第70話 中−36 農国王都スタリッツァ 到着。
スタリッツァ行きの馬車は毎日出ていた。さすが首都。
道はプスコ(前の街)ほど広くはないが、石畳になっている。首都から主要都市やそこそこの町へは石畳が整備されているとのことだ。降雪大国ならではだろう。
途中でそこそこの町に一泊しただけで、翌日昼過ぎにはスタリッツァに到着した。
スタリッツァはオーウトから来ると、山から下って来る時にその全容が遠くから見渡せる。
街なかに入ってから停車場まで向こう時間で1時間くらいかかったろうか、それだけでかい街だ。武国の王都並かそれ以上かもしれない。
冬の降雪時、スタリッツァはやろうと思えば街なかの大通りは除雪できるだろうけど、冬はソリが主要な運搬道具になるので、わざと除雪しないで固めるそうだ。
その風景もみてみたいなと思った。
スタリッツァ王城はさほど大きくはない。
「効率を重視しているんだよ、夏はすすしい土地だから良いが、冬は暖房がなー」と御者が言っていた。
その言葉を思い出しながら、街なかの馬車に乗って街を眺めているとそのとおりで、家々の屋根は気持ち高さが低い。階層があるものも、やはり低めだ。
プスコやオーウトでは気が付かなかった。
そういう目で見ると、着いた宿の壁も厚めだと気がついた。
「冬は外にもう一つ扉を付けるんだ。中の温かい空気が外に逃げにくいようにね」
とは宿の主人。
「転移魔法使えて、雪を全部南国に送れたら万々歳なんでしょうけどね」と俺
「あっはっはっは!!雪にシロップかけて売れば大儲けできるなー!はっはっは!!」宿の主人
ここも御者のおすすめの宿。街の中央近く。市場やメインの大通りに近く、その裏通りが庶民に身近な通りだそうだ。
ここにも銭湯があるというので行った。
メインはサウナらしいが、浴槽もあった。
オーウトよりかなり低地なので、夕方でも肌寒いほどではなく、湯上がりにちょうどよい気温だった。
晩飯時にスタリッツァでやることを泉さんと話し合った。ちなみに宿の飯はやはりうまかった。亭主はムーサリムではないとのことなので、一般的な農国料理だったが、うまかった。トマト系のシチューに、なんか粉もので肉や野菜を包んだものが入っていた。それとご飯。
俺達の公務としては、
・東武領領主様への報告書を書く。ついでに手紙があれば手紙も。
・武国の農国駐在武官邸に行く。報告書と手紙を依頼し、その他状況を聞いたりの話し合い。
・福田さんに依頼した、情報収集のための商会ができていれば、そこにも訪問。
私事としては、
・スパイスなどを仕入れ、レシピをまとめ、作り方をわかりやすく書き、すべて一緒に小館村の村長宅女性陣に送る。王都の東武領邸経由になるだろう。
・泉さんは、いろいろな食い物を調べたい(食べ歩きたい)とのこと。ケーキのみならず、ということだ。パスタやカレーなどで目覚めたのだろう!!w
今日はここスタリッツァに到着してこの宿まで街なかの馬車に乗り、宿の近くの銭湯にいっただけだが、その感じでは、首都なのにわりかし穏やかな雰囲気を感じた。
東京や大阪のような雰囲気はなく、地方の小都市程度ののんびりさかな?と思えるくらいな安心感・安全感。
部屋でウオッカっぽいスピリッツを2人でちびちびやったら程なく眠気が来たので、2人とも早めに寝た。
翌朝
「明けがたにアザーンが響いていましたねー、モスクが近くに在るんでしょうかね」
と泉さんに言うと、
「あ?そうだったか?ぐっすりだったのかな?気づかなかった」
まぁ、気にしないと気づかないかもなー、アザーンは唄みたいな節回しだからなー
人種も宗教も結構雑多な街だと聞いたので、なかなかおもしろいかも知れない。
朝食は、塩系の野菜とベーコンのスープと硬パン。重いだけあって腹に溜まりそう。他の客がやっているように、スープに硬パンをつけながら食べた。
他の客は素早く食べ、そそくさと外に出ていった。大半が仕事で来ているだろう。
