336話 4通の手紙

 ミリオンズのみんなとスキルやミッションについて情報を共有してから、数日が経過した。

登用組や奴隷組の忠義度稼ぎに向けて、いろいろと準備を進めている。

俺とアイリスで医者のナックのところを訪れて、シェリーとネスターの肺の病、リンの目の病についての情報収集なども行っている。


 今は、1日の活動を終えてミリオンズのみんなでリビングにてくつろいでいるところだ。


「お館様。本日も、お手紙が届いております。4通です」


 セバスがそう言って、手紙を渡してくる。

騎士爵を授かってからというもの、たくさんの手紙がうちに届くようになった。


 そのほとんどはサザリアナ王国各地の貴族や有力者からの、俺が騎士爵を授かったことに対するお祝いの手紙だ。

サザリアナ王国王家からの手紙や、ウェンティア王国のディルム子爵からの手紙もあった。

今は毎日のように新たな手紙が届いているが、じきに落ち着いてくるだろう。


 俺はセバスから渡された4通の手紙の差出人を確認する。


「ふむ。ハルク男爵、バルダイン陛下、ラスターレイン伯爵、それにソーマ騎士爵か」


 まずは、ハルク男爵からの手紙を開く。

ざっと目を通していく。


『(前略)。騎士爵を授与されたこと、祝福させてもらう。我がハルク男爵家としても、頼もしい貴族が近くに生まれてうれしい限りだ。(中略)。この度、お祝い品を贈呈することにした。ささやかではあるが受け取ってくれ。その使いとして、サリエやセルバスを送っている。できれば歓待してやってくれるとありがたい。なんなら、サリエを嫁としてそのまま迎えてくれてもいいぞ!(後略)』


 ふむ。

サリエがこの街に来るのか。

彼女の難病を治療してから、もう半年以上が経過しているしな。

基礎体力は戻ってきたということか。


 最後の、サリエを嫁に云々の下りは、さすがに冗談だよな?

仮にそういう方向性になったとしても、俺からハルク男爵へのあいさつは必要となる。


 続けて、バルダイン陛下からの手紙を開く。


『(前略)。叙爵を祝福する。我が国でも地位を与えようと思っていたのだが、サザリアナ王国には先を越されてしまったな。(中略)。マリアがタカシに会いたがっている。ゾルフ砦やラーグの街は我らとともに訪れたことがあるが、他にもいろいろな街へ訪れてみたいそうだ。一度、相談に乗ってほしい。できればそちらから迎えに来てくれるとありがたい。(後略)』


 オーガの言葉で書かれている。

俺は異世界言語のスキルを持っているので、読んで理解することができる。


 それにしても、マリアがそのような状態になっているのか。

そろそろミリオンズに加入してもらおうかと思っていたところだし、ちょうどいいかもしれない。


 バルダインには、俺の転移魔法陣のことを伝えてある。

彼の言う通り、俺が向こうに迎えに行ったほうが早いし安全だ。

近いうちに迎えにいくことにしよう。


 続けて、ラスターレイン伯爵家からの手紙を開く。


『(前略)。この度の叙爵を歓迎し、祝福する。ともにサザリアナ王国の発展に尽力しようではないか。(中略)。我が娘リーゼロッテと交流があると聞いた。リーゼロッテをそちらに送り、直接祝福の言葉を述べさせてもらおう。ささやかではあるが、様々な物品も持たせてある。今後の領地経営に役立ててほしい。(後略)』


 伯爵といえば、騎士爵よりもはるか格上だ。

にもかかわらず、こちらを過度に下に見ることもない丁寧な文面と対応である。

やはり、伯爵を授かるような家系の者はきちんとした人格を備えているということか。


 リーゼロッテと会うのは久しぶりだ。

粗相のないように気をつけないとな。


 確か、ラスターレイン伯爵家はここから北北東方向にある。

ハルク男爵領やミティの故郷ガロル村よりも遠い。

リーゼロッテがここにやって来るのは、サリエよりも後になりそうだな。


 続けて、ソーマ騎士爵からの手紙を開く。


『(前略)。君の噂は聞いているよ。とりあえずは叙爵おめでとうと言っておこうか。でも、ザコの魔物を倒したり、盗掘団ごときを捕縛した程度の功績でいい気にならないようにね。(中略)。せいぜい、私と同じ騎士爵として恥じない振る舞いを身に着けてくれよ。機会があれば私の領地に勉強に来たまえ。統治のあり方を見せて、剣術の稽古もつけてあげよう。(後略)』


 俺はソーマ騎士爵とは面識がない。

確か、ラスターレイン伯爵領の隣を治めていたはずだ。


 何だか嫌味ったらしい雰囲気を感じる。

手紙だからガマンできるが、面と向かって同じようなことを言われたらイラッとくるかもしれない。

一応は招いてくれているようなので、機会があれば実際に訪れてみるのも悪くはない。


 ハルク男爵、バルダイン陛下、ラスターレイン伯爵、それにソーマ騎士爵からの手紙の内容をまとめよう。


 ハルク男爵家からは、サリエがやって来る。

ラスターレイン伯爵家からは、リーゼロッテがやって来る。

それぞれ今後の加護付与の候補者だし、丁重にもてなす必要がある。

ミッションのためにも忠義度40は早めに達成したいところだ。


 バルダイン陛下のハガ王国に対しては、俺からマリアを迎えにいく必要がある。

彼女には加護を付与済みだ。

年齢、身分、種族などを考慮して、これまではミリオンズへの加入を見送ってきた。


 しかし、あれからもう1年以上が経過している。

年齢は、8歳から9歳になっているはず。

誕生日次第では、10歳になっている。


 10歳であれば、冒険者として登録できる年齢だ。

完全な子どもというわけではない。


 身分については、彼女側としてはどうしようもない。

ハガ王国の姫であるという身分は、変えられるものではないからだ。

しかし、少し前に俺が騎士爵を授かったことにより、俺の周囲の安全性は格段に高まったと言えるだろう。


 自宅にいる間においては、ミリオンズのみんなに加えて、警備兵の面々が守ってくれる。

ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、クリスティ、シェリー、ネスターの6名だ。

さらに、非戦闘員ではあるがハンナやニルスが加わったことにより、敷地内の人口密度が増した。

人の目が増えたという面でも、安全性は増したと言えるだろう。


 種族についても、オーガやハーピィが友好種族であることがこの1年ほどでずいぶんと広まってきた。

2か月ほど前のモニカとの結婚式でバルダインやマリアを招いたが、まったく違和感なくこの街に溶け込んでいた。

種族を理由に第三者から敵視されるリスクはかなり減ったと言えるだろう。


 手紙の情報によれば、マリアは人族の街をいろいろと巡ってみたいそうだ。

総合的に考えて、マリアに俺たちミリオンズへ加入してもらうのは、かなり現実的かつメリットの大きい選択となるだろう。


 サリエやリーゼロッテの訪問を待ちつつ、まずはマリアを迎えに行く感じかな。

ただし、それ以外にも済ませておきたい用事はたくさんある。


 クリスティとの模擬試合、シェリーとネスターの肺の治療、リンの目の治療、孤児院への訪問、オリハルコンや蒼穹の水晶を用いた新しい武具の作成などだ。

忙しい日々が続くが、がんばってこなしていこう。

それらが終われば、この街を現町長や配下の者たちに任せて、俺たちミリオンズは冒険者としてまた新たな街を訪れていきたいところだ。

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