第95話 case95
遠くから爆音が聞こえる中、太一は「始まったね」と言い、ノリは不機嫌そうに「ああ」と言うだけ。
相変わらずほのかは亮介に抱き着き、亮介は突き放すこともできないまま、くるみの向かった方を眺めていた。
ノリはしびれを切らせたようにほのかを睨み「あんた、いつまで引っ付いてんの?」と切り出す。
ほのかは「雷が… 怖いんです…」と言いながら、亮介を抱きしめる腕に力を込めた。
「へぇ。 マジシャンなのに怖いんだ?」
「私はヒーラーです…」
「補助魔法すら使えないのに? 普通、あの2人が行こうとしたら、補助魔法かけるよね? それをしない理由は何?」
「か… 雷が怖くて…」
「今は鳴ってないけど? 使えないの間違いなんじゃないの?」
「つ、使えます!」
「じゃあ使えよ。 ま、装備出した瞬間にわかるだろうけどね」
ノリはそう言いながら岩場からゆっくりと外に出ると、ほのかに向かって武器を構える。
「ちょ! 人間相手に何してんだよ!!」
亮介が怒鳴るように言ったが、ノリは武器を置こうとしなかった。
ほのかが亮介の腕に隠れようとした瞬間、ノリの膝が亮介の腕もろとも、ほのかの顔にめり込み、ほのかは力なくその場に倒れた。
「あんた、例のハニトラかけてくる女だろ? 大方、姫に貢がせようと思ったけど、女だから計算狂ったんじゃないの? セイジはあの調子だし、太一は見るからに貧乏そうだし。 幻獣装備が狙い?」
「ハニトラ? え? どういうこと?」
「ギルマス内で噂になってんのよ。 変な女がギルドを転々としてるってね。 アホな男はこいつに貢いで一文無しになるの。 奪い取る訳じゃなくて、あくまでも故意で貢ぐから、処罰の対象にはならない。 一文無しになった奴らは、新しい装備を作れなくなるでしょ? そうするとギルド内に格差が生じて、ギルドに居られなくなるのよ。 諸悪の根源がそいつ。 今までいくら稼いだ?」
「そ、そんなことする訳ないじゃないですか!!」
ほのかが叫ぶように言うと、グリフィンの頭を持ったくるみが歩み寄り、セイジは眼鏡を押さえながら、その後を追いかけていた。
「へぇ… ハニトラねぇ…」
くるみは小さく言いながらほのかに近づき、グリフィンの頭をほのかの顔に近付けた。
「これの相場はいくら?」
「そ …そんな野蛮な事、しないでください」
「野蛮? あんたのしてる事の方が野蛮なんじゃないの? 人の弱みに付け込んで、何もかもを奪い取るって、人として野蛮なことをしてるのはどっちだよ?」
くるみが睨みながら言うと、ほのかは掌をくるみに向けたが、ほのかの掌は見る見るうちに凍っていく。
「ふ… 触れてないのになんで?」
ほのかは体を震わせながら言い、くるみはため息をついていた。
「ヒーラーの実力。 ゲート開いてたから帰るわ」
くるみはグリフィンの頭を持ったままゲートの方に向かい、ほのか以外の5人はくるみの後を追いかけていた。
ゲートをくぐり、集会所に着くと同時に、ほのかが姿を現さないままゲートが閉じてしまい、5人は言葉を失っていた。
セイジはため息をつき「自分で蒔いた種だ。 気にするな」と言い切り、5人はギルドルームへ向かっていた。
ほのかは少し遅れてゲートに向かっていたが、ゲートはほのかが入る直前で消えてしまい、ほのかは立ちすくむことしか出来なかった。
「嘘… ど、どうしよ…」
ほのかはインベトリを探し、何かないか探し始めたが、そこには高価な装備や素材、大量の魔法石があるだけで、役に立ちそうなものは何もなかった。
ほのかは出口を探しながら彷徨い始めたが、出口は見つかることなく、激しい雷鳴が轟くばかり。
激しい落雷音が耳を劈くと同時に、ほのかは雷に向かって「うっさいわね!! 静かにしなさいよ!!!」と怒鳴りつけた。
が、雷の音は鳴りやむことなく、ほのかは呆然と立ちすくむことしか出来なかった。
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