401話 アヴァロン迷宮 3階層 コカトリス

 俺たちは、引き続きアヴァロン迷宮の3階層を探索している。

 キラー・ビーの他、ブレードウルフやゴブリンなども出現している。


 俺やリーゼロッテは力を温存するために後方にて待機。

 魔物には、他のメンバーが対処してくれている。

 ミティやアイリスはもちろん、蓮華やコーバッツ、それに同行のCランク冒険者たちもがんばってくれた。


 そしてーー。


「また石版だ。『新種の竜を、我々はフレイムドラゴンと名付けた』か」


「フレイムドラゴン? このダンジョンの最奥に眠るのは、ファイアードラゴンのはずですが……」


 サリエがそう言う。


「名前が変わったのかも。リーゼ、何か知っているかしら?」


「いえ、わたくしは存じませんね」


 リーゼロッテも知らないと。

 

「ふむ。まあ、戦う相手がフレイムドラゴンだろうとファイアードラゴンだろうと関係ない。深く考えないでおこう。それに、また石版があるかもしれないしな」


 俺はそう言う。


 そして、さらにしばらく歩く。

 いよいよ、3階層も終わりが見えてきた。

 少し開けた場所がある。

 その奥には、4階層へ上る階段。


「…………!」


 巨大な魔物が階段前に陣取っている。

 ニワトリのような頭部、竜の翼、そして蛇の尻尾を持つ。


「コ、コカトリス……。まさか3層で、こんな大物が出るなんて」


 アイリスが驚愕した表情でそう言う。


「そんなに危険な魔物なのか?」


「う、うん。身体能力も高いし、何より”石化の邪眼”が……」


 アイリスがそう説明しているとき。

 ギラッ!

 コカトリスの目が光った。


「ぐあっ!? お、俺の手が動かねえ! まるで石になっちまったみたいだ!」


「俺の足もだ! なんだ、これは!?」


 同行のCランク冒険者たちがそう叫ぶ。

 手や足が動かないだと?

 これが石化の邪眼とやらの効力だというのか。


 ヤバいなんてもんじゃない。

 見られただけで手や足が不随になるとは。


 俺は慌てて撤退しようとするが、同行の冒険者たちが詰まっていてすぐには動けない。

 そうこうしているうちに。


 ギラッ!

 コカトリスの目が再び鋭く光る。

 やつの視線は俺のほうを見ている。


「これはマズイ」


 俺の体も不随になってしまうかもしれない。

 異世界無双も、ここで終了なのか……。


 いや、待て。

 よく見ると、やつの口元から小さな針のようなものが飛んできている。

 俺の他、ユナやコーバッツのほうにも飛んでいる。


「……焼き尽くせ。バーンアウト!」


 ジュッ!

 小さな針が俺の火魔法によって熱せられ、蒸発する。


「ナイス、タカシ。よく見切ったね」


「ああ。あの小さな針が”石化の邪眼”とやらの正体か?」


「うん。光る目で相手の視線を引きつけて、そのスキに神経毒を打ち込んでくる感じだね」


 さすがに、見ただけで石化するようなチート能力は持っていなかったようだ。

 いくらコカトリスとやらが強力な魔物でも、そこまでされたらたまったものではない。

 見ただけで石化する能力とかは、もっと物語の終盤で登場するものだ。


「ふむ。種が割れれば大したことはないでござる。拙者に任されよ」


「わ、わたしもいきます! ロックアーマーをまとえば、あんな針は通りません!」


 蓮華とニムが先陣を切る。

 蓮華は剣士として反応速度に優れている。

 ニムは、土魔法による岩の鎧が強力だ。

 2人とも、コカトリスに対する相性はそこそこいいと言ってもいいだろう。


「第一の型……風斬り」


「アイアン・パンク!」


「…………!」


 蓮華の剣術とニムのタックルが、コカトリスにダメージを与えていく。

 また、他のCランク冒険者たちも石化の邪眼に注意を払いつつ攻撃に参加している。


「石化……、つまりは麻痺させるだけでしょ? 麻痺なら、私のお家芸だよ」


 モニカが雷魔法の詠唱を始める。


「万物貫く雷の精霊よ。我が求めに応じほとばしれ。パラライズ!」


 バリバリッ!

