第96話 case96

翌日、太一は少し落ち込みながら賢者の塔に向かっていた。


『ノリちゃん、シレっと俺の事【貧乏くさい】って言ってたな… 確かに貧乏大学生だけど、あそこまでハッキリ言われると傷つくよなぁ…』


太一はため息をつきながら塔の前に立つと、目の前に見覚えのある男の子が立っていた。


2人は顔を見合わせ、不思議そうな顔をした後、太一は「あ、セイジ君にスカウトされてたヒーラーの子?」と、思い出したように切り出す。


葵はそれを聞き「くるみさんと同じギルドの方!」と思い出し、2人は少しだけ近づき、太一が切り出した。


「転職?」


「いえ、ヒーラー賢者に呼び出されたんです。 えっと… 太一さんでしたよね? どうかされたんですか?」


「転職しに来たんだ。 やっとタンクナイトになれるからさ」


「良かったですね!! おめでとうございます!!」


2人はそう言いながら塔の中に入ると、突然、亮介が吹き飛ばされたように、壁にめり込んでいた。


「ふざけんな!! 鼻の下伸ばしてたくせに!!」


聞こえてきたのはくるみの怒鳴り声。


「違うって!! 誤解だって!! あいつの方から抱き着いてきたんだろ!?」


「やかましいわ!!! このドスケベタコ野郎!!」


「だから俺のせいじゃねぇだろって!!」


くるみと亮介は木刀を片手に怒鳴り合い、塔の中を飛び回っている。


「じゃ、俺あっちだから」


太一は何事もなかったかのようにそう言うと、タンクナイト賢者の元へ行き、葵はオロオロしながら2人を見ていた。


『学校で一言も口きいてなかったと思ったら、こんなところで喧嘩って… ここって神聖な場所のはずだよね? 良いのかな?』


葵は引きつった笑顔を見せるシスターに事情を話すと、シスターは葵をヒーラー賢者の元へ案内していた。


ウォーリア賢者は満足げにくるみと亮介の2人を眺め、ナイト賢者は呆れたように「後始末は自分でしろよ」と言った後、奥へ行ってしまった。



ナイト賢者の言葉で、我に返ったウォーリア賢者が「やめい!!!」と怒鳴りつけると、2人はピタッと動きを止める。


「お前らペアダンジョン行ってやれ!!」


「くるみ行くぞ!! 今日こそケリつけてやる!」


「上等じゃねぇかよ!」


2人は木刀を担いだまま外に出ると、ウォーリア賢者はため息をついていた。



その頃太一は、タンクナイト賢者と話をしていた。


「よくここまで磨き上げたな。 セイジたちのおかげと言ったところかな?」


「はい! おかげさまで、魔獣の生態も間近で学ぶことが出来ています!」


「物好きな奴だ」


タンクナイト賢者はそう言うと、太一の頭に手を乗せ、呪文を唱え始める。


すると、太一の体は一回り大きくなり、頭に中に自己回復の魔法が浮かんでこびりついた。


「これからも精進しろよ」


タンクナイト賢者はそう言うと、太一に銀色をした太いアンクレットを差し出した。


太一はお礼を言った後、さっそくアンクレットを装備し、集会所へと向かっていた。



葵はヒーラー賢者の元に行くと、ヒーラー賢者は葵を手招きしてすぐ、近くに座った葵の頭に手を置く。


ヒーラー賢者は葵の頭に手を乗せ、フンっと力を籠めると、葵は体の中から魔力が湧いてくるような感じがしていた。


「おぬしはもっと自分に自信を持つと良い。 出過ぎた真似をすると、姫野くるみに怒られるだろうから、そこだけ注意しなされ」


葵は元気に「はい!」と返事をした後、少しヒーラー賢者と話をし、家路についていた。

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