自称天使と出会いまして

ライラック

一章 

自称天使と出会いまして

春____それは一般に別れと出会いの季節であり自分を取り巻く環境があっという間に変わるまさに一年で一番忙しい季節と言えるだろう。

そしてそんな春に俺_____式野夏目もめでたく高校生になる。

さらには家を出て一人暮らしを始めることにもした。

「まさに忙しい季節だなぁ……」

俺が春から通う高校は特段頭のいい学校というわけでもないし部活に力を入れていると言うわけでもない。

そんな学校になぜわざわざ一人暮らしをしてまで通うことにしたんだと今さらになって思う。

「まぁ……それでもな……」

そんなことを言いながらこれから暮らす新しい我が家への道を行く。

ちなみにバス停から徒歩で25分くらいの場所にありその間店などはない。何軒か家がちらほらとあるくらいだ。

ある程度歩くと家までは一本道になっておりその道は左右を田んぼに挟まれている。

まだ田植えの時期ではないためなにも植えられていない田んぼは見ていてなんとも不思議だ。

「と、ここだ。ここだ」

少し古めの家の前に着く。

ここは1年前に亡くなった祖母が残した家であり長男である父が相続したあと軽い掃除以外ほとんど手付かずにされていたものだ。

「これ実家よりデカくないか?」

中学に上がってからは来ていなかったので3年ぶりなので曖昧だったがデカかったんだな……

「とりあえずお邪魔しまーす……」

そう言って入ってみるが返事はない誰もいないのだから当たり前だけどむしろあったら怖いけど。

「ほんとにこの家を俺一人で使っていいのか?」

俺が中学を卒業後は一人暮らしをしたいと言った時両親は反対したがその後何度も頼み込んでいるうちに父が折れ知らない土地に住むくらいなら知ってる家にいた方がいいとのことで父がこの家での一人暮らしを許してくれたのだ。

玄関をあがって右にある部屋がリビング、左に曲がると仏壇のある部屋とあと二つ部屋があり正面には階段とトイレがある階段の下は物置のような感じだ。

「思ってたよりは綺麗な感じだな」

去年までは人が住んでいたとはいえ中は汚いかもしれないと思っていたが思ったよりもスッキリしていた両親がたまに出かけていたのはここに掃除などをしに来るためだったのかもしれない。

