第17話

 流されるがままに矢来家にお泊まりすることが決まってしまった。

 矢来さんの部屋に布団が二枚敷かれている。こうやって敷布団で並んで寝るの、中学の修学旅行以来だ。

 

「ただいまー」


 コンビニへ買い出しに行っていた矢来さんが帰ってきた。


「おかえり……って、あなたその服のままで行ったの」

「ん? ホントだ!」


 矢来さんはマリ女の制服を着たままだ。胸のあたりとかだいぶ窮屈なのに、よくそれで外に出られるものだ。


「パジャマに着替えないとねー。海道さんもおいで、貸してあげる」


 矢来さんは制服を脱ぎ捨てながら私を手招く。

 のだけど、私は衝撃的なものを目にしてしまう。


「ちょっと矢来さん! あなたブラは!?」


 さっきまで外にいたというのに、矢来さんはまさかのノーブラ。制服の下に何も纏っていなかった。幸い、制服は下着が透けないように厚手だから周りから見てもわかりはしない。しないけどだ。


「え、ああ、してなかったね。忘れてた」

「忘れてたじゃないわよ。もっと焦って!」

「減るもんじゃないし」

「乙女としての尊厳が減ってるから!」

「お風呂上りだから仕方ないね」


 矢来さんはテヘヘと舌を出す。全裸でその顔はやめろ。


「クマさんとパンダどっちがいい?」


 着ぐるみパジャマを二組、矢来さんは手に持って私に向けて掲げる。

 なんでパンダは呼び捨てなんだろう。


「どっちでもいい……っていうか、そういうのしかないの?」

「ないよ!」


 この季節にそれは暑そうだな……。それに、着るのちょっと恥ずかしい。私は普段、Tシャツに半パンだから、こういう可愛いモコモコ系のパジャマには引け目がある。


「じゃあわたしがパンダ着るから、海道さんはクマさんね」

「ああ、うん、ありがとう」


 呼び捨てにするわりにパンダ選ぶんだ。

 背中側にあるチャックを下ろして脚から入れていく。

 腕を通したところで、


「チャック上げるね」


 矢来さんが近づいてくる。そうか、これ一人じゃ着られないんだ。脱ぐときも然り、矢来さんの手を借りないといけない。益々面倒だ。


「はい、ちゃんと頭も被ってね」

「う、うん……」


 言われるままに、ご丁寧に耳までついている頭の部分を被った。予想通り暑い。


「海道さん、わたしもお願いー」

「はいはい、失礼して……。って、あなたこれ下裸で着るの?」

「そうだよ? 暑いし」

「なら普通の格好しなさいよ……。髪、巻き込んじゃうから持ち上げて」

「はーい」


 矢来さんの白いうなじが姿を見せた。こんな厚手のパジャマだから、その背中は既に少し汗ばんでいる。

 華奢な肩だ。まあ、私の方が小柄だからそこは勝ってるけど。何の対抗心だ。


「……こうやって着ぐるみ二人が並ぶと壮観ね」


 鏡に映る、着ぐるみ姿の女子高生×2。まあ矢来さんが着る分には似合っているような気がする。私は……自己評価って難しいからノーコメントで。


「うへへ、海道さん可愛いね。写真撮っていい?」

「……人に見せないなら」

「見せる相手がいないから大丈夫だよ」

「なんかごめん」


 謝ってみたものの矢来さんは一ミリも気にした様子はなく、スマホを手に私の隣に立った。

 そのままズイっと顔を私に寄せてくる。ふわりとシャンプーの匂いがした。だけど、私も今矢来さんと同じ匂いがしているはずだ。そう思うと、なんだか不思議な気分になる。

 

「はい、チーズ」


 掛け声と共にスマホからシャッター音。

 それから矢来さんはスマホを操作し始める。

 通知音がしたので自分のスマホを開く。さっきの写真が矢来さんから送られてきていた。 

 こうして見ると仲良さげだ。これがパジャマパーティーか。誰ともしたことないから、今回が初めてになるけど。

 

『インスタ? にあげていいよ!』


 どうしてか、矢来さんはメッセージを送ってきた。目の前にいるのに。

 だけど、矢来さんとのツーショットをアップロードしようものなら、友人グループはひっくり返りそうだ。どっちかというと悪い意味で。


『遠慮しとく』

「なら、二人だけの秘密だね」


 今度は肉声で矢来さんから返事がきた。こっちもメッセージで返してやったというのに、ちぐはぐだ。


「そんな大層なもんじゃないけどね。お泊り会なんて、やろうと思えば何時でもできるんだし」

「またしてくれるの!?」


 あっ、やらかした。失言だ、これ。矢来さん、めっちゃ目キラキラさせてるし、今更撤回するのも心苦しい。何より私の発言が原因だし。


「ぜ、善処します」

「うん、楽しみにしてる!」


 私の官僚的答弁にも矢来さんは嬉しそうに頷く。社交辞令を言ったこっちが申し訳なくなる。


「その時は海道さんのお家がいいなー」

「うち、妹いるし……。それに矢来さんが寝るところないかな。私、ベッドだから」

「それなら一緒のベッドで寝られるね」

「絶対に嫌だ……」


 私の部屋にあるベッドは高校生が二人も並んで寝られる設計ではない。そりゃ、詰めれば無理ではないけど、滅茶苦茶に密着することは確定だ。

 というか、矢来さんはやはり私の家に来る気満々なのか。さっき妹の話した時も食いついていたし。まあ、好きな人の家には行きたい……もんか? 私なら相手の親とかに会いたくないから遠慮したいけど。


「私はやんわりと断ってるんだけど?」

「海道さん、押しに弱いって知ったからゴリ押しでいけるかなって」


 うるさいわ。

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