乞い

教授 「古来から雨が降らない時に雨乞いをするという文化は世界中にある」


吉川 「ありますね」


教授 「統計的な結論から言えば、雨乞いをした後に雨が降る確率は100%だ」


吉川 「本当ですか?」


教授 「何年かかろうと結果的に雨は降ってる」


吉川 「それ成功にカウントしてるんですか? 雨乞いをした世代が死んじゃってから成功って言われても本人たちも困りません?」


教授 「これぞ人類のパワー」


吉川 「はぁ、人類のパワーなんだ」


教授 「気象観測技術などにより雨乞いはほぼされなくなってるが、人類のパワーはどこかで活かすべきだとは思わないか?」


吉川 「あんまり思いませんけど」


教授 「今やってるソシャゲでどうしても欲しいSSRがあるんだが、どうだ?」


吉川 「なにを言ってるのか全く意味がわかりません」


教授 「おいおい。感度最低だな。つまりSSR乞いの儀式をやった方がいいんじゃないかと言ってるんだよ」


吉川 「同意しかねます」


教授 「なんで? SSRすごい強いんだよ? どのデッキにも組み込めるし、ここでもらっておかなきゃ今後のイベントは厳しいよ?」


吉川 「いや、知らないですよ。やってないですもん。そのソシャゲ」


教授 「しかも今キャンペーン中で排出率が10倍だから」


吉川 「あの、学問の場に個人の趣味のソシャゲを持ち込むのやめてくれません?」


教授 「これ最後だから。お願い」


吉川 「前に熱湯風呂やらされた時も最後って言いましたよね?」


教授 「あれは成人の儀式だから。そういう文化的な背景がある学問だから」


吉川 「動画バズって喜んでたじゃないですか」


教授 「あれだけ面白いんだから見てもらわないともったいないし。おかげで吉川くんも成人になれたわけだし」


吉川 「あれやらなくても成人でしたよ」


教授 「それでSSR乞いの儀式なんだけど。世界中の雨乞いの方式を検討して最終的に熱湯風呂ということになりました」


吉川 「なんで!? そんなわけないでしょ! 雨乞いするってことは水が足りないわけでしょ? 熱湯風呂ができるんだったら、その水分を活かせよ!」


教授 「いや、今回はSSR乞いだから。雨は関係ないから」


吉川 「関係ないならやらないよ! そもそも雨乞いの文化的な背景とか言い出したのそっちでしょうが」


教授 「そんなこというなら、SSRの排出率絞ってるのは運営なんだから、文句は運営に言ってよね!」


吉川 「それこそ知らないよ。なんだよ、運営って。教授が個人的にやってるだけでしょ。これはアカハラですよ」


教授 「違います。アカハラではありません。前に誓約書にアカハラではないと一筆書いてもらいましたから」


吉川 「なんだよ、その変な知恵の付け方。アレそうだったのか。おかしいと思ったんだ、急に寿司を奢ってくれて」


教授 「吉川くんが熱湯風呂に入れば、その苦痛が上昇気流に乗って天に上り、神に声が届いて、その神が運営の株主たちに働きかけて、株主たちが株主総会で絞りすぎないようにと声を上げることによってレア率が上がるという、風が吹けば桶屋が儲かる方式を採用しました」


吉川 「直接株主に言えよ! 神が出てくる意味がほぼないだろ。むしろ自分で株を買えよ」


教授 「うち無課金勢なので」


吉川 「熱湯風呂やらせるより課金する方が楽でしょ。俺に奢った寿司の分を課金すればよかったのに」


教授 「それだと吉川くんの滑稽な動画が撮れないし」


吉川 「やっぱりそれが目的かよ。なんなんだよ。やるよ。やりますよ」


教授 「よっ! 待ってました」


吉川 「ただ本気の熱湯じゃなくて、チョイ熱にしてくれない? ちゃんとリアクションするから」


教授 「いやぁ~。それだと雨乞いの文化的な研究にはならないから」


吉川 「その要素ないだろ! そもそもがないんだよ。雨乞いに熱湯風呂は」


教授 「それではSSR乞いの儀式。お願いします!」


吉川 「アツッ! アッ! あっつ! これ本当のやつ! ダメ、無理!」


教授 「では10連引きます! おっとSSRがでました。……あ、これダブってるやつじゃん。なんだよぉ~」


吉川 「こっちがなんだよ、だよ!」


教授 「使えないやつだなぁ。リアクションも前よりこなれちゃってるし。はい、終わり。雨乞いの儀式なんてこんなもんだよ」


吉川 「ひどい言い草。こんなに肌真っ赤になってる人を前に言う言葉?」


教授 「ちゃんと片付けしておいてね。雨乞いなんてやっぱり意味ないわ」


吉川 「いや? これからきっと血の雨が降るぞ」



暗転

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