「ふむ……とりあえずは家の周りを見に行くか」

そのついでに近所の人たちに挨拶をしたりもしときたい。

俺は手に持ってた数日分の着替えやら何やらを玄関に置くと再び外に出た。

「て言うかこの道ってもしかして………」

玄関を出て正面はさっき通った道そして左は砂利道につながる道になっている。問題は右だ。

右に曲がり数分歩くと大きな道路に出る。

「やっぱりそうか………」 

どうもこの地域にはバス停が二つありこの国道のほうのバス停に止まるバスに乗ればさっきより歩く距離を少なくすることができたのだ。

「まあ、たまの散歩だと思えばいいか」

肝心なのは気持ちを切り替えることだ本当にこれは大切切り替えられないと面倒なことになりがちだし。

そう頭を切り替え国道沿いにぶらぶら30分くらい歩いていると奇妙なものが目に止まった。

『幸せになりたい人募集!!』

そんなことが書いてある紙が歩道に置いてあったのだ。

「しかも変な形の重りまで乗せてあるし……」

羽の形だろうか。風で飛ばないようにご丁寧に置かれている。怪しすぎる。

「まぁ、本当に幸せになれるなら願ってもない話しだよな……」

そう言いながら羽の形をした重りを少し持ってみる。

すると一瞬激しい風が吹き下の紙を飛ばしてしまった。

「あ、やべ……」

飛んでいった紙を追って振り返るとそこにはその紙を持った一人の女の子が立っていた。

肩くらいまで伸びた綺麗な黒髪にぱっちり開いた目。

見た目は俺よりも2.3年下に見えるが身にまとう雰囲気はどこか大人びていて何か別の世界の生き物なのではないかとすら感じさせる。

端的に言うと美少女だ。

気になるのはその服装でなぜか和服だ。今時そんな格好の子供はなかなかいない。

彼女はしばらく俺の顔を見ると突然深々と礼をして

「どうもはじめまして!!幸せにしちゃいますよ!!」

そう大声で言った。

前言撤回だ大人びた雰囲気はあったが口を開けば見た目相応の子供だ。

「えーっと……君がその紙をここに置いたのかな?」

「いかにもです!それに気づくとはやりますねー」

「いや、そりゃその紙を見た俺を見てそんな勢いで来るのなんて置いた本人くらいだろ」

「ふむ……確かに……では式野さんは高校生探偵ではないのですね」

「ああ、高校生探偵じゃなくて普通の学生をやらせてもらってるよ」

なんなんだこの子は………あれ?そういえば。

「俺って君に名乗ったっけ?」

「いえ、まだはじめましての挨拶しかしてません。なんなら式野さんははじめましてすら言ってくれてません」

そう言って少しむくれた表情をする。

「ごめんごめんはじめまして」

「はい!はじめましてです!式野さん!これからよろしくお願いしますね!」

「いや、だから!」

危うく流されるところだった。

「なんで俺の名前を知ってるんだ?どこかで会ったりしたっけ?」

「いえいえ初めましてですってば」

「じゃあなんで知ってるんだよ……」

なんなんだこの会話は、進んでるようで一つも進んでない。

「へ?」

「いや、へ?じゃなくて……」

「あ!確かに私説明してませんでした!うっかりです!」

そう言うと彼女は腰に手を立てて胸を張ると

「実は私は………天使なのです!!!じゃん!」

そう大声で言った。

「あーー。うん、そうだねうん」

この手合いは相手をしちゃダメだすぐ逃げよう。俺の直感がそう告げている。

「待って下さいよ!信じてませんね!?」

「しがみつくな!誰が怪しい紙を道に置いたやつの怪しい発言を信じるか!」

「しーんーじーてーくーだーさーいー!」

腕にしがみ付いて離そうとしない。一体何がこの子をそこまでさせるんだ……

「はぁ……分かったよ。じゃあ君が天使だって証明してくれないから」

「おや?やっぱり気になっちゃってるんですね?そうでしょうねーーそりゃ気になりますよねー」

「じゃあなーー」

「待って下さい!調子乗りました!ごめんなさい!」

なんだこの子は……て言うか誰だ最初大人びた印象って言ったやつは子供でしかないぞ。

「えーっと、そうですね。どんなことしましょうか?」

「ああ、やってくれるのな。」

「当たり前です!私は天使なんですからそれを証明しないとです!」

そう言って再び胸を張る。なんなんだその自信は。

「そうだな。じゃあ空でも飛んで見てくれ。なんなら俺を家まで連れてってくれるとなおいいな」

少し意地悪かとも思うがこれでこの子も諦めてくれるだろ。

「え?そんなことでいいんですか?」

「いやいやそんなことって……」

ジャンプとかする気じゃないだろうな。

「じゃあ掴まってて下さいね。」 

そう言って手を差し出してきた。小さなその手は少し握ると壊れてしまいそうでなんとなく掴むことが憚られた。

「なにやってるんです?早くして下さい」

「え?あ、ああ」

そう言って手を握る。何を緊張してるんだ俺は落ち着け相手は変わった女の子。そう変わった女の子。

「じゃあ行きますよー」

そう言うと彼女は大きく地面を蹴った。どうもジャンプらしい。とりあえず乗ってあげるか。そう思い地面を蹴る。蹴った。あとは着地だけだ。

「………あれ?」

いつまでも足が地面につかない。不思議に思い下を向きその光景に絶句した。

「…………………は?」

さっき俺たちが立っていた場所はずっと下にあり今俺たちがいるのは電信柱のてっぺんと同じくらいの高さだ。

「んーと、夏目さん!家ってどの辺ですか?」

「え?ああ、その道を曲がって田んぼ沿いに行ったところだよ」

「了解ですー」

彼女がそう言うと俺たちは静かに家の方向に動きだす。

そしてさっき30分かけて歩いた道のりを1分程度で引き返す。

「この家であってますよね?」

そう言いながら家の目の前に着陸すると彼女は手を離して服を整える。

「はい。到着ですよー」

「あ、ああ。到着したな……」

まだいまいち状況が飲み込めない。なんだこれ?夢か?

「どうですか?これで私が天使って信じる気になりましたか?」

「はあ……」

「なんです!その気の抜けた返事は!」

「いやそりゃそうだろ」

「式野さんが言うからやって見せたんじゃないですか!もっとなんかないんですか!?」

なんかって言われてもな……

「君は本当に天使なのか?」

「そう言ってるじゃないですかー!」

「えーっと君は一体何をしに?」 

「式野さんを幸せにするためです!」

「んーっとじゃあ君は……」

「ちょっと待って下さい!」

どうにか頭を整理しようとしていると突然話を遮ってきた。

「どうしたんだ?」

「さっきからなんなんですか!君って呼び方は!なんか距離感を感じます!断固抗議します!」

「いやまあ実際そんな近い距離感ではないと思うんだけど。てか、大体そっちが名乗ってないからだしな」

「………あれ?名乗ってませんか?」

キョトンとした顔で少女は聞いてくる。

「名乗ってませんよ……なんなら俺は君のこと何にも知りませんよ。本当に」

「にゃはは……うっかりです」

そう言って少女は申し訳なさそうな顔をしながらポリポリと頬を掻く。

そして再び俺の手を握ると

「では!とりあえず上がってそこら辺の説明もしましょうか!」

そう言って勢いよく俺を引っ張った。

「い、いやここ俺の家なんだけど!!」

「はいはい、いいから早くしてください。お邪魔しまーす!」

そのまま俺を家の中まで引っ張っていく。割と力強いなこの子。

「おおー広い家です。これは問題なさそうですね」

「ん?狭いと何か問題あるのか?」

「そりゃー二人で同じ部屋は流石にキツいですよ」

「え?なにキツいってなんか失礼じゃない?」

初対面に対してなんだその言い草は。

ていうか……え?

「なんで部屋の話し始めたの?」

物置とかにする気なのか?人の家をなんだと思ってるんだこの子は。

「え?だってこれからお世話になるわけですし」

「……………は?」

「改めまして式野さん!私は天使の!いえ!正確には天使見習いの天木そらです!天の木って書いてあまきですよ!これからよろしくお願いします!」

「………はぁぁぁぁぁぁ!!!????」

春それは別れと出会いの季節。

そんな春に俺は天使を名乗る不思議な女の子と出会いました。

これからどうなるんだろ…………

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