 モニカの手から、電撃がほとばしる。


「…………!?」


 コカトリスは全身が硬直し、麻痺している。

 

 パラライズは、麻痺させることに特化した魔法だ。

 電流が流れることによる物理的なダメージには期待できない。


 麻痺具合は、術者の力量と対象者の魔法抵抗力の高さによって変動する。

 今のモニカがファイティングドッグやゴブリンに放つのであれば、一歩も動けないようなレベルで麻痺させることも可能である。


 一方で、中級以上の魔物には効き目が悪い。

 コカトリス級であれば、多少動きを阻害する程度だ。

 とはいえ、やつは自分が麻痺させられる立場になるとは思ってもみなかったのだろう。

 混乱した様子である。


「……木々の精霊よ。我が求めに応じ敵を縛れ。ウッドバインド!」


 サリエが初級の植物魔法で追撃する。

 こちらも、相手の動きを阻害する系統の魔法である。

 周囲のツタが急成長し、コカトリスを縛る。


「よっしゃあ! ここまでしてくれりゃ、俺たちの出番だぜ!」


「おらおらぁ!」


 同行のCランク冒険者たちが、コカトリスをボコボコにする。

 彼らの言う通り、パラライズやウッドバインドによって行動不能になったコカトリスは、もはや敵ではない。


 とはいえ、上級の魔物だけあって生命力は強い。

 みんながしばらくタコ殴りにして、ようやくやつは虚空へと消えた。

 これで討伐完了だ。


「よし、順調だな!」


「いえ。ちょっと待ってください。彼らの麻痺が……」


 サリエがそう言う。

 コカトリスの石化の邪眼という名の神経毒にやられた冒険者たちが数名いるのだった。


「麻痺は、治るのか?」


「神経自体を傷つけられたわけではありませんし、治るはずです。魔物の種類は違いますが、神経毒の勉強もしてきました。私の治療魔法で挑戦してみます」


 サリエがそう言う。

 彼女は治療魔法士として、治療魔法の鍛錬を積んでいる。


 それと同時に、医者も志している。

 病や毒の知識の吸収に余念がない。


「……彼の者に安らかなる癒やしを。リカバリー」


 サリエが上級の治療魔法を発動させる。

 動かなくなった冒険者の足を、治療の光が包む。


「お、おお! 動くぞ! 俺の足が!」


 冒険者の男がそう言って、喜ぶ。

 無事に治療できて、よかった。


 サリエは続けて、他の者にも治療魔法をかけていく。


「よかったのか? 治療魔法は俺やアイリスも使えるが」


「はい、ここは私に任せてください。タカシさんやアイリスさんは、さらなる強敵に備えて力を温存しましょう」


 ダンジョンがあとどれほど続くかわからない。

 今は3階層だ。

 4階層や5階層があるとすれば、さらなる強敵が待ち構えていてもおかしくない。

 そしてダンジョンの最終ボスは、ファイアードラゴンとなる。

 あまり後先考えずにMPや闘気を使ってしまうと、後が苦しい。


「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」


 サリエが、最後の仕上げとして全体に治療魔法をかける。

 効果はリカバリーよりも小さいが、全員の疲労や小さめのケガをまんべんなく治療できる。

 これで、俺たち第六隊のコンディションは万全となった。


「す、すげえ! 彼女の癒やしの光に、俺は救われた」


「それに、さっきの植物魔法も見事だった」


「へへへ。俺は、選別試験中に棒術で殴られたこともあるんだぜ!」


 同行の冒険者たちが口々にそう言う。

 何やらサリエの株が急上昇している様子である。

 彼女は俺のステータス操作の恩恵を受けているし、治療魔法の腕や戦闘能力がどんどん向上している。

 俺たちミリオンズになくてはならない存在だ。


 さて。

 3階層のボスを討伐し、みんなの治療も終えた。

 さっそく4階層に向かおう。

 俺たちが動き始めた、そのとき。


「……警告、警告。アヴァロン防衛システムに、異常発生……。最終防衛装置”ゼータナイン”、起動せよ……」


 再び、ダンジョン内に無機質な声が響き渡った。





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