第13章 ラスターレイン伯爵領でのんびり

442話 ルクアージュにてのんびり

 俺たちがルクアージュに帰還して、数日が経過した。

 ユナのテイムにより、ファイアードラゴンという脅威は実質的に取り除かれた。

 リールバッハたちはまた別の諸問題に取り組み始めているようだ。


 千は身体的・魔法的に拘束された上で勾留されている。

 罪状は、人に対して闇魔法を行使したことである。

 今回は相手が貴族だったこともあり、より厳しい追求がある。


 彼女はヤマト連邦出身の外国人だ。

 本来であればサザリアナ王国対ヤマト連邦で国家規模の紛争にも発展しかねない。

 しかし幸か不幸か、ヤマト連邦は鎖国国家である。

 サザリアナ王国が抗議しようにも、その対話の門戸が開かれていない。

 結局は、千個人の責任を追求するにとどまることになる。


 なにせ、貴族に対して闇魔法を行使したのだ。

 騎士爵や男爵のような下級貴族ではなく、伯爵という上級貴族。

 人数も1人や2人相手ではなく、5人。

 さらに、ファイアードラゴンの再封印か討伐かという重大な判断に大きな影響を与えている。


 それらを踏まえると、死罪となってもおかしくはない。

 サザリアナ王国が比較的穏健な法体制を敷いていることを踏まえても、少なくとも数年以上は牢に入れられるところだろう。


 だが実際には、数年どころか数週間程度で釈放される見通しだ。

 彼女の持つ闇魔法の知識やヤマト連邦独自の技術を提供させることで、大幅な減刑を行う形である。

 闇雲に例外的な減刑を認めると、法による秩序を失う。

 そのリスクを負ってまでしても、千の持つ知識を得たいという判断である。


 まあ、そのあたりの繊細な判断はリールバッハたちに任せればいいだろう。

 それよりも、俺たちミリオンズが考えるべきは今後の活動についてだ。


 ラスターレイン伯爵家との戦いの前に、リーゼロッテに通常の加護を、蓮華に加護(小)を付与した。

 そして、みんなのスキルを強化した。

 俺たちミリオンズの戦闘能力はもはや絶大だと言っていい。

 ミリオンズとしての冒険者登録は行っていないものの、ティーナやドラちゃんという人外の新戦力もいるしな。


 加えて、俺たちの戦闘能力をさらに向上させる材料がある。

 それはーー。


「ミティ。その剣はどんな感じだ?」


「うーん。相当に凝ったつくりですね。上物であることは間違いありません。火魔法を強化する力があるようです」


 アヴァロン迷宮の宝物庫で、俺はいろいろな物品を回収した。

 基本的には回収した俺個人のものとなるが、やっかみ対策や忠義度稼ぎも兼ねて、適度にばらまくつもりである。

 物品の一部は、ラスターレイン伯爵家や冒険者ギルドに提供済みだ。

 トミーたちへは、冒険者ギルドを経由して報酬金が若干上乗せされているようなイメージで処理される。


 だが、その中でもいくつかの物品は俺のものとして堅守した。

 そのうちの1つが、今ミティに見てもらっている剣だ。

 格の高い雰囲気を感じるが、サビまくっている。

 鍛冶術レベル5のミティの意見を聞いているところだ。


「うまく鍛え直すことができそうか? リールバッハさんたちに依頼すれば、この街の炉を借りることもできると思うが」


「今の私の知識と経験では、難しいです。慣れた炉で、お父さんに相談しながらであれば何とかなるかもしれません」


 ミティは鍛冶術レベル5であり、技術は卓越している。

 しかし、知識や経験はスキルでは付いてこない。

 経験豊富な彼女の父に相談するのは、いい手だ。


「わかった。とりあえずは保留だな。今回の件が落ち着いたら、しばらくはラーグの街を拠点に活動するだろう。タイミングを見てガロル村に帰って、鍛え直してくれると嬉しい」


「わかりました!」


 このルクアージュにも、転移魔法陣は作成しておいた。

 別に、ここからガロル村に転移しても大きな問題はない。

 しかし、慣れない土地でパーティを分散させることはできれば避けたい。

 ミティをガロル村に置いて別行動をするのであれば、せめて他のメンバーは本拠地であるラーグの街に置いておきたい。


 そういえば、ラーグの街の近況も気になるところだ。

 せっかく騎士爵を授かったというのに、ここしばらくはずっと放置してしまっている。

 まあ、俺が領主に就任する前から現町長によっていい感じに運営されていたのだ。

 このわずかな期間で大問題などは発生していないだろう。


 選別試験、ダンジョン攻略、ファイアードラゴン戦、ラスターレイン伯爵戦。

 ここ最近は、ずいぶんと密度が濃かった。

 しかし実際のところ、期間としてはわずか1か月間に起こった出来事である。


 警備兵として雇ったクリスティやネスターは元気にしているだろうか。

 キリヤとヴィルナ、トリスタとヒナの関係はそれぞれ多少進歩していたりするのだろうか。

 工事中だった別館の建造は、そろそろ終わっていてもおかしくない。


 旧ブギー盗掘団のアジト周辺の再開発の件も気になる。

 ブギーやジョーの採掘の技術を遺憾なく活かして、開発を進めてくれているはずだ。

 何か問題が発生していたら、俺たちミリオンズが直々に手伝うことも考えないといけない。


 まあ、そのあたりはしばらく先の話だ。

 まずは、今回の一件が落ち着くまではここルクアージュでゆっくりすることになる。


「……ところで、ミティ。今日の日付を知っているか?」


「ええっと。1002年の……10月11日ですね」


 俺がこの世界に転移してきたのは、1001年の4月1日だ。

 もう1年半以上が経過している。

 月日が経つのは早い。


 ミティ、ユナ、リーゼロッテ、モニカ、ニムと出会って、1年と6か月。

 アイリスと出会って、1年と4か月。

 マリアと出会って、1年と3か月。

 サリエと出会って、9か月。

 蓮華と出会って、1か月半。

 そして……。


「あの日が、もうすぐそこまで迫っているな……」


「タカシ様も覚えていてくださったのですね! えへへ。うれしいです!」


 ミティがそう言って、喜ぶ。

 せっかくだし、何かサプライズプレゼントを上げたいな。

 いや、彼女も覚えている以上、サプライズにはならないが。

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