189話 メルビン道場への入門 風林火山 中編

 メルビン道場へ入門の手続きをした。

さっそく、メルビン師範にモニカとニムの実力を見てもらった。

なかなかの好評価だった。


 続いて、俺、ミティ、アイリスの成長具合も見てもらうことになっている。


「まずはだれから来る!? だれでもいいぞ!」


「では、俺から行きます」


 本命は後にとっておいたほうがいいだろう。

正直、武闘においては俺はミティやアイリスよりも格下だ。


 前回のガルハード杯で、ミティは優勝した。

一方で、俺は1回戦負けだった。


 アイリスも同じく1回戦負けだった。

しかし彼女は、その後のスキル強化で格闘術や闘気術をたくさん伸ばしている。

一方で俺は、魔法などを優先的に強化しているため格闘術や闘気術は伸ばしていない。

現在の武闘における戦闘能力はかなりの差がついてしまっているだろう。


 モニカは、俺とほぼ互角だ。

とはいえ、これは対人に限ったときの話。

魔物相手であれば、彼女の強靭な脚力を活かした足技はかなり有用だ。

さらに、闘気術さえ習得できれば、俺の武闘の戦闘能力などはあっという間に抜き去っていくだろう。


 俺は一歩前に出る。


「タカシか! 冒険者ギルドで期待されているその実力、見せてもらおう!」


「ええ。がんばります」


 道場の中央まで出て、メルビン師範と対峙する。

タイミングを見計らう。


「ではいきます。……鳴神!」


 俺は鳴神を発動し、高速で移動する。

スピードで翻弄しつつ、メルビン師範に攻撃を仕掛ける。


「ワン・ファイブ・マシンガン!」


 元はストラスの”ワン・エイト・マシンガン”で、18発の蹴りを放つ技だ。

俺の現状の脚力と技量では、15発までしか再現できない。

ちなみにモニカは17発まで再現できる。


 ストラスは、もっと数を増やすことを目指していると言っていた。

俺たちも、脚力・格闘術・闘気術などのレベルを高めつつしっかりと技の精度を上げていけば、数を増やしていけるだろう。


 俺の目にも止まらぬ蹴りの連撃により、メルビン師範が防戦一方となる。


「うう……。なかなか強力だ。やりおるわい!」


 モニカも、鳴神によるスピードと連撃を活かして闘っていた。

メルビン師範に攻撃のスキを突かれ、反撃をもらっていたが。


 俺の鳴神は、モニカと同等以上はある。

一方で連撃は、俺が少し劣る。

総合的に言えば、俺とモニカはほぼ互角だ。

メルビン師範の反撃にさえ注意すれば、このまま試合を優位に運べるだろう。


「その技の組み合わせ、モニカの嬢ちゃんと同じじゃな!」


「ええ。しかし、俺は彼女ほど簡単に負けるつもりはありませんよ。メルビン師範の先ほどの技はじっくりと見させてもらいましたから」


「ふむ! 一度見たぐらいで、見極められるものじゃないわい! しかしせっかくじゃから、また違った技を見せてやろう!」


 メルビン師範がそう言って、脚に闘気を集中させる。


 モニカのときとは違う技のようだ。

何をしてくる気だ?

俺は彼を注意深く見る。


「剛拳流、疾きこと風の如し」


 メルビン師範がそう言って、動き出す。

シュッ。


「なっ!? は、速い!」


 俺の鳴神と互角。

いや、それ以上か。


 メルビン師範がスピードを活かして攻撃してくる。


「そりゃそりゃ! どうじゃ!?」


「くっ!」


 俺は防戦一方となる。

このままではマズい。

こうなれば短期決戦しかない。


「はああぁっ!」


 こっちも闘気の出力をアップさせる。

さらなる高速移動が可能となる。

闘気を大量に消費するので、あまり長時間はもたないが。


 俺の超高速移動により、メルビン師範の背後に回り込む。


「後ろだ!」


 俺はそう言って、攻撃を仕掛ける。

攻撃がヒットした。

……ような気がしたが、気のせいだった。

俺の攻撃が空を切る。


「ぬはは! 残像じゃ!」


「なにっ!? ぐはっ」


 俺はメルビン師範にいい一撃をもらってしまった。

数メートル弾き飛ばされる。


「ぬはは! だいたいの実力はわかったわい!」


 メルビン師範が闘気を収めて、そう言う。

模擬試合は終了のようだ。


「順調に成長しておる! スピード、技術、判断力。全てが以前より向上しておるようじゃの! しかし冒険者としてより上を目指すのであれば、もうひと回り技量を上げておいたほうがいいじゃろうな! みっちり教えてやるから安心しろ!」


 メルビン師範が俺をそう評する。

できれば勝ちたかったが。

やはりそう甘くはない。

年季が違う。


 俺は自身に回復魔法をかけ、起き上がる。


「わかりました。今後のご指導をよろしくお願いします」


 まあ、ボロクソにけなされたりはしなかったので一安心ではある。

とりあえずヨシ!


「ふう……。しかし、少し疲れたわい! 想像以上の成長じゃったわ!」


 メルビン師範がそう言って、息を整える。


「さて! 次はどっちじゃ!?」


 残っているのは、ミティとアイリスだ。


「次は、私が相手をしましょう。タカシ様の敵は妻である私がとります!」


 ミティが顔を引き締め、そう意気込む。


「なんじゃ。タカシとミティは、結婚したのか!? それはめでたい! お似合いの夫婦じゃ!」


「そ、そうですか? ありがとうございます!」


 ミティのほおが緩む。


「……はっ!? いけない。言葉で惑わして私の闘志をなくさせるとは。師範は口撃もなかなかのものですね」


「いや、普通に祝福しただけじゃが……」


 ミティの言葉に、メルビン師範がそう突っ込む。


「ま、まあいい! 今の実力を見せてもらおう!」


「わかりました!」


 ミティとメルビン師範の模擬試合。

果たしてミティは勝つことができるのだろうか。

見どころだ。

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