094 名演技
彼氏と連絡の取れない京子は友達の希恵の家へ相談に行く。希恵は料理の最中。ソファーに座っている京子はそれを横目に見ながら話しかける。
「昨日から彼氏と連絡が取れないの……」
京子がため息をつく。希恵はシチューの味見をした後、笑顔で京子に話しかける。
「大丈夫だって。すぐに戻ってくるから」
浮かない返事をする京子。
「……うん」
スマホを取り出した京子が既読の付かないメッセージを眺めていると希恵が取り分けたシチューを運んできた。
「ほらっ、シチュー作ったから食べて元気だしな。あたしのシチューめちゃくちゃおいしいんだから!」
シチューから漂ういい香りに京子が笑顔を返す。
「ありがとうね」
京子はシチューをいただく。それを数秒見つめた希恵が身を乗り出して話しかける。
「どう? おいしい?」
おいしいシチューと希恵の心遣いに安堵した表情を見せる京子。
「うん。おいしいよ。ありがとう」
希恵に笑顔を見せシチューを再度いただく。希恵は満面の笑みを見せる。
「でしょ? やっぱり好きな人の肉はおいしいものよね」
シチューの肉が彼氏の肉だった事を知らされる京子。京子が希恵の顔を見る。希恵の笑顔は変わらない。次第に恐怖の顔になっていく京子。
「カーーット!」
監督のカットが入り撮影が中断する。
「きみぃ! 台本は本当に読んだのか!? あんな演技じゃ困るよ。何年女優をやってるんだ」
どうも私の演技が気に入らないようだ。一応謝っておく。
「……すいません」
「最後のシーン! 京子は自分の彼氏の肉を食ったんだぞ。いいか、自分の彼氏のだぞ? それを笑顔の希恵から聞かされる。希恵は狂ってるんだ。京子は肉を食った絶望と希恵への恐怖を滲ませていかなきゃいけないんだ。きみの演技にはリアリティがないんだよ」
こんなB級ホラー映画に何熱くなってんだ。こんなんで恐怖なんか感じるわけないでしょ。
「それに食べ方! 京子はねぇ、希恵が作ってくれたシチューに感激するんだよ。それに加え作ってくれたシチューが美味しくて京子の顔が綻ぶんだ。きみの食べ方は全然おいしそうに見えないんだよ!」
「分かりました」
ほんとこんな仕事受けなきゃ良かったわ。リアリティを求めたのは監督でしょうが。
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