こっちは、あっちの俺の世界のような旅行などはあまり一般的ではないとは、武国にいたときから知ってはいたが。
初日なので、食事が終わったらそのまま街に出てみた。まずは街を知ることがだいじなのだ。
泉さんは勿論喫茶店を探している。
もう店屋も商会なども開いている。
一応裏通りだというが、オーウトの表通りくらいの大きさで、人通りもそのくらいあった。
なので
「泉さん、こりゃ、もう一つ裏に入ったほうが面白そうですよ、」
と誘い、裏通りと裏通りの間の路地を歩く。それでもやっとオーウトの裏通りくらいだ。
「こりゃ、あれだな、冬は雪がたまるので道が狭くなる。だからわざと大きめにしてるんだろうな。二頭引きのソリくらい通すんだろ」泉さん
なるほどねー。
「寒いだろうけど、一度冬にも来てみたいですねー」
「ああ、俺は寒いの平気だけどな」
すんませんね、俺が弱くて。小館でも雪がふったひにゃー、寒くてしかたがなかったからなー。
小館は通常雪は降らない。風も吹かないし、晴天のときが多いので、過ごしやすいのだ、だいたいは。
「お、、」泉さんが脇の小さめな路地に入り、その路地の入り口二軒目の小さな家の門をくぐる。
「泉さん勝手に、、」と言いかけた時、玄関ドアにかかった「開店」の札が目に入った。
かちゃ、チリンチリン、、
泉さんの望みどおり、喫茶店であった。
表からだと何屋だかほぼわからない。つか民家にしか見えなかった。
「窓辺にな、ほれ、あの客。さっき茶を飲んでいたんだ。だからな、」
めざといなぁ、、喫茶店に関しては、、、
スタリッツァショコラケーキ、シナモンミルクティー、
オーウトマサラクッキー、青りんご茶。
メニューを見ると、各地の特徴を捕らえたものに地名を冠しているようだ。ここに居るだけで各地の味を少しだけ味見できる、というわけだ。
外国のもあった。カクラマカンバタパン、バター茶のセットや、番茶と武国きんつばのセット、とか。
訊くと、オーナーは各地を旅してきたそうな。で、最後に奥さんとここで出会い、ここに落ち着いたという。
俺らが居る短い間だけでも、何人かの知らない言葉を話す者たちがやってきた。オーナーと親しそうに挨拶したあと、席に着く。外国からの常連だろうか。
遠い異国で、自分の国の言葉を話す茶店があったら、毎回顔出すよなそりゃ。
「こりゃ、毎日ここに通い、一日中いれば、一ヶ月もすりゃ、結構な言葉が話せるように成るんじゃないか?」
とか勝手なこと言う泉さん。そこまで多くの会話はしていない様子だった。
でかい農国の王都だけあって、様々な外国から多くの者たちが来ているんだな、ということが実感できるおもしろい喫茶店だ。
国はともかく、民間は武国よりも開放されているんだなぁ。
「宿の朝飯をキャンセルして、毎朝ここで食べますか?」俺
「おお、いい案だな!決定な!!」という泉さんは、各地の料理を食べ尽す予定だろうか。
その喫茶店を出た後、その通りをブラブラした。
幅は4−5mくらいの小さな路地。冬には二等引きではソリがすれ違のが厳しいかな?くらいになるだろう。雪かきした雪を端に貯めるので、道は狭くなるはずだから。
両脇の家々は大体商屋だ。
小物、衣類、食料品、薬、食堂、箱など梱包材を表に積み上げている店、雑貨屋、飲み物屋、町医者、針医!、床屋、工具屋、、、武具屋は見当たらない。どこか別のラスタフのように鍛冶屋通りとかあるのだろうか。
小さい教会があった。小さい入り口の扉上に、これも控えめな色合いのステンドグラスが嵌め込んである。
目立たず、派手さも偉さも何も纏わず、存在しているだけ。
モスクみいたいに人々の寄り集まる場所にはなっていない様にも見える。
でも、宗教だ!とかを全く主張しておらず、その存在しているだけ、というのがとても自然に見えた。存在して良いものに見えた。
「少し見ていきましょう」俺
泉さんは黙って付いてきた。
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