怖い話
藤村 「ちょっと怖い話していい?」
吉川 「えー。怖い話? 嫌だなぁ」
藤村 「そっか。あ、これ知ってる? インスタの」
吉川 「え? 怖い話は?」
藤村 「嫌なんでしょ?」
吉川 「まぁ、嫌は嫌だよ」
藤村 「お前が嫌がることをする俺だと思ってか? で、インスタのさ」
吉川 「そうあっさり引き下がられてもなんか気持ち悪いんだよな。だって唐突に怖い話をしたがったわけじゃない? どうしてもしたいんじゃないの?」
藤村 「いや、別に」
吉川 「そんなに怖くないとか?」
藤村 「怖いよ。俺一人で抱えるのが苦しすぎるからシェアしようと思ったくらい」
吉川 「そんな怖い話を! 嫌だなぁ」
藤村 「だからしないって」
吉川 「しないの? しないですむの? お前の苦しみはどうするんだよ」
藤村 「俺は一人で耐えるよ。怖いけど」
吉川 「それもなんか悪い気がする」
藤村 「いいってことよ。で、インスタでさ」
吉川 「しといたほうがいいんじゃない?」
藤村 「だってお前、怖い話ダメなんだろ?」
吉川 「できれば聞きたくはないよ。ただ状況にもよるじゃん。お前が俺を気遣ってくれるように、俺もお前に対してできることをしてやりたいんだよ」
藤村 「ホント? シュークリーム買ってきてくれない?」
吉川 「違くない? 急にシュークリームが飛び出してきたけど。とんだ伏兵がいたもんだな」
藤村 「ずっと前から食べたいとは思ってたよ。口には出さなかったけど」
吉川 「シュークリームもいいんだけどさ。怖い話は」
藤村 「怖がるよりも先にシュークリームが食べたかった。一番上位の欲望だった」
吉川 「そうなの? そういうつもりで言ったわけでもないんだけど」
藤村 「買ってきてはくれないの?」
吉川 「怖い話は?」
藤村 「それはもうどうでもいいよ」
吉川 「どうでもいいの? 結構こっちは聞く覚悟みたいのを整えちゃったんだけど」
藤村 「シュークリーム買う覚悟も整えてくれ」
吉川 「それは全然別の話じゃない? 怖い話だから覚悟を整えたのに。シュークリームとじゃ整える場所が違うのよ」
藤村 「結局なんなの? シュークリームは買ってきてくれないの」
吉川 「そんなにか? そんなに言うなら考えるけど、怖い話の行方を明確にしてくれ」
藤村 「聞きたいの?」
吉川 「正直に言おう。気にはなってる」
藤村 「シュークリームよりも?」
吉川 「シュークリームは全然気になってない。それはそっちの都合だろ」
藤村 「俺はもうすでに怖い話よりもシュークリームの話題の方にウエイトを置いて喋ってるけど、怖い話のほうが気になってるの?」
吉川 「お前にシュークリームを食べさせても俺は何も影響受けないじゃん。怖い話は俺に影響するでしょ。俺目線で考えてよ」
藤村 「ティラミスは?」
吉川 「スイーツの種類じゃないんだよ。食べ食べモンスターかよ。気になるって言ってるだろ。誰だって怖い話があるって言われたら気になるんだよ! 怖いのは嫌いでも気にはなる。その気を処理しないと気持ち悪いんだよ!」
藤村 「最後に公衆電話から着信があったんだってさ」
吉川 「なにそれ?」
藤村 「怖い話のオチの部分」
吉川 「オチの部分だけ? なんてことしてくれてんの? もう全部台無しになったじゃん。怖さも、ちょっとドキドキもハラハラも全部ないよ? オチだけでなにか解消されることはない」
藤村 「怖くはないだろ?」
吉川 「そうだよ。怖くないんだよ。怖さと向き合おうという俺の決意に対する冒涜だよ。更にオチだけ知っちゃって、どんな話か余計気になる上に、話を全部聞いたところで何も怖くも面白くもないという地獄みたいな状況だよ」
藤村 「すごい訴えるな」
吉川 「当たり前だろ。こうなったからにはどうにかしろよ! 順を追って。ちゃんと怖さはちょっと薄れるかもしれないけど、最大限に引き立てるように語ってくれよ。それがお前の責任だよ」
藤村 「わかった。じゃぁお前も責任を取れよ」
吉川 「心して聞くよ」
藤村 「あー、美味しい! この甘味がちょうどいい!」
吉川 「何だ突然」
藤村 「シュークリーム食べた時のオチ」
吉川 「策士!」
暗転
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