460話 女風呂 女性冒険者たち

 タカシたちが女風呂に近づきつつある。

 トミーやギルバートたちの蛮行を止めるためだ。

 そんなことを知らない女性陣は、引き続き温泉を堪能している。


「ふふ。美容効果でお肌がきれいになれば、シュタインくんにもっとかわいがってもらえるかな」


 ミサがそうつぶやく。

 普段からラブラブだが、まだ物足りないようだ。


「私も美容には興味があります。マクセルさんに釣り合う女になれるよう、戦闘能力だけじゃなくて美容にも気を配りませんと……」


 カトレアがそう言う。

 彼女の戦闘能力はそれなりに高い水準にあるが、ゾルフ杯準優勝者にして特別表彰者でもあるマクセルには及ばない。

 彼女が自身の戦闘能力を向上させるとともに、それ以外の面も磨いていくことは有効なアプローチとなるだろう。


「自分はそんなの興味ないの。スピードを鍛えて、祖国を守れるようになるの」


 セリナがそう言う。

 彼女はハガ王国の元六武衆であり、幼い頃から戦闘訓練ばかりをしてきた。

 色恋沙汰には、最近まで無縁だった。


「セリナ姉さんもうかうかしてると、ストラス兄さんを取られちゃうかもしれないですよ? もっと身だしなみにも気を配らないと」


 レベッカがそう言う。

 ここで、マクセルが率いる”疾風迅雷”の戦力を整理しておこう。


 リーダーであるマクセルが最も強く、”雷竜拳”の二つ名を持つ。

 次いでサブリーダーのストラスが強く、”嵐脚”の二つ名を持つ。

 3番目に強いのは元六武衆のセリナだ。

 ほぼストラスと互角である。

 スピードだけなら、ストラス以上だ。


 カトレア、カイル、レベッカは、上記の3人に比べるとひと回り弱い。

 冒険者の中でも平均的だ。

 カトレアは冒険者が浅いが、風魔法の素質があり、また運動神経も優れている。

 カイルとレベッカは以前よりマクセルに付き従って武闘の鍛錬に励んでおり、武闘家としての基礎は十分にできている。


 そんな感じで戦闘能力においてレベッカはセリナの後塵を拝しているわけだが、それはそれとして色恋沙汰では一歩進んでいる。

 彼女とカイルは、恋仲として長い年月を歩んできたのだ。


「自分とストラス君の仲は、そういうのじゃないの。ほっといてくれなの」


「わかりましたよ。まあ、今のところはライバルもいませんし、一刻を争うほどでもないですしね」


 強情なセリナに対し、レベッカは説得を諦めた。

 ストラスは冒険者登録をしてわずか1年で特別表彰者になる優良物件だ。

 顔も悪くない。


 通常なら争奪戦必死だが、幸い冒険者として各地を巡っている身だ。

 今のところ、特定の相手ができる気配はない。


 ”疾風迅雷”内でも、カトレアにはマクセル、レベッカにはカイルというお相手がいる。

 ちょうど男3人に対して女3人であり、争奪戦が起きることはないだろう。

 女性メンバーが新加入したり、立ち寄った村の娘がストラスに一目惚れしてグイグイアプローチしたりしない限りは、ストラスとセリナの関係性にひびが入ることはない。

 亀のように遅い進みだが、長い目で見ればいつかはくっつくだろう。


 そんな会話をしているレベッカやセリナから少し離れたところでは、また別の集団が会話している。


「どうして、ウィリアム様はわたくしめに手を出してくださらないのだろうか……。魅力が足りないのか……?」


 猫獣人の少女ニューが少し暗い表情をして、そうつぶやく。


「私も気になるぞっ! いつでも歓迎するのにな!」


 イルが牙をむき出しにして、そう吠える。


「いっそ、みんなで襲ってしまいますか? いくら主様とはいえ、4人がかりなら……」


「それもありかもしれませんが……。ご主人様に愛想を尽かされてしまう可能性もあります。慎重に判断しましょう」


 クロメとシェーラがそう言う。

