では、こちらの用紙にご記入ください」


 受付嬢が蓮華に登録用紙を差し出す。


「承知したでござる」


 蓮華がそれを受け取り、すらすらと書き込んでいく。

 なかなかの達筆だ。



東雲蓮華

役割:音楽家

職業:侍

ランク:C

目的:剣術の研鑽



 蓮華は剣術と風魔法に長けている。

 他のメンバーと異なり加護(小)にとどまっているが、それでも十分な戦闘能力がある。

 また、音楽の素養もあるそうだ。

 そういえば、たまに歌を口ずさんでいるのを聞いたことがある。

 透き通った美しい歌声だった。


「これで登録を頼むでござる」


 蓮華が受付嬢に登録用紙を提出する。

 彼女が処理を進めていく。


「…………はい、確かに。これにて、登録が完了しました。ミリオンズの皆さまであれば、さらなるご活躍も可能でしょう。ギルド職員一同、期待させていただきますよ」


「ああ。期待に応えられるよう、がんばるつもりだ」


 俺のステータス操作のチートさえあれば、まだまだ上を目指せる。

 懸念点があるとすれば、レベルが上がるに連れてレベルアップに必要な経験が増えている点だ。

 ゴブリンやファイティングドッグといった低級の魔物相手では、レベルを1上げるだけでも1か月以上かかるだろう。


 しかし、今の俺たちに似合った強敵と戦えば、それなりの効率でレベルアップは可能だ。

 今回の選別試験で戦った高ランク冒険者たち、アヴァロン迷宮の魔物、階層ボス、ファイアードラゴンのドラちゃん、ラスターレイン伯爵家。

 いずれも強敵だった。

 しかしその分、俺たちのレベルはしっかりと上がっていた。

 ラスターレイン伯爵家に一度全滅させられたときに、新たに得たスキルポイントを使って強化し、第2ラウンドでのリベンジを成功させたのである。


 大切な妻や仲間を危険に晒さないことも大切だが、適度に強い魔物やライバルと戦っていくことは今後も大切だろう。

 世界滅亡の危機は、およそ28年後に迫ってきているからな。


「そうそう。最後に、蓮華様に関する報告もありますよ」


「む。何でござろうか」


「蓮華様は、新たに特別表彰の対象者となります。二つ名な”山風”。ギルド貢献値は1500万ガルとなります」


 受付嬢がそう言って、特別表彰の写真をこちらに見せてくる。

 キリッとした表情で刀を構えた蓮華が写っている。


「山風? 蓮華の二つ名はもともと山風だったんじゃ?」


「いや、それは拙者の祖国における二つ名でござる。ここ新大陸の冒険者ぎるどにおいては、拙者はまだ無名でござった」


 蓮華がそう説明する。


「その通りでございます。蓮華様の祖国であるヤマト連邦には、冒険者ギルドは進出しておりませんので……。しかし、山風の名はここ新大陸でも認知されつつありますので、その二つ名をそのまま採用させていただきました」


 まあ、もともと一定程度の知名度がある二つ名をわざわざ変える必要もないか。

 この世界に商標登録などの仕組みがあれば問題視される可能性もなくもないが、一個人の二つ名でそこまでの事態にはならないだろう。


「ふむ。これでミリオンズは、全員が特別表彰者の10人パーティになったわけだ」


 一度整理しておこう。



紅剣のタカシ、Bランク、1億7000ガル。

武闘聖女アイリス、Bランク、8700万ガル。

百人力のミティ、Bランク、8200万ガル。

雷脚のモニカ、Bランク、7400万ガル。

魔弾のユナ、Bランク、7200万ガル。

鉄心ニム、Bランク、6900万ガル。

蒼穹のリーゼロッテ、Cランク。2800万ガル。

過剰治療のサリエ、Cランク。2000万ガル。

山風の蓮華、Cランク。1500万ガル。

不死鳥マリア、Cランク。1400万ガル。

パーティ総貢献値、6億3100万ガル。



 こんな感じか。

 俺が騎士爵を授かったのは、ブギー盗掘団の捕縛作戦の終了後である。

 当時の俺は冒険者ランクBで、ギルド貢献値は8000万ガルだった。

 単純に考えれば、アイリスやミティあたりも叙爵を狙えるのかもしれない。


 ……いや、それは単純に考えすぎか。

 当時の俺は、ミリオンズという将来有望なパーティのリーダーを務めている点で一定程度の評価を上乗せされていたイメージだろう。


 それに、ミティは鍛冶師として職人気質なところがあることに加え、性格は体育会系だ。

 もちろんそれも彼女の魅力的なところの1つだが、統治をする側としてはやや不適格かもしれない。

 アイリスはアイリスで、他国の出身だしな。

 彼女たちが叙爵されるのは難しいだろう。


 そもそも、こんなことを考える意味もない。

 彼女たちは、俺の妻としてがんばっていこうという気概を持ってくれている。

 今さら新しい貴族家を立ち上げる気はないだろう。


「順調ですね! 今後も全力でサポートさせていただきます!」


「ボクもまだまだ上を目指すよ」


 ミティとアイリスがそう言う。


 ここで、前回の冒険者ランクとギルド貢献値を振り返っておくか。

 前回は、ソーマ騎士爵領の領都リバーサイドで報告を受けた。

 ラーグの街からソーマ騎士爵領への移動中にゴブリンキングを狩り、その後領主であるシュタイン=ソーマを浄化したことで評価を受けたのである。



紅剣のタカシ、Bランク、1億ガル。

武闘聖女アイリス、Bランク、6000万ガル。

百人力のミティ、Bランク、5500万ガル。

雷脚のモニカ、Cランク、4200万ガル。

鉄心ニム、Cランク、4000万ガル。

魔弾のユナ、Cランク、2700万ガル。

リーゼロッテ、Cランク。

マリア、Dランク。

サリエ、Dランク。

パーティ総貢献値、3億2400万ガル。



 この時点でもみんな優秀で強力なパーティだった。

 しかし、今の俺たちはそれ以上だ。


 俺、アイリス、ミティはギルド貢献値が上昇。

 モニカ、ニム、ユナは冒険者ランクがBに昇格。

 リーゼロッテは新たに特別表彰者に。

 マリアとサリエはCランクに昇格し、新たに特別表彰者に。

 さらには蓮華が加入した。


「タカシ様たちミリオンズの皆さまは、新大陸の中でも相当に上位のパーティとなっております。結成して4年以下のパーティとしては、上位10組に入られているでしょう。新大陸の冒険者ギルド職員において、ミリオンズの名を知らない者はいないぐらいになりつつあります」


「俺たちはまだまだ上を目指す。期待していてくれ」


 それにしても、『新大陸における』『結成して4年以下のパーティ』という条件まで付けても、まだトップではないんだな。

 世界は広い。


 俺たちがトップでなくて、残念な気持ちはある。

 しかし同時に、頼りがいも感じる。

 世界滅亡の危機に立ち向かう上で、高ランク冒険者たちの力を借りることもあるだろう。

 過度に敵対しないように気をつけつつ、そいつらに負けないようにがんばっていかないとな。

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