第41話 あっという間
「…………⁉」
は? は? は?
何を言い出すんだと思ったら、達也はとんでもないことを言ってきた。
衝撃的過ぎて、腰が抜けそうになったわ。
「ど、ど、ど、どういうことだよ達也……。俺に彼女なんて――」
「いや……。ただ聞いてみただけなんだけど」
――はぁ? なんだよそれ。意味わからないんだけど。
しかし、達也は俺の返答に、俺が何かを隠していると勘付いたのか。一気に追及の勢いが増してきた。
「え、何その反応! もしかして図星なの? え、誰なの誰なの? 何年何組何番? 何部?」
こ、こぉぉぉいぃぃぃつぅぅぅ!
――そうだ、忘れてた。
目の前にいる、宮下達也。こいつの恋愛勘だけは、少なくとも俺の知る限りで横に並ぶやつはいない。そのくらい鋭い。
……くそ、まんまとやられた。完全に達也の罠にはまってしまったってわけだ。
達也は水を得た魚のように、どんどんと前のめりになってきた。
「はいはいはい‼ いーおーりーくーん。なに黙ってるの! ここまできたらもう白状しかないよね! さぁ、一体君の彼女は誰なんだい?」
「だ、だから……何の話をして――」
俺はこの圧倒的不利な状況になっても、なんとか抵抗を試みるのだが……。
「まだごまかせると思ったら……それは大きな勘違いだぜ」
達也はまるで西部劇に出てきそうな、彫の深いダンディーみたいな雰囲気(イケボ)で俺との距離をさらに詰めてくる。
「お、おぉ……」
達也と俺の距離が徐々に徐々に……近づいていく。
「――ちょ、ちょっと待ったぁ!」
俺と達也の顔が遠目から見たら重なってるんじゃないかってくらいの距離にまで近づいたところで、俺はさすがに耐え切れなくなり、思わず達也の動きを制止する。
「なんだ、伊織。やっと言う気になったのか」
「わかった、わかった……ちゃんと言うから。……でも、ここでは勘弁してくんねぇかな」
「どうして?」
「どうしてってお前……」
頭の上にクエスチョンマークをいくつも浮かべている達也を見て、俺は重要なことを思い出す。
達也は恋愛の勘の鋭さはピカイチだけど、デリカシーに関しては俺以下。つまりほとんど無いに等しい。
「こんな人の集まるところで言ったとして、それが誰かの耳に入ったらどう責任取ってくれるんだよ。お前と違って俺はあまり言いふらされたくないんだよ」
今までボッチで陰キャの俺に彼女ができたなんて、そんなことが周りに知られたらどうなるだろう。きっと「体育祭マジックを狙った」っていろんな人に噂されてしまうだろう。
しかも、その彼女が近藤さんということになれば、その噂の広がりはなおのこと。
もしかすると、近藤さんってこんな人を選ぶんだって、陰で悪く言われてしまうかもしれない。
それに、近藤さんもまだあまり他の人には広められたいとは思っていない。
だから、ここで誰かに聞かれてしまうのは何としても避けなければならない。
「……あぁ、なるほどね。……それは悪かったよ。俺は周りからちやほやされるのが逆に快感というか、何というか……」
うわ、こいつ今とんでもないこと口走りやがった。
周りに人がほとんどいなくてよかったね。そうじゃなかったら、こいつがヤバいっていうことが知られるだけじゃなくて、俺にまで風評被害が及びかねない。
いや、俺はもともと周りに評価すらされてないから、風評被害もくそもないな。なんなら、デフォルトの評価値がマイナスになるだけだろう。
――結論、どっちにしろ良くない。
「――と、とにかく。放課後にでも話すからさ……。今のところは勘弁してくれよ……な?」
俺の必死の懇願に、達也は「はぁ」とため息を一つ漏らすと、
「わかったよ。伊織がそこまで言うなら……。じゃあまた後で。じゃあもう少し楽しめるようにしておこうかなっと……」
そう言ってスタスタと歩き始めてしまった。
「……ん? 達也、今何て――」
最後の言葉に何か恐ろしいことが聞こえたような気がしたが、それを追及する前に既に達也は教室を後にしていた。
一体あれは何だったんだ……?
何とも釈然としない感じが残っていたが、ようやくこれで一息つける。
「ふぅ……。朝から散々だったわ……」
まさか達也が俺のところに来るなんて想定外すぎだよ。あいつのいる時間は嵐のようだったが、今ではさっきまでの平穏が戻りつつある。
ホームルームまであと十分弱。それまでは少し寝ていよう。
俺はまたさっきのように机に突っ伏して始業のチャイムを待ち始めた。
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