363話 タカシvs蓮華

 ゴブリンキングの討伐完了を村長に報告した。

報酬の件でひと悶着があったものの、最終的には丸く収まりそうだ。

しかしその代わりに、エルフのサムライである蓮華と模擬試合を行うことになった。


 ミティやサリエたちが見守る中、俺と蓮華が村の広場で対峙する。


「剣は木剣でいいな?」

「もちろんそれで構わないでござる。鍛錬目的の決闘で、命までかけていただくわけにはいかぬからな」


 俺の問いに、蓮華がそう答える。

この口ぶりだと、彼女自身は命をかけてもいいような感じだな。

鎖国状態の自国を飛び出して武者修行するような人は、やはり覚悟が違う。


「木剣なら致命傷にはなるまい。下手に手は抜かなくて済みそうだ。……サザリアナ王国騎士爵にして、Bランク冒険者。紅剣のタカシ、参る!」


 俺はビシッとそう言う。


「いざ尋常に。織田家傘下”火影軍”第七席……山風の蓮華、参る!」


 蓮華が真剣な表情でそう言う。

金髪碧眼で凛とした顔立ちが、この緊迫した雰囲気に合っている。


 彼女がさっそく、こちらに駆け寄ってくる。

なかなかの移動速度だ。

通常時のモニカやアイリスに、決して引けを取らない。


「第一の型……風斬り」

「むっ!?」


 あ、危ねえ。

俺は蓮華の斬撃を、かろうじて防ぐ。

足さばきも速いが、太刀筋はさらに速かった。


「初見で今のを防ぐとは……。魔法だけではなく、剣術もやはりとんでもないでござるな」


 蓮華が少し距離を取り、驚嘆した表情でそう言う。


「当然だ。家族や仲間、それに領民を守っていくためには、俺は強くなくてはならない」

「左様でござるか。しかし、守るべきものがあるのは拙者も同じ。ここでたかし殿を倒し、成長の糧とさせていただくでござる!」


 蓮華が闘気を開放する。

大技が来そうだ。


「第二の型……昇龍の舞!」


 下段、中段、上段。

なかなかに洗練された斬撃だ。


「くっ」


 俺は何とか防ぎ切る。

しかし、少しだけバランスを崩してしまった。


「第三の型……降龍の舞!」


 上段、中段、下段。

先ほどの斬撃を巻き戻すかのような、鋭い斬撃だ。


「ぐおっ!」


 数撃程度、受けてしまった。

まあ、かすっただけだが。

これが真剣での勝負だったとしても、まだまだ勝負はついていない。

しかし、俺は痛みで少し動きがにぶってしまった。


「隙有りでござる! 火影流奥義、八咫烏!!!」


 1、2、3、4、5、6、7、8。

8発の突きが、どういう理屈かほぼ同時に放たれる。

たった1本の剣では、どうやっても受けきれない。


 だが、ここはーー。


「疾きこと風の如し」


 俺は足に闘気を集中させ、高速移動で突きを回避する。

受けきれなければ、避ければいいのだ。

本来は武闘用に習得した技術ではあるが、剣術での戦闘に流用してダメな理由はない。


「なっ!? き、消えたでござる!?」


 蓮華は俺の姿を追いきれなかったようだ。

彼女が俺を見失う。


「後ろだ」


 俺はそう言って、木剣を蓮華の横っ腹に叩き込む。


「ぐっ!」


 彼女が腹を押さえてうずくまる。

今の攻撃は、もちろん加減をしておいた。

俺が本気なら、彼女は今ごろ勢いよく弾け飛んでいったはずである。


 俺は木剣の切っ先を彼女の眼前に突き出す。


「まだやるか?」

「ま、参ったでござる……」


 蓮華が悔しそうにそう言う。

これにて、決闘は終了だ。

俺は蓮華に近づき、治療魔法をかけてやることにする。


「……神の御業にてかの者を癒やし給え。ヒール」


 治療の光が蓮華を包む。


「ぬ。かたじけないでござる」


 蓮華がそう言って、頭を下げる。


「非常に勉強になった。たかし殿は、凄まじい実力を持っているでござるな。攻撃魔法に剣術、そして高出力の闘気に、治療魔法まで……。剣術一本の拙者は、負けて立場がないでござる」


 蓮華がしょんぼりした表情でそう言う。

いかん。

やり過ぎたか。


「いや。蓮華さんも、かなりいい線いってたと思うぞ。俺が知っている剣士の中では、かなり上位だ」


 冒険者には剣士が多い。

Dランク冒険者のディッダ、ウェイク、ビリー、ハルトマン、サム。

その他E~Dランク冒険者の剣士を、俺は何人も見てきた。


 彼らよりも、この蓮華のほうが強い。

まあ、蓮華はCランクだし当然と言えば当然ではあるが。


 俺が知っている範囲では、蓮華より強い剣士はあまり多くない。

氷炎魔剣流準師範のビスカチオ。

ディルム子爵領軍のアカツキ総隊長。

明確に強いのはこの2人ぐらいか。


 ディルム子爵領軍のダイアとガーネット、俺の配下のキリヤあたりも結構強い。

蓮華と互角ぐらいだろうか。

まあ、細かい条件によって勝敗は変わるだろうが。


 特別表彰者の白銀の剣士ソフィアはどうだろう。

純粋な剣技では蓮華のほうに分がありそうだ。


 しかし、ソフィアには魔法による搦手がある。

また、ソフィアは相当いい武器を使っている。


 そこらを加味すると、互角かソフィアのほうが少しだけ強いぐらいだろうか。

まあ、ソフィアはCランクの中でも特別表彰者だしな。

蓮華よりもやや格上だ。

蓮華も決して弱くはないが。


「そうでござるか? 少し元気が出たでござる。そらとりあで、もっと上を目指して精進するでござる」


 蓮華が持ち直してそう言う。

俺はみんなのところに戻る。


「お疲れ様でした、タカシ様」

「ケガはない? ボクが治療してあげるよ」


 ミティやアイリスがそう労ってくれる。

そして、リーゼロッテとサリエは1歩引いたところで俺の様子をうかがっている。


「タカシさん……。いつの間にこれほどの剣術を? ゴブリンキングを葬った火魔法といい、道中で見せていただいた中級の水魔法といい……。とんでもない成長速度ですわ」


 リーゼロッテが感嘆した様子でそう言う。


「すてきです……。治療魔法で私を死の病から救ってくださり、武功で騎士爵を授かり……。それに、火魔法や剣術もこれほどまでにお強いなんて。何より、普段から私に対して気遣ってくださるお優しい心。これは……」


 サリエが顔を赤くしてそうつぶやく。

どうやら、いいところを見せられたようだな。


 忠義度はどうだ?

……おお!

43になっている。


 加護付与の条件である50が見えてきた。

そして、これにてミッションが達成となった。



ミッション

新たに忠義度40を達成しよう。

報酬:加護付与(小)の解放

   スキルポイント10



 スキルポイント10は大きい。

みんなそれぞれ、スキルを1つ強化したり取得したりできるだろう。


 さらに、マリアは先ほどのゴブリン戦でレベルが上がっていたようだ。

彼女は、レベルアップで獲得したスキルポイントの分も合わせて強化できる。


 そして何より、今回の目玉は加護付与(小)とやらだ。

さっそく、その内容を確認してみることにしよう。

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