 彼女たちがウィリアムのパーティに加入したのはニューやイルよりも後だが、とある恩がありウィリアムにすっかりべた惚れしている。


「みんな、お相手が決まっているんだなあ……。僕には、まだ想像できない世界だ」


 そうつぶやくのは、”白銀の剣士”ソフィアだ。


「あはは。僕も興味ないね。モフモフのみんながいれば、それで満足だよ」


「がうっ!」


 ”ビーストマスター”アルカの言葉を受けて、くまっちがそう吠える。

 くまっちもしっかり湯船に浸かっているが、事前にきれいにした上で他の入浴者に了解を得ているので、大きな問題はない。


「んー……。アルカさんはそれでいいんだろうけど。僕は、興味がないわけじゃないんだよ。ただ、理想の相手がいないだけで……」


「あはは。ちなみに、理想の相手って?」


「白馬の王子様かなあ。僕のピンチにさっそうと駆けつけてくれるような……。そして、僕1人をずっと愛してくれるんだ」


 ソフィアがうっとりとした表情でそう言う。

 まるで夢見がちな少女のような考え方だが、実際に彼女はまだ少女なので仕方ない。

 それに、彼女の生まれがミネア聖国であることも影響している。

 ミネア聖国は、一夫一妻を強く推奨しているお固い国なのだ。


「んふふ~。フレンダちゃんもその気持ちわかるよ~。やっぱり、女の子は白馬の王子様に憧れるものだよね~」


 ”魅了”のフレンダがそう言う。

 彼女は魅了魔法により男性冒険者を侍らせているが、実際のところ一線は引いている。

 結婚相手となると、自分の魅了魔法に屈しない男を求めているのだ。


「ふん。青臭いガキどもじゃの。……それなら、タカシ=ハイブリッジ騎士爵はどうじゃ?」


「確かに彼は有望ね。王子ではないけれど、平民から貴族に成り上がった超新星。それに、私の見立てでは彼はまだまだ上を目指せるわ」


 ”烈風”イリアと”武闘演舞”のセニアがそう口を出す。


「タカシさんかあ……。平和を愛する気持ちは僕と同じだけど、奥さんを何人も囲っているのはちょっとね……」


 ソフィアがそうこぼす。

 冒険者や貴族としては高く評価しているが、自分のお相手となると話は別だ。

 彼女は生まれ祖国であるミネア聖国における一般的な考え方を持っている。


「フレンダちゃんは、悪くないと思ってるよ~。ちょっと作戦を練っておこうかな~」


 フレンダがそう言う。

 魅了魔法に屈しなかったタカシに少し興味を抱いているようだ。


「私も負けませんよ! 伯爵家次女である私とつながりができれば、タカシさんにだってメリットは大きいはず……!」


「うふふ。その意気よ、シャルレーヌ。それに、あなたの武器を活かせばチャンスはあるわ」


 シャルレーヌとマルセラがそう言う。

 シャルレーヌは水魔法の腕に優れている。

 伯爵家の次女であるという身分も、新興貴族のタカシにとって頼りになる存在となるだろう。

 何より、彼女には巨乳という武器がある。


「むむ! ライバルが多いわね……。やっぱり、あのときに成功していれば……!」


「そうだね~。ハナちゃんも、楽して暮らせる貴族様の側室になりたいな~」


「……結構厳しいと思う。みんな、考えることは同じ……」


 ツキ、ハナ、ユキがそう言う。

 彼女たちは新興貴族であるタカシの財産を目当てに、彼に色仕掛を行った。

 ミティやアイリスたちの介入により失敗に終わったが、まだ完全に諦めたわけではない。


「なんだ、みんなして……。あんな好色男のどこがいいのだ。確かに、実力は確かのようだったが……」


 ベアトリクス第三王女がそうつぶやく。

 この集団の中で、タカシに対する心証が最も悪いのが彼女だ。

 まあ、大部分はタカシの失言に起因するので、不当な評価というわけでもないのだが。


 女風呂ではそんな会話がされつつ、穏やかな時間が流れていった。

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