曖昧

吉川 「事実として凶悪な犯罪が起きています。貧困問題と同時に語られることは少ないですが、やはり余裕がなくなれば追い詰められる人も多くなるわけです」


藤村 「おっしゃることはわかります。ただ断言されてしまいますと、またクレームのほうが来てしまいますのでもう少しマイルドな表現でお願いできないでしょうか?」


吉川 「そうですか。わかりました。犯人が持っていたバールですが」


藤村 「すみません! そこはバールのようなものでお願いします」


吉川 「バールのようなもの。バールではなかったんですか?」


藤村 「恐らく十中八九バールだと思われるんですが、完全にバールであるという証明ができないので、すみませんがお願いします」


吉川 「バールのようなもので殴ったわけです」


藤村 「すみません、そこは殴りかかったという風にお願いできますか?」


吉川 「殴ったわけじゃないの?」


藤村 「ほぼ殴ってるんですが、完全に殴ったという証明ができないので」


吉川 「一緒じゃないの? 殴ったと殴りかかった。違う?」


藤村 「かかったのほうがまだ当たってない感があるので。視聴者に配慮して、お願いします」


吉川 「バールのようなもので殴りかかり、しかも恫喝をしてるんです」


藤村 「すみません、そこは恫喝っぽいことでお願いします」


吉川 「っぽい? 恫喝じゃないの?」


藤村 「恫喝かどうかはやはりこちらが決められることではないですし、なにより視聴者に恐怖感を与える印象になってしまうので。マイルドにお願いします」


吉川 「恫喝っぽいって言葉、今まで一度も使ったことないよ」


藤村 「お願いします」


吉川 「バールのようなもので殴りかかり、恫喝っぽいことを言ったんです」


藤村 「らしいです」


吉川 「はい?」


藤村 「言ったらしいです、でお願いします」


吉川 「言ったんでしょ?」


藤村 「証明できないので」


吉川 「それはでも言ったんじゃないの?」


藤村 「お願いします」


吉川 「わかりました。バールのようなもので殴りかかり、恫喝っぽいことを言ったらしいです。彼は貧困でした」


藤村 「貧困感にしましょうか。貧困感がでてました」


吉川 「ヒンコンカン? なんかちょっと音がふざけてませんか?」


藤村 「貧困カンコンにしましょうか」


吉川 「いや、貧困感でいいです。まだマシです」


藤村 「お願いします」


吉川 「彼は貧困感がでてました。これも政治が悪いんですよ」


藤村 「政治みたいなのが悪いイメージがあるんです」


吉川 「いや、政治がですよ」


藤村 「すみません、マイルドにしないと」


吉川 「でもここはズバッと意見を言うところでしょ!」


藤村 「ヌプっと意見を言いたいなぁでお願いします」


吉川 「今のはコメントじゃないよ! なんだよ、ヌプっとって。そんな擬音はエロマンガでしか見たことないよ!」


藤村 「どうしても最近の視聴者は言葉に過敏に反応してしまうので、少しでも濁す感じでお願いします」


吉川 「政治みたいのが悪いイメージがあるんです、で伝わるかね」


藤村 「大丈夫です。ちゃんと見てる人には伝わりますから」


吉川 「ちゃんと見てない人に配慮しすぎじゃないか?」


藤村 「そういうものなんで、お願いします」


吉川 「とにかく、政治みたいのが悪いイメージがあるので、変える方向に善処しなければ遺憾に思うことも辞さないという思いです」


藤村 「ありがとうございます。完璧です!」


吉川 「完璧か? これが?」


藤村 「はい。ありがとうございました。世相とかを斬ったりする吉川さんなどでした」



暗転

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