【終章―エピローグ―】

ACT87 とある少女とのダイアローグ

 それから程無くして〝揺り篭〟は完全に崩壊したわ。

 役目を終えた偽りの空が二つの大陸へ降り注ぎ、大地を砕いていく光景。

 あの日、それを私は〝新世界〟へ向かう最後の聖典術飛翔船から眺めていた。

「話には聞いています。あの光景は凄まじかった。とても怖かった、と」

 見慣れた世界が崩壊していく様は、確かに恐ろしかった。

 けれど不思議と悲しみは無かったの。不安もね。

 これはひとつの節目。

 これはひとつの時代の終わり。

 これはひとつの時代の幕開け。

 私達は、未来を託された。

 そう、実感していたわ。

「聖女クローディア様のお導きのお陰ですね」

 そうね。でももうこの世界に聖女は居ないわ。

 かつて先人達は、導き手の無い未来を恐れた。

 そうして聖女という管理者を求め、産み出した。

 永久の停滞を代償として、永久の平穏を手に入れようとした。

 けれど、時間を止めることは叶わなかった。

 それは自然の摂理に逆らう禁忌だったのよ。

「だから〝揺り篭〟は壊れた」

 それでも、人々は生きなければならなかった。

 人々があの理想郷で暮らしていた時代の末期は、混乱していた。

 聖女の世を否定し、人の世を確立しようとした者達までもが現れた。

 聖女から世界を取り上げ、人間が人間を支配し、管理する世界の構築。

 だけど、それは表の意味に過ぎない。

 彼等が、いいえ〝彼〟が求めたのはそうではなかった。

 聖女を必要としない世界を作り上げること。

 人間が聖女の手を借りることなく、自らの足で立って世界を造り上げること。

 彼が本当に成し遂げたかった人の世とは、そういうことだった。

「聖女の存在を否定した者と肯定した者。求めた世界は結局同じであったと?」 

 あの頃の私達は、滅び行く世界の中で明日を求めていた。

 といっても、多くの人々はいつも通りに明日が訪れると信じていたのだけれど。

 そうして新たなる理想郷という明日を、私達は手に入れた。

「今、我々が踏みしめているこの大地、ですね」

 それは、とあるひとりの少女が夢見た世界。

 そして、とあるひとりの少女が叶えた世界。

 聖女としての役目を全うした、少女達が導いた世界。

 そう。世界を救った聖女はクローディアだけではないの。

「あの大偉業を成し遂げた聖女様が、他にも居たと?」

 ひとりは、世界を救う為に世界そのものとなった聖女。

 ひとりは、世界を救う為に世界を滅ぼしかけてしまった聖女。

 でもね。彼女達が、歴史に綴られる必要は無いわ。

 後の世に語り継がれるべきは、クローディア・クロリヴァーンただひとりのみ。

 未来に伝えるのは、それだけでいいの。

 何故ならこの物語は、クローディアの物語クローデイア・クロニクルなのだから。

「ところで、貴女は一体……」

「それはオトメのヒ~ミツっ♪」

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クローディア・クロニクル ~少女が願った世界の破壊と終焉の物語~ アイハラシン @KanauItaru

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