142話 食事会当日 準備作業

 数日が経過した。

いよいよ、今日は食事会の日だ。


 食事会の参加者は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

さらに、ユナ、リーゼロッテ、マリアだ。

合計8人となる。


 以前ラビット亭で開いた食事会よりも規模は小さい。

それでも、8人もいればにぎやかなものとなるだろう。

準備も念入りに必要だ。


 料理はモニカがメインで準備してくれている。

俺、ミティ、アイリス、ニムは、彼女の手伝いをしたり、机やイスのセッティングなどを行っている。


「モニカ。準備は順調か?」


「うん。順調だよー」


「他に手伝うことはないか?」


「だいじょうぶだよー。おいしい魚料理を楽しみにしていてね。マヨネーズを活かした魚料理だよ」


 それは楽しみだ。

メインディッシュは魚料理。

その他、サラダやデザートなども用意されている。


 マヨネーズづくりには、かき混ぜる工程がある。

それなりの力仕事だ。


「はああああ!」


 ミティが全力でマヨネーズをかきまわしている。

マヨネーズづくりは彼女に任せておけば問題なさそうか。


「ア、アップルパイの準備ができたよ。モニカお姉ちゃん」


「わかった。ありがとう、ニムちゃん」


 ニムはアップルパイづくりを手伝っている。

材料はもちろん、彼女の畑で採れたリンゴだ。


 トントントントン。

包丁で何かを切る音が聞こえてくる。


 アイリスだ。

アイリスが野菜を切っている。


「モニカ。サラダの用意もできたよ」


「ありがとう、アイリス」


 うん。

みんなで協力して準備を進めている。

いいことだ。


 問題は、俺が少し手持ち無沙汰なことだ。

何か俺にできることは……。


「タカシ。そろそろマリアちゃんを迎えに行ったら?」


 アイリスがそう言う。


「そうだな。少し早いが、迎えに行っておくか」


 マリアの迎えには転移魔法陣を使用する。

MPの消費が大きいため、疲れる。

早めに済ませておきたいのは確かだ。


 キッチンを出て、転移魔法陣のある部屋に移動する。

詠唱を開始する。


「……テレポート」


 視界が切り替わる。

無事に転移できた。

ハガ王国の王宮の隅の一室である。


 バルダインには転移魔法陣のことは相談済みだ。

だが、見回りの一兵士には情報を公開していない。

無闇に情報を広めすぎるのは、メリットよりもデメリットのほうが大きそうだからな。


 見回りの兵士に気付かれないように、王宮の外に出る。

配察知レベル2と気配隠匿レベル1のスキルがあるから難易度は高くない。


 改めて、王宮の正面から訪ねる。

門番に話しかける。


「こんにちは。タカシです。陛下に取り次いでいただけますか? 本日伺うという連絡はしています」


『これはこれは。タカシ殿。話は伺っております。すぐに取り次ぎ致します』


 門番が王宮内のオーガに連絡している。

少しだけ待つ。


『では、こちらに付いてきてください』


 案内係のオーガとともに、王宮内に入る。

しばらく進む。


『こちらの部屋にてお待ちください』


 案内された部屋に入る。

5日前にバルダインと話したときに使った部屋だ。


 イスに座り、少し待つ。

しばらくして、見知った面々が部屋に入ってきた。

マリアだ。

バルダインとナスタシアもいっしょだ。


 俺は立ち上がり、彼らを迎える。


「こんにちは。陛下、ナスタシア様、それにマリア」


『待たせたな。タカシ』


『やっほー。タカシお兄ちゃん!』


 マリアは元気いっぱいだ。

彼女は少し大きめの服を着ている。

腕や足が隠れている。

頭にはフード。


 これなら、一目ではハーピィだとはわからない。

メインは俺の自宅での食事会だが、少しは街も見て回る予定だからな。


『マリアには意思疎通の魔道具を持たせている。魔道具ランクAのものだ。言葉で困ることはないだろう』


「わかりました」


 意思疎通の魔導具。

潜入作戦のときに、俺もランクBのものをアドルフの兄貴からお借りした。

まあ俺の場合は、異世界言語のスキルがあるから特に必要ではなかったが。

魔道具ランクAのものをマリアが持っていくのであれば、バルダインの言う通り、言葉で困ることはないだろう。


『娘のことをよろしくお願いしますね』


「ええ。任せてください」


 マリアを連れて、転移魔法陣のある部屋に移動する。

マリアと手を繋ぐ。

人といっしょに転移するには、手を繋ぐ必要がある。

もしくは、おんぶや抱っこなどでも可能だ。

このあたりは実験済みだ。


 転移魔法の詠唱を開始する。


「……テレポート」


 視界が切り替わる。

無事に転移できた。

ラーグの街の自宅の一室である。


『へー! すごいね。もう人族の街に来たの?』


「そうだ。明日、見て回ろうな。今日は家でご飯を食べよう」


『わかった!』


 マリアを連れてリビングに向かう。

既にユナとリーゼロッテも来ていた。

参加者は、これで全員そろったことになる。


「きゃー。かわいい。なにこの子」


 マリアを見て、ユナが歓声を上げる。


「マリアだ。少し縁のあった子でな」


『マリアだよ! よろしくね!』


「こちらこそよろしく! 私はユナよ」


 マリアの持つ意思疎通の魔道具は、問題なく効力を発揮しているようだ。

ユナと普通に会話できている。

マリアが、ミティ、アイリス、モニカ、リーゼロッテともあいさつを交わす。


 ……ん?

ニムがマリアをじっと見つめている。

何か気になることがあったのか?


「わ、わたしはニムです。マリアちゃん。何歳ですか?」


『えっとねー。8つだよ!』


「じゃ、じゃあ、わたしがお姉ちゃんですね。ニムお姉ちゃんと呼んでください」


 確かに、ニムのほうが2歳ぐらい年上だ。

俺たちのパーティではニムが一番年下だ。

また、彼女には兄はいるが弟や妹はいない。

より年下のマリアがいて、うれしいのだろう。


『ニムお姉ちゃん!』


「マリアちゃん!」


『ニムお姉ちゃん!』


「マリアちゃん!」


 お互いに名前を呼び合っている。

マリアにも姉はいない。

お姉ちゃんができて、うれしそうだ。

ほほえましい光景を眺めつつ、食事会の最後の準備を進めていく。

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