第57話 中−23 初めての外国入国


次がやっと国境超えだ。北の農国。東西に広い国。毎年雪の積もる国。



武国最後の村で夜を迎える。

ここにあるのはラスタフまでの宿などより小さい。

「通る人がさほど多くない」からだという。

武国王都と農国王都を結ぶ主要街道はもっと東にあり、山道も少ないそうだ。

「ここは裏街道ですからねぇ、、」とは宿の主人。


とは行っても駅馬車が定期的に出ているので、そこそこの人通りはある。荷馬車とも何度もすれ違ったし、歩きの旅人もよく見た。

「その人通りも雪が降る前までですね。降ったら、この宿も春まで閉めます。」と。

武国の国境検問所は小さい。

ほとんどの旅人は素通りだ。荷馬車だけ荷物を改める。奴隷や禁制品の確認のため。

「まず、武国に奴隷を持ち込むバカはいません。即死刑ですから。ですが、たまに得体のしれないものをそれと知らずに持ち込む者もおるようで。」



食事はそこそこうまかった。やはり山鳥や山菜だった。ここでも、味噌醤油が料理に使われている。

もしかしたら、この味はここで最後かもしれない、と泉さん。農国のことを自分でいろいろ聞き回ったのかな?

部屋は大部屋のみで、板の間に端に積んである布団を自分で好きなところに敷くのだ。

まだ寒い時期ではないので、泉さんを端にし、隣に自分の布団を敷いた。


窓から外を見ると、遠くに外界が見えた。宿の周囲はあの峠ほど坊主ではないが、ここの木々は背が低い。やはり風が強いようだ。

雪が降り風が強ければ、枝先などかなりやられる。伸びる機会は少ない。


明日になれば初めての外国だ。不安で、ワクワクした、なんとも言えない気持ち。

あの峠と同じように越えるだけなのに。


「そういえば、身なりが違う人って、全然見ていませんよね?農国っておなじなんですかね?」

「どうだろう?国境付近が同じだけだとか?

それはそうと、進路だが、あの北の国に寄るか?あの人狼部隊の。したら、農国南側を通る。

寄らないならば、より北の氷の海の方をまわってもよいが、、」

うっわ、寒そう、、んじゃ南よりのほうがいいよなー


「できれば南回りで、、、」

「あっはっは!相変わらず若いのに寒のは嫌か!」

泉さんに若いのにとか言われたくないですねー、幼女に。

幼女幼女と言っているが、あれから数年経っているので、結構ガタイもしっかりし始め、筋肉もつき始めている。

サービスして見て、もう小学校6年か中1の一番小さい子くらいか?なので戦闘時の動きも格段に上がっている。


おそくなると、風も強くなり、ヒューヒューガタガタいい始めた。

旅先ではその程度では睡眠の妨げにならない。




翌朝、ここでもやはり朝になると風はおさまっている。晴れの良い天気だ。

農国は雨が比較的多いと言われている。水涸れによる飢饉にあったこはないらしい。

ただ、冬の雪が深く、それによる被害が毎年。

それを聞いた時、学は

「うちの床下暖房、どうにか持ってこれないっすかね?」

「ああ、ありゃこっちにいいだろうな、、もしああいうのが農国になかったら、そうだな、、将軍に言って、農国で作れるようにしてやるとか、、将軍には良い取引材料じゃないか?」


「狼の獣人も多そうですよね」

「うん。それより猛獣のクマが、うちらんとこよりでかく、怒ったら凶暴らしいぞ?」

・・・うえー

「それとは別にクマ人もいるとかいないとか、、」

「怖そうっすね、、でも子供のクマ人ならかわいいかも、、、」

「親が居るからな?珍獣見る目はやめろよ?」

「・・・だいじょぶっす!トリミングするだけだからっ!!!」

「まぁ、おまえの特殊技術だからなぁ、、」

などとそれなりにうまい朝飯を食いながら。



武国出国は全く何もない。

少々行くと、農国最初の村があった。そこに農国の国境検問所がある。

馬車なので寄らねばならない。

僅かな検査の後、開放される。

まだ早いので、ここには泊まらず先に行く。


馬車はかなり山を降りた。

夕方になり、街が見え始めた。結構でかそうだ。夕闇にかなりの光が映えている。

それからほどなく街に入った。

街にはでかい塀が無い。魔獣が出ないということか。戦争もほぼ無いし。

特に農国と武国の戦争の話は聞いたことがない。


まちなかに入ると、看板の文字が違う。俺には読めない。

「泉さん、あの文字読めますか?」

「お、て、る、、、宿だな?」

「すげー、、いつの間に?」

「領主様んとこに本があったので、少しだけな、、ほんの少しだ。

北の国とは言葉も通じるのだが、農国になると結構違う。通じることもアレば、全く違うこともある。

便所はこっちでは厠をまだ使っている。便所じゃ通じない。ってな感じだな。」

ふーん、、、

「あ、紙とペンはあるんですかね?できれば万年筆とかー、、」

「ああ、あれは便利だなぁ、、和紙には使いづらかったが、、」


馬車は街なかの停車場に着いた。

御者に礼を言って去ろうとしたとき、

「あんちゃんたち、ちょっとちょっと、、」

御者のとこに引き返す。

「俺らのひいきの宿おしえてやるよ、ラスタフの活躍の褒美だ。・・」


教えてもらった宿に向かう。当然だが、停車場に近い。御者達の定宿だからな。


「こんちは!」

「いらっしゃい!」

「おお!武国語が通じる!!」

「ああ、俺は元武国人だからね!」

「そうなんすか!よかったー!」

「こっちで嫁さん貰ってさ、こっちの者になっちまったわ、あっはっはっはっは!」

主人はいろいろ勝手に話してくれた。こっちは美人が多い!こっちの女は働き者!武国の女も働き者だが、こっちは男勝りばかりだ!!「だから男の立場が低くてなぁ、」などと笑っていた。


それでも幸せなら、いい土地なんだな、この宿の主人にとっては。


晩飯は、シチュー!!

「すっげー!!シチューだ!!」

「こっちではシチ、もしくはシチー、だな。武国じゃ見ないだろう?」と宿の主人

「はい!なんかすっごく久しぶり!!」

「なんだ食ったことあるのか?」

「これ、牛肉のシチですよね?似たようなのをよく食べていました」

「ほう、珍しいとこにいたんだなぁ」

さすが宿の主人、客を詮索しないで話を終わらせる。


風呂屋があり、2人で入りに行った。戻ってきたら御者の皆が飯食っていた。

泉さんはまじって酒を飲みはしめた。

懲りないんだなぁ、、

俺はもう一月くらいは酒はいいやー、とベッドに向かう。

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