088 死体遺棄、及び殺人容疑

 郵便局の配達員が捕まったのは一人暮らしのばあさんが死んで一週間経った時だった。


 三日前、配達員はいつものようにばあさんのところへハガキを届けようとしたんだが、その四日前に投函された手紙がまだ郵便受けにあるのを見て不審に思ったらしい。


 チャイムを鳴らしても誰も出てこないので恐る恐る玄関のドアに手をかけたそうだ。鍵がかかっておらず、ドアはカタカタカタと音を立てながら開いていく。


 ドアの隙間から中を覗き『こんにちはー』と声を上げたが返事はない。土間に目を落とせば履き古された靴が一足あった。何度かお茶を頂いたことがあるので居間の場所は知っている――居間まで上がった配達員は血を流して死んでいるばあさんを見つけてしまった。


 そのまま警察に通報すれば配達員が疑われる事はなかった。だが配達員は、ばあさんが死んでることをいい事に家の中を物色し始めた。ばあさんの家は地元でも有名な資産家で数年前にじいさんが死んでからは特に金を貯めこんでいたらしい。要は欲に目がくらんだのだ。


 そこから二日間、配達員はばあさんの家で金目になるものを探しに探しまくった。金自体は見つけることが出来なかったようだが、高そうな掛け軸や陶器の類をばれなさそうな程度家に持ち帰った。頃合いを見て金に換えるつもりだったらしい。


 そして今日、警察に通報した。『今荷物を配達に伺ったらおばあさんが死んでいた』って。さも自分は関係ありませんよ、ってな具合に電話をしたんだと。物色中は必ず手袋をはめていたし、落ちていた髪なんかも入念に拾ったんでばれる心配はないと思っていたようだ。玄関の指紋も後でふき取ったらしい。


 でも配達員はその日のうちに死体遺棄の容疑で捕まった。馬鹿な配達員は三日前の手紙を郵便受けに入れず、居間のテーブルに置いたままにしていたらしい。詳しい死亡日時は特定されていないが、腐敗の進み具合から四日は経っているそうだ。つまり三日前にばあさんは手紙を受け取ることが出来なかったはずなのだ。手紙からばあさんの指紋が検出されなかったも逮捕の決め手となった。



 これは刑事をやってるうちの兄貴から聞いた話だ。ここ十日程、ばあさんの家に立ち寄った人間は配達員しかいないようだったので近々殺人容疑に切り替えて捜査を進める方向らしい。ほんと馬鹿だよなぁ。

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