第44話 case44
数週間後、くるみはやっとの思いで無属性の両刃アックスを完成させ、ホッと一息ついていた。
それと同時に、実戦訓練の際、いつもの癖でくるみから貰った装備を身にまとい、訓練用ダンジョンに入ろうとした亮介は、教師から「ウォーリアになれたのか!!」と大声で言われてしまい、生徒中から一目置かれるように。
実戦訓練の時には、亮介の周りに人だかりが出来てしまい、いろいろなチームに誘われるようになっていた。
『んだよ。 先に王子に目付けてたのはあたしだっつーの!』
くるみは人だかりのできた亮介を見ながら、少し不貞腐れていた。
それ以降、くるみは葵と二人でチームを組み、訓練ダンジョンに籠るようになっていた。
くるみは『マジックウォーリアの事、教師にばらしたら楽になるかもなぁ』と思ったけど、亮介の周りにいる人だかりと、【反省文】の文字を思い浮かべ、話すことを諦めていた。
ある日の事、くるみは葵と二人で訓練用ダンジョンに籠り、くるみが一人でボスを撃破していた。
葵は戦闘にも慣れたのか、震えることはなく、くるみに向かって「お疲れ様です!」と言い、回復魔法をかける。
くるみは小声で「さんきゅ」とだけ言い、振り返ると、突然目の前に木刀が勢いよく飛んできた。
くるみはそれを風で止め、ゆっくりとキャッチすると、亮介が嬉しそうな顔をしながら歩み寄り、「手合わせしようぜ」と切り出してきた。
「チームメンバーは?」
「置いてきた。 上で雑魚相手に戦ってんじゃね? それより、ガチの真剣勝負しようぜ」
くるみはクスっと笑い「10年早いわ」と言った後、木刀を担ぎ、足を大きく広げる。
亮介はニヤリと笑い「それはどうかな?」と言った後、両手で木刀を握り、剣道のような構えをした。
『大剣の構えか… おもしれぇじゃん!』
くるみはそう思いつつも、一歩踏み出した瞬間、亮介も踏み出し、二人は中央で木刀を合わせる。
『すごい… 瞬間移動だ…』
葵はいつ二人がいつ動いたのかもわからず、ただただ呆然とするばかり。
葵には二人の姿は見えず、頻繁に四方八方から聞こえる、木刀が合わさった音だけが、二人の場所をさしていた。
何度か木刀が合わさった音の後、くるみと亮介は中央で木刀を合わせ、足元には強風が起きた。
二人は木刀を合わせたまま、ぐっと体を近付け、力比べを始めた。
くるみが小声で「やるじゃん」というと、亮介が小声で「だろ?」と答える。
「なぁくるみ」
「ん?」
「このままチュウしていい?」
「は!?」
くるみの力が抜けた瞬間、亮介はくるみの頭にコンっと木刀を当て、バックステップで距離を取る。
くるみは頭を押さえながら「痛っ! 今の汚い!!」と抗議すると、亮介は木刀で肩を叩きながら「心理戦だよ心理戦! 俺の勝ちな?」と答えた。
「ずるい!! 今のはノーカンでしょ!?」
「いんや、カウントする。 あーでもしねぇと勝てねぇもん」
亮介はそう言うと、満足そうにくるみに近づき「1勝目」と言いながら笑った後、上のフロアに向かってしまった。
『汚いしずるい!! でも、マジかっこいいんだなぁこれが!!』
くるみはそう思いながら、少し満足げに装備を変え、上のフロアに向かって行った。
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