入道雲とハナとユメ (恋愛)

 入道雲を探しに行こう。

 小学校最後の夏休みももう終盤だというのに、幼馴染みの男の子、ユメがそんな事を言ってきた。


 そういえば今年は雨が降ったり、かと思えば雲ひとつ無い青空が広かったりで、あんまり入道雲は見なかったなあ。

 けどさあ。アタシ今、山のように残っている宿題に、頭悩ませてるんですけど。

 え、ユメはもう、全部終わってるって? この裏切り者ー!

 けどまあ、入道雲探しくらい、付き合ってあげるよ。そのかわり、後で宿題見せてね。


 というわけで私達は、入道雲がありそうな場所を探して(どんな場所だ?)歩き回った。だけどこの日も雲はほとんど無くて、結局見つからず終い。夕焼けが照らす町の中を、二人してとぼとぼ帰って行く。

 アタシはユメとデート……じゃない、一緒にお出かけできて楽しかったけど、ユメは当然、満足してないよね。


「ごめんねハナ、無駄足になっちゃって」

「別に良いよ。それよりどうする。明日もまた探してみる?」


 やっぱり見たいよね、入道雲。だけどユメは足を止めて、ちょっと申し訳なさそうに言ってきた。


「あー、止めておく。だってもう、満足できたから」

「へ? 入道雲、見つけられなかったのに?」

「その事なんだけどね。本当は、ハナと一緒に出掛けたかったんだ。だって今年は色々あって、あんまり遊べなかったから。入道雲を見たかったのは本当だけど、一番やりたかった事は、もうできたんだ」


 ん?

 ええと、つまりユメはアタシと遊びたいから、入道雲を探すなんて言ってさそったってこと?


「それなら素直に、遊ぼうって言えば良かったじゃない」

「けど、ハナってば宿題全然終わってなかったし。目的でもないと、断られると思って」


 それで、入道雲を探しに行こうなんて言ったの? 何よそれ。


「バカじゃないの。普通に頼めば、付き合ってあげたのに」

「うん、本当にごめん」

「ダーメ、許さない。もう、せっかくやる気になってたのに、どうしてくれるの。こうなったら入道雲見をつけるまで、明日も明後日も探してやるんだから!」

「えーと。ハナ、宿題は?」


 そんなもん後々。今はそれよりも、残りの夏休みをいかに楽しむかの方が大事じゃないの。

 ……アタシだって、ユメとたくさん遊びたいんだもん。


「ユメ、アンタが言い出しっぺなんだから、責任もって最後まで付き合ってよね!」

「わかった。ふふ、ありがとう、ハナ」


 柔らかな笑顔を浮かべるユメ。

 入道雲を見つけるまで、アタシ達の夏は